前回の続き。
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『堂堂たる人生』 (1961)、 『青年の椅子』 (1962)は、いずれも石原裕次郎とコンビを組んだサラリーマンもの。
石原裕次郎の相手役といえば、夫人となった北原三枝だが、実は北原三枝の結婚引退が早かったので、芦川いづみさんとのコンビも多いのだ。
熱血で型破りな若手社員・石原裕次郎が、活躍しちゃいますという話で、その主人公とやり合い、やっつけるが、一方でしっかりフォローして心強い。そんなヒロインである。
『堂堂たる人生』で面白いのは、舞台が玩具メーカーだということ。
オープニングからして、汽車の模型が走るさまが描かれ、物語のキモとなるのも、煙を吐きながらポッポーッと走るおもちゃの汽車だ。
裕次郎とその相棒・長門裕之が、会社の危機を救えと、大阪へ金策に行かされるが、裕次郎たちの勤める老田玩具の社長・宇野重吉の行きつけの寿司屋の娘が芦川いづみで、OL(…当時はBGと言いました…)をやってみたい彼女は、老田玩具へ就職できたと親に嘘をついて、裕次郎たちに同行する。
そこで裕次郎たちは、行きつけのバーのマダムのパトロン・原大作(演:東野英治郎)に最初は間男と疑われるか?と戦々兢々だが、逆にすっかり気に入られ、200万円の投資を受ける。
一方、大阪行きの電車内で出会った友人の研究者が開発中のガスを「XYZガス」と名付けて、それを使ったおもちゃは確実に儲かりますよと、大阪の取引先玩具メーカーにハッタリをかけ、そちらからも融資を取り付けたが、実はその息子(演:藤村有弘)がそれを足掛かりに実業界へ打って出るという野心を抱き、先ずは老田玩具を乗っ取りにかかる。裕次郎たちは、その息子の妨害を振り切り、折しも来日していたアメリカの玩具王に、新規開発の煙を吐きながら汽笛を鳴らして走る汽車のおもちゃを売り込むことに成功し、会社の危機を救うというお話。
一方、『青年の椅子』は、山出しの営業部員の主人公が、冒頭、鬼怒川温泉で接待役に選ばれ、そこで酒癖の悪い取引先社長・東野英治郎を投げ飛ばしてしまい、上役から大目玉を食らうかと思いきや、直属の上司・営業部長の宇野重吉からは、男としての行動を認められ、当の取引先社長からは気に入られる。
やがて実直で賄賂を受け取ろうとしない宇野重吉を追い落とし、代わりに営業部長に成り代わってやろうと野心を燃やす総務部長の菱山と、社長の病気をいいことに、会社を我が物にしようと企む専務・田崎がつるんでいることを知った裕次郎は、田崎の会社の社員・山田吾一と意気投合し、東野英治郎社長の協力も得て、2つの会社内に渦巻く陰謀を一網打尽にしようと動き出し…という筋。
裕次郎の世話役に、有能タイピスト・伊関十三子が同士として活躍し、それが芦川いづみさん。
しっかり者のいづみさん、裕次郎から「母ちゃん」と呼ばれてる。
物語中で、東野英治郎社長からも、「いい嫁になる。もらうならああいう娘をもらえ」と太鼓判を押されているほど。
一方、悪の参謀・菱山の手先として、卑劣な画策を企てる嫌~なヤツに、またしても藤村有弘。
…こうして記すと、この2作、実に話のつくりも配役も似てるなぁ…。
それもその筈。監督こそ違えど、原作は共に源氏鶏太。
裕次郎の同志として、悪の陰謀に立ち向かう僚友が、片や長門裕之であり、片や山田吾一である位しか違いを感じない。
そういえば若かりし日の山田吾一氏は、『事件記者』シリーズのガンさんだが、私が最初にこの人の名を覚えたのは、あの田宮二郎の遺作となったTVドラマ版『白い巨塔』であった。
物語後半、裁判の重要証人として、当時の亀山婦長に証人に立ってほしいと、佐枝子(演:島田陽子)が家を訪ねると、えらい剣幕で「もう関係ないねん!わしらにもう構わんとってえな。こんなもん、持って帰ってくれ。え!お嬢さんよっ」と凄むのが、亀山婦長の結婚相手で、気難しい工員である、山田吾一氏演じる男であった。
