278-日本人の恥と信用問題 | ikoma-gun(フリムン徳さん)のブログ

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フリムン徳さんがアメリカで造った衝立、欄間、天井、日本間
「日本人の恥と信用問題」

 私は今日、えらく恥ずかしい失敗をしてしまった。

68歳になって、また行きだしたクエスタ・カレッジの

英語クラスでのことである。

この英語クラスは、金髪の別嬪さんもいっぱいおるだろうと

期待して行った英語クラスである。

でも、実際は、私の肌よりももっと黒い中南米のオナゴはんが

ほとんどであった。ここは英語を話すアメリカや。

アメリカの金髪の別嬪さんが英語を習うはずがない。

このクラスに金髪の別嬪さんがおるはずはなかった。

フリムン徳さんの早とちりであった。


 週に2日ある午前中のクラスの出席者は大体15名から20名である。

昼間のクラスだから、専業主婦で子持ちのオナゴはんが多い。

コスタリカ、エクアドル、ブラジル、フィリピーノ、メキシカンと

いろいろだが、大半はメキシコのオナゴはんである。

まだ小さな赤ちゃんを手提げかごに入れて、自分の横に置き、

赤ちゃんをあやしながら、授業を受けるメキシカン女性もいる。

たまに赤ちゃんがぐずつくと、「おお、私の生徒がぐずっている」と

言って白人の先生は笑わせる。

 気楽な英語クラスである。

クラスに来るのも欠席するのも自由。

それでも一応はカレッジの英語クラスのひとつである。

先生は優しいから何も文句を言わない。

カリフォニアの州政府の補助金で成り立っているから授業料は無料。

そのかわり、単位は取れない。

単位を取りたければ、授業料を払って受ける同じ内容のクラスが

昼間のクエスタカレッジに別にある。

それにしても、州政府は「金がない、金がない」と言いながら、



英語のできない外国人に無料で英語を教えてくれる。

アメリカはありがたい国である。

いや、アメリカの全州がそうかはわからない。

アメリカは州によって法律が異なるから、

カリフォニア州だけかも知らない。

でもよく考えたら、早く英語を覚えてもらい、いい仕事を見つけて、

働いてもらい、沢山のお金を使ってもらったら、

国や州の税金の収入が増えるからだろう。

 英語のクラスの学期が終わる頃になって、

マリアが丸い鍋を抱いて入ってきた。

彼女は子供のいるメキシカン女性で、もちろん、

この英語クラスの生徒である。

今日は彼女の誕生日とかで、朝9時から始まっているクラスに、

クラスの終わる12時前にやって来た。

家で、料理を作っていたようである。

マリアと何人かが、教室内の横にあるカウンターにメキシコ料理を並べた。

 カウンターの右端に使い捨ての紙皿、

その左に缶入りのペプシコーラが並んでいる。

缶の後ろにはペプシコーラが入っていた空き箱が雑然と置かれている。

ペプシの左には大きめの瀬戸物の皿に黄色い油揚げの

トリティアが盛られている。

さらにその左には直径40センチ、深さ40センチほどの

ステンレス製の丸鍋。

中にはセビッチェが入っている。

セビッチェはジャコウよりも小さな生の海老と

小さく刻まれたたまねぎ、酢、ライム、オリーブ油、

チリを混ぜたメキシコ人の好きな料理である。

これを硬いトリティアに好きなだけ乗せて、素手で食べる。

カウンターにナイフやフォークがないのがわかる。

 フリムン徳さんの教会で、礼拝の後、

よくやる料理の持ち寄りのポットラックは

もっと料理の種類が多い。

白人とメキシカンの料理の違いなのだろうか。

セビッチェをみんなで「おいしい、おいしい」と言いながら食べた。

特に白人の英語の先生はこのメキシカン料理が好きらしく、

口に入れる度に、「おいしい、おいしい」を連発し、

誰よりも一番多く食べた。おいしいという言葉の連発は、

「遠慮なく、沢山食べるよ」という意味のようである。

しばらく食べて、一人、二人と静かに教室を出て行った。

フリムン徳さんも頃合いを見計らって、

教室を出ようと立ちかけた時、斜め向かいの二人の女性が

財布から1ドル札やら5ドル札を取り出だして、勘定していた。

「何のための金勘定なのか」と少し気にしながらも、

「セビッチェ、サンキュー」と言って教室を出た。

 車に乗って、走り始めた途端に、はっと気がついた。

教会のポットラックとは違うのだ。 

あの二人の女性がお金を財布から出していたのは、セビッチェの代金だったのだ。

「徳さん、遅い! もう、歳やのう」。

金を払わないで食べる教会のポットラックとは違ったのだ。

「これはえらいこっちゃ、ただ食いになる、日本人の恥になる、

日本人の信用問題だ」。

頭がそわそわし出した。

アメリカに住んでいると、日本人の恥、日本人の信用は

一番気になる。

アメリカに住めば、一応フリムンの私でも日本人の代表である。

たった一人の日本人の私の行動は、日本人全部の行動とみなされる。

アメリカの山の中に住んでいると、それを常に意識する。

それは日本に住んでいる外国人も同じと思う。

35年以上もアメリカに住んで、アメリカ人になりきれない

原因はこの日本人の恥、日本人の信用問題という目に見えない

重いかたまりを心の中に抱えているからかもしれない。

 ちょうどいい具合に、すぐ近くに行き付けの

バンク・オブ・アメリカがあることに気がついた。

慌てて車をバンク・オブ・アメリカへ飛ばし、

ATMでお金を引き出し、クラスへ戻った。

まだ、先生と一人のメキシカン女性がいた。

「手持ちのキャッシュがなかったので、銀行でおろしてきました」と、

少しだけ値打ちを付けながら、10ドル札を渡した。

1ドル札2枚と、5ドル札1枚の7ドルのお釣りが返ってきた。

私は2ドルだけ受取って、5ドル札は戻した。

セビッチェの値段は3ドルだったのである。

8ドル払ったことになる。

5ドル札を受け取っておけばよかったのに、

ええ格好しいの自分に苦笑いをした。

メキシカンのマーケットで買うメキシコ料理のボリートが

7ドルちょっとだから、ボリートを買って食べたことにして、

日本人の信用を守ったことにしよう。

日本人の信用を守ったうれしさと、少ない年金生活の哀れさが

フリムン徳さんの胸の中で、踊ったり、跳ねたりしたひと時だった。

終り