「葉書は手紙より強し」
① モチ子とコメ子
男前の徳さん、大工の徳さん、フリムン徳さん、泣かせの徳さんと、私はいくつもの名前を持って生きてきました。
数え切れないほどの職業を変えてきた証拠のようです。職業が変わる度に名前も変わったようです。だいたい、お客さんが名前を付けてくれました。お客さんは名付けの名人のようです。どの名前もその職業にぴったりでした。面白く、味のある名前で、私はどの名前に満足しています。
“男前の徳さん”はモチ子という、私の惚れこんだオナゴはんが付けてくれました。これは店の屋号として、大阪の電話帳の職業欄にも載せました。この名前はヒットしました。“商談は笑いの中で成立る”は間違いないと思いました。
お客さんから注文の電話があると、「はい、男前の徳さんですが」と返事をすると、電話の向こうのお客さんはほとんどが笑ってくれます。お客さんが笑ったら、90%は注文が取れました。あとの注文の取れない10%は私の名前にひがんで注文をくれなかったと思うことにしました。
儲けました。26歳独身で、一棟4戸の文化住宅も買ったほどですから。こんなことを口にしたら、人に嫌われるのはわかっているのですが、私はええ格好しいの人間ですから、ええ格好したいのです。
えらいすんまへんけど、ええ格好させてください。胸のうちで思っていればいいのに、口に出してしまうのです。ええ格好しいの証拠です。そして嫁はんに怒られるのです。ナンギな男です。続く