3月下旬から5週間に亘り、芦川いづみ特集上映を神保町シアターでやっている。

これは「芦川いづみ デビュー65周年記念」と銘打ち、日活から全10作が、今月と来月の2回に分けてDVDが発売されるのを機に組まれた特別企画である。

神保町の後、大阪・九条のシネ・ヌーヴォでも、引き続き特集上映が予定されており、東京とは上映作品が一部異なるようだ。

神保町で今回上映されているのは全20作。

今から2年半ほど前の夏、『恋する女優 芦川いづみ』第3弾が組まれ、上映された12作を全て観た。

その時の模様は、当時、2度に分けて詳しく記している。

2016.7.27『恋する女優 芦川いづみ』

2016.7.28『恋する女優 芦川いづみ』続

その後、各名画座やスカパー!などにより、他の出演作品の視聴経験をそれなりに得た。

2ちゃんねるなどを読むと、コアなファンが多く、「懐かし邦画」のスレッド内で、特定の女優を扱った掲示板としては、活発に、又大した“荒らし”もなく、健全な内容であり続けてくれているようだ。

そうした先輩諸氏、猛者連中に比べると、まだまだ勉強中の身。

未見作品も多い。

ソフトを手に入れた作品、何度も劇場で観た作品、BDに録画しライブラリーにできている作品、それらに加え、そもそもがDVD発売記念の今回特集なので、劇場でどうしても観なくても他の手段で補完できるタイトルが実に14作もあった。

時間も費用もかかるので、当初は適当に間引こうかとも思ったが、結局20作の内、既に幾度もDVDで観て、個人的にあまり気に入っていない『誘惑』以外の19本は観に行った。

かなり最初の時点で、コンプリートからは離脱したので、今回スタンプラリーには最初から参加していない。

 

今、改めて2年半前の記事を読み返してみると、今回の特集上映と重なっているものも結構多い。

 

『いのちの朝』 (1961)

『あした晴れるか』 (1960)

『その人は遠く』 (1963)

『白い夏』 (1957)

『硝子のジョニー 野獣のように見えて』 (1962)

 

である。

これらはその時、詳しく記した。なるべく繰り返しは避けたいと思う。

 

以下、印象に残った作品を中心に述べてみたい。

 

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DVDの発売が控えてはいるが、今回最も観られてよかったと思ったのは、『佳人』 (1958)である。

物語は大学生のしげる(演:葉山良二)が、兵役に就くため、郷里である山陰の城下町へ汽車で向かう場面から始まる。

しげるの回想が始まる。

その女(ひと)の名はつぶらといった。

格式ある名家の出格子の硝子窓越しに、いつも窓辺の肘掛椅子に腰かけ、静かにこちらを向いている。

彼女は小児麻痺を患っており、自分の足で歩くことができない。

小学生のしげるは、そんなつぶらの元へ足しげく通い、唯一の仲の良い友達として、一緒に蓄音機を聴いたり、本を読んだりして過ごした。

つぶらに対するしげるの想いに嫉妬した、豆腐屋の娘で上級生の・時江は、しげるを誘惑しにかかるが、しげるのつぶらへの献身は揺らぐことはなく、やがて早熟な時江は、料亭の息子で、つぶらの兄の同級生・太刀雄と駆け落ちを果たす。

長じて尚、又戦争が始まっても尚、不幸な佳人へのしげるの純愛は変わらなかった。

…大学生のしげるを乗せた汽車は郷里へ着き、入隊を前にしげるは久方ぶりにつぶら(演:芦川いづみ)の元を訪ねるが、互いの想いを打ち明ける間もなく、しげるは出征し、表で響く「バンザーイ」の声を、つぶらは陰気な屋内で一人耳にするしかなかった。

戦争を経て、商才に長けた太刀雄(演:金子信雄)はその財力を増し、一方つぶらの家は戦争で父も兄も喪い、太刀雄の援助なしには維持できなくなっていた。

一方、しげるはつぶらにもらった石を心の支えに、苛烈な戦火のもと生き延び、終戦を迎え、漸く故郷へ復員してきた。

その日はまさにつぶらの嫁入りの日であった。

太刀雄に金で買われるように嫁ぐことになったのであった。

どうすることもできないしげるは、街で時江(演:渡辺美佐子)と再会した。時江は太刀雄と駆け落ちした後、早々に別れ、故郷へ舞い戻り、今では芸者になっていた。

大人同士の関係を時江はしげるに持ち掛けるが、しげるの今なお変わらぬつぶらへの想いに打たれ、嫉妬深い太刀雄によって出入り禁止を申し渡されたしげるに代わり、つぶらのために尽くすことを約束した。

料亭の主人になり、益々羽振りのよい太刀雄は、芸者と毎夜浮気に身を窶すが、つぶらは耐えるしかない。唯一の味方であった母も、心労で早世してしまった。

時江は芸者をやめ、太刀雄の料亭の傭われ女将として住み込み、つぶらの母に代わり、世話を焼くようになった。

太刀雄の暴虐ぶりはエスカレートし、つぶらを無理やり自分の寝室に寝かせ、その目の前で引っ張り込んだ芸者と痴態の限りを尽くしては、つぶらに見せつける日々。

時江は身体を張って、つぶらを守る。

東京で大学を卒業したしげるは新聞社に就職した。

久しぶりに帰郷したしげるは、時江の計らいで太刀雄に内緒で料亭を訪ね、つぶらと再会する。

しげるはつぶらに東京へ一緒に逃げようと懸命に訴えるが、つぶらは静かに首を振った。

その翌朝、時江がしげるの元へ急を告げに転がり込んできた。

つぶらは自らの命を絶ったのであった。

逢いたがっていた人に逢えて、その変わらぬ想いも伝えられ、もうこの世に思い残すことはない。

そんな佳人の悲しい人生の幕引きであった。

 

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芦川いづみさんの演じた役柄は大まかに言って、次のように分けられると思う。

 

・純真で健気な娘

・薄幸の美女

・青年が仰ぎ見る憧れの女性

・無国籍アクションものの主人公の翳のある恋人役

・主人公をやり込める気の強いしっかり者の娘

・周囲に流されず地に足をつけた堅実な女子大生

・結婚を真剣に考え、これからの生き方に真剣に悩む若い女性

・ヒロインを支える姉や同級生

 

他にもあるとは思いますが…。

時代が今とは全く違うので、本作のような真面目な文芸作品も数多い。そうであればこそ、薄幸の美女役も回ってくるのだが、『佳人』のヒロイン役は、その最たるものだと思われる。

やり手で財力に富むが、人でなしの暴君というのは、物語における憎まれ役として、類型的だと思うが、本作では、宇野重吉氏演ずるつぶらの父親も、結構心無い言葉を投げかける人物で、他作品でよく見かける朴訥だが温かみのある人物像とはかけ離れている。

そんな中、最初は2人の純愛に嫉妬する意地悪少女だった時江が、物語後半、擦れた芸者として再登場し、性悪になるのかと思いきや、主人公の変わらぬ純粋な想いに心打たれ、薄幸のヒロインに尽くす味方に転じてくれるほどに、まともな人だったことが、この悲しい物語の数少ない救いであろう。

 

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『青春怪談』 (1955)は、近年ちくま文庫を中心に復刊が続いている獅子文六のユーモア小説が原作。

新東宝でも同年映画化されており、競作となった作品。

こちらは当然日活版で、監督は市川崑が務めた。

芦川いづみさんの役は、シンデという脇役で、バレリーナのヒロイン・千春(演:北原三枝)を“お姉さま”と慕う、今の言葉でいうと不思議少女。

言うなれば怪演で、新人当時ならではの役といえようが、何故今回の「DVD10作」に選ばれたのか不思議である。

“芦川いづみ出演作品”という切り口なら、他に幾らでもあるだろうに…と思う。

轟夕紀子さんの太ったママが絶品で、主役の三橋達也氏よりも、その相手役で素晴らしいプロポーションの北原三枝さんよりも、その父親役の山村聰氏よりも、私は本作は“轟夕紀子映画”だと思ってしまうのである。