殆どその場面しか出番がないが、強烈な印象として残っている。
悪徳野心家・総務部長の菱山以上に嫌な野郎なのが、取引先会社専務の田崎である。
インテリを鼻にかけ、表向きは善人ぶって聖人君子面しているが、裏ではバーのマダムを囲い、そのバーのカネを会社からチョロまかし、おまけに病弱の社長に成り代わるために、社長の娘と結婚しようとしている男だ。
役者は誰だろう?と調べてみたら、何と若かりし高橋昌也氏であった。
痩せているし、黒縁眼鏡で今一つ顔がわからなかったし、後の「江戸川乱歩・美女シリーズ」や大映ドラマの印象があまりに強すぎて、そのイメージとは全くリンクしなかったし…で、「まさか?」と思ったが、実際にそう書いてあるからそうなのだろう。
石原裕次郎との共演作としては、2年半前に詳しく記した『あした晴れるか』 (1960)や、 『乳母車』 (1956)、 『陽のあたる坂道』 (1958)のほうが遥かに有名だが、さすが映画の黄金時代。
楽しい作品はまだまだ見つかる。
葉山良二氏が準主役の『男なら夢をみろ』 (1959)も、裕次郎映画の一つだが、元は終戦後のチンピラ仲間だったのが、片や検察官、片やヤクザになっている。
兄貴分だった健太郎(演:葉山良二)は正義派検察官になった。
その恩人・小野寺刑事の忘れ形見で一人娘の由紀(演:芦川いづみ)は、ヤクザだが心優しい夏雄(演:石原裕次郎)にいつしか惹かれ始めている。
もはや住む世界が違うのだと、夏雄は、似合いの健太郎と由紀を結ばせようと、自ら手を引き、行方をくらませた。
3年の月日が流れた。今やヤクザ追及の先陣を切る健太郎は、ヤクザにとって目障りな存在となり、彼の暗殺が企まれるようになった。
健太郎と由紀の結婚式当日、式への参列を約束しながらも、殺し屋に拉致された夏雄は、健太郎を助けに脱出を果たし、式場へと向かい、すんでのところで健太郎を狙う殺し屋を撃ったが、自らも殺し屋の弾丸に倒れた。
裕次郎作品は、今、DVDマガジンが刊行中で、かつてないほどの数が出ようとしているので、安く手に入れる絶好のチャンスである。
かくいう私も、このシリーズのお蔭で、念願の『あじさいの歌』 (1960)の入手が叶った。
裕次郎作品のDVD-BOXのプレミア価格が付いたものに手を出すのも憚られる。一度新百合ヶ丘のBOOK OFFで見つけた時は、一瞬狂喜したが、外箱なしで2万円近くもし、裕次郎ファンでもないのに『あじさいの歌』1作だけのために大枚はたくのも馬鹿らしく思え、やめにして本当によかった。
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『嵐を呼ぶ男』 (1966)。
これはホームページを見た時、当初、あまりに有名な裕次郎版だと思ったが、こんなリメイク版があったのか…と驚いた渡哲也版のほう。
これももうすぐDVDが出る。
芦川いづみさんは、裕次郎版にも出ているが、こちらではジャズ楽団のマネージャー・美弥の役。
裕次郎版では、「美弥子」となっているが、演じたのは北原三枝で、この辺り、看板女優の移り変わりの様子がよくわかる。
裕次郎版で芦川いづみさんが演じていたのは、主人公の弟・英次を慕う娘・みどりの役。
渡哲也版では、弟の夢がオートレーサーに変わっており、彼を慕う娘の名も阿矢と変わり、演じたのは若かりし由美かおる。
弟・英次を演じたのは、裕次郎版では青山恭二だったが、渡哲也版では、若かりし藤竜也氏。
芦川いづみさんのご夫君であられることは、この文章をお読みの方には無論、説明不要でありましょう。
若かりし日の藤竜也氏といえば、もう少し後の『野良猫ロック』シリーズのような、チョビ髭の不良というイメージしかなかっただけに、もっと前の、本作のような純朴青年役もあったのか…と感心。
渡哲也&藤竜也兄弟を女手一つで育て上げた母を捨て、家を飛び出した“ろくでなし”の父親は、歌舞伎町でヌードスタジオの親父に収まっていたが、それがまたしても宇野重吉。
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宇野重吉つながりで、やはり『いのちの朝』 (1961)にも触れておく。
売れない偏屈な画家・小次郎(演:宇野重吉)を父に持つ保険外交員の冬子(演:芦川いづみ)は、父の個展が開かれるのを機に、100号の大作のモデルを務めることになるのだが…という筋。
その大作は、朝の縁側を描いたもの。
浴衣姿の娘が雨戸を開けたら、目の先に朝日がまぶしく差し込んでき。その瞬間を描いた清々しい作品。
幾ら画家の娘とはいえ、絵のモデルの心得などあるはずもなく、絵のことになると妥協を許さぬ頑固親父の父に「馬鹿ッ!」と怒鳴られ、いたたまれなく引っ込んでしまう。
代わりにひょいと顔を覗かせたのは、冬子の母すなわち画家の妻。
頑固な夫をたしなめながら、雨戸の内側を見やると、娘がしくしく顔を覆って泣いている。かわゆい。
破門にした元弟子・沢辺の動向が気になり、モデルに集中できない娘の様子にいら立ちを見せ、描きかけた100号のカンバスを十字に引き裂いてしまったのを見て、冬子は父の画室を訪ね、「バカ、バカ、バカ」と拳固で父の背中を叩く。
最後、大作を仕上げ、個展は大成功を収め、絵は高値がついた。
その偉業を素直に認め、褒め称える親友の商業画家にして評論家。
成功に奢ることなく、小次郎は手にした大金をそっくり妻に託し、その労をねぎらう。自らは近所へスケッチに出、普段と何も変わらない。
そんな父を誇らしく思い、迎えに来る娘。
芦川いづみさんの可愛らしさと健気さがひときわ印象に残る作品。DVD発売は実に嬉しい。
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『その人は遠く』 (1963)、 『白い夏』 (1957)は、いずれも純真な青年が仰ぎ見る憧れの存在としての芦川いづみさんが印象に残る作品。
『その人は遠く』は、主人公の青年の、憧れ、恋心、落胆、苦悩、期待、幻滅、戸惑い、決心と、さまざまな感情に揺れ動くさまが実に丁寧に描かれる。
一方の『白い夏』は、純朴青年が高嶺の花に淡い憧れを抱きつつも、周囲からの誤解と悪意に挫折を感じ、舞台から立ち去る。
いずれも青年とヒロインとの別れのシーンで幕は閉じる。
『その人は遠く』のラスト、単身九州へと向かうヒロインの頬をツツーッと伝う涙が余韻を残す。
『白い夏』の穢れなき明るく手を振るヒロインの姿も、それに劣らす印象的だ。
『その人は遠く』だけでなく、『白い夏』も是非DVDを出してほしい。
(これだけ写真を撮り忘れたので、前回特集時のものを再掲)
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掉尾を飾るのは、代表作といってよい『硝子のジョニー 野獣のように見えて』 (1962)。
知恵は足りないが純真無垢で清らかな娘と、彼女の救世主と目された流れ者、元は娘の人買いだった男の逃避行。
稚内の貧しい漁村から、人買いに売られる薄幸の娘・みふね(演:芦川いづみ)。途中で逃げ出し、汽車に乗り込むも、無賃乗車を咎められ、なすすべもない。そんな彼女の窮地を助けてくれたのが、流れ者のジョー(演:宍戸錠)。
元は腕のいい板前だったが、競輪選手に入れ込み過ぎて、競輪の予想屋で何とか生計を立てている。
函館に流れ着いたジョーを慕いくっついて離れないみふねを、ジョーは行きがかり上、面倒を見ることになる。
競輪選手にカネをねだられ、ジョーは何とか工面しようとするが、うまくいかず、誘惑に負け、みふねを騙して売春宿へ売り飛ばしてしまった。
何の疑問も抱かず、ジョーが迎えに来てくれることを信じてやまないみふねのもとへ、人買い(演:アイ・ジョージ)が姿を現し、みふねは連れ去られるが、人買いを恨みに思う男に刺され、人買いは入院してしまう。
人買いから逃げ出すチャンスは幾らでもあったのに、みふねはそうしようとはしない。
人買いは自分の元を去った妻の消息を求め、病院を脱走。
漸く探し当てた元妻から拒絶され、無常感ゆえか、いつしか人買いはギターでメロディーを奏でるロマンティックな男になっている。
一方、みふねを捨てたジョーは、競輪選手に裏切られ、再び函館に舞い戻り、板前に戻っている。心に空しいぽっかりとした穴が開いている。
1人になったみふねは、大変な苦労の末、故郷の稚内へ戻るが、母と妹たちは既に家を引き払い、行方知れずになっていた。
絶望の淵に立たされたみふね。
一方、吸い寄せられるようにジョーと人買いもまた、稚内へやってきた。
だがそれと入れ違いに、みふねは海へ足を踏み入れ、彼らがみふねの生家を訪ねた時、既に彼女の姿はなかった。
フェリーニ監督の『道』を思わせる、何ともいえない無常感漂う作品。
頭は弱いが、人を信じて疑わぬ純粋無垢なみふねの明るさが、余計に寂しさを抱かせる。
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会場には漫画家・江口寿史氏の手によるイラストをあしらった非売品のTシャツが展示されていた。
上映期間中、特に土曜日は毎回ほぼ満席の大盛況であった。
結構な年の私でさえ、ここでは若造といえるほど、ご老体が大半を占めていた。
今の映画では決して味わい得ない、素直で純粋な気持ちが滾々と湧き上がってくる。
そして画面に登場しただけで、何ともいえない清々しい、心洗われる思いがする。
そんな女優はそうそういない。
かつて俳優はスターで、庶民からすれば仰ぎ見る存在で、別の世界に生きる存在だった。
現在のように、お笑い芸人のトークとやらに乗せられ、女優といえども大口開けて笑い、私生活を自ら曝け出し、それを「等身大」とか「身近になった」とかと勘違いしては、番宣にいそしむ。決してそんな存在ではなかった。
勿論、俳優だって役者だって、一人の人間だ。
それは昔も今も変わらない。
作られた偶像、虚構の存在という要素は十分ありうる。
しかし、誰しもが容易に発信でき、表現者たり得、スターとの垣根が低くなっているように見える一方、少なくとも見かけ上はお笑い芸人の顔色を窺い、少なくとも見た目はそこらに同程度か場合によってはそれ以上の者が一般人として幾らでもいそうな雰囲気を纏う。
我々視聴者にとって、どちらが有難く、幸せなことなのだろうか。
今回、毎度上映前に、現在の芦川いづみさんの肉声の録音が流れた。
さすがにスクリーンで微笑む姿のイメージ通りにはいかない。
何せ引退してから既に50年だ。
まだ若い時分にすっぱりと引退し、以後、公の場に一切姿を見せなくなった元女優の現在の姿は想像を巡らすしかない。
弱弱しさを感じるものの、客にお元気でお過ごし下さいねと気遣ってくれる声から、幸せで穏やかな年の重ね方をして来られたのだろうと信じてやまない。
何でも目に見えて、発信されてしまう今の世の中のありようからは決して得ることのできない甘やかな想像というか淡い夢というか、もしかしたら幻影を、感じずにはいられない。
それは丁度、『白い夏』や『その人は遠く』で、主人公の青年が憧れの女性を仰ぎ見る感覚に似ているかもしれない。
以上、一部敬称略。
















































