 

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『その壁を砕け』 (1959)は、主人公の冤罪を晴らすべく懸命に奔走するヒロインというのが芦川いづみさんの役どころだが、後に『青春を返せ』 (1963)という、とてもよく似たシチュエーションの作品があり、そこでも同様の役を演じている。

異なるのは、『その壁を砕け』は主人公・小高雄二氏の恋人役で、最後、恋人の冤罪が晴れ、ハッピーエンドに終わるのに対し、『青春を返せ』のほうでは、主人公・長門裕之氏演ずる木工職人の妹として、兄の冤罪を晴らすべく懸命に奔走し、遂には兄の無罪が証明されたにもかかわらず、その寸前、重要証人の幼い娘を庇って砂利トラックにはねられ、命を落としてしまう悲劇的結末になっていることである。

 

『その壁を砕け』は中平康監督作品である。

今では入手困難になってしまったDVD-BOXの3作品の内に入っている『誘惑』 (1957)や、今回の10作品の1つである『学生野郎と娘たち』 (1960)も中平監督作だが、“芦川いづみ出演作品”としては、本作こそソフト化されてしかるべきだと思う。

前者は芦川いづみさんに限って言うと、回想シーン位しか見せ場がなく、物語自体もモダンでお洒落ではあるが、登場人物が多く、物語が散漫に思えてならない。

後者は女子大生たちの一人だが、鼻持ちならぬボンクラ息子に手籠めにされて、売春婦に身を持ち崩した挙句、仇の馬鹿息子を彫像で殴り倒し、自らもガス自殺を遂げるという不幸な役。しかもそれが、理屈ばかりで心に温かみのない仲谷昇氏演ずる大学総長に、大学の一方的な改革の非を訴える方便としてしか物語中機能していないという、芦川いづみさん視点で言えば、救いようのない役柄とさえ言える。

結局、『学生野郎と娘たち』目立つのは、ケンケンと激しい自己主張を繰り返し、最後まで台風みたいな中原早苗さんのほうである。

 

『その壁を砕け』、『青春を返せ』も、芦田伸介氏が一見強面の頑固親父だが、実はヒロインを温かく迎え、支えになっていく役で出ている。

長門裕之氏も、片や功名心にはやり、誤認逮捕を犯すが、最後は自らの判断ミスを疑い、真実の追求に走る警官役、片や誤認逮捕される張本人の朴訥な木工職人役(~小林旭主演の『さぶ』を思わせる~)と、役柄こそ違えど、両方に出演しており、ヒロイン・芦川いづみさんのひたむきさと共に、益々作品のイメージはダブるばかりだ。

 

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この辺で少々駆け足。

 

『霧笛が俺を呼んでいる』 (1960)、『青い街の狼』 (1962)はいずれも無国籍アクションの、主人公の相手役。

『霧笛―』は、何度もコンビを組み、実際に恋仲だったと言われる葉山良二氏が、主人公・赤木圭一郎氏の敵役で出ているが、かつての親友で、命を落としたはずが、実はそれは見せかけで、裏で麻薬密売の首魁となっていたというもの。

芦川いづみさん演ずるヒロインは、その葉山氏の恋人だったという設定。従って主人公・トニーからすれば、亡くなった無二の親友の恋人だった女性ということになり、翳のあるヒロインとなっている。

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『祈るひと』 (1959)、 『風のある道』 (1959)は、いずれも今回のDVD化作品。

芦川いづみさん演ずるのはいずれも、結婚を真剣に考え、これからの生き方に真剣に悩む若い女性。

その相手候補として登場するのがいずれも小高雄二氏で、片や身勝手で強引な見合相手として、片や華道の後継者でセレブの婚約者として登場する。

前者は他の真剣に向き合うカップルたちの姿を目の当たりにし、ヒロインが「この人とは結婚できない」と見切りをつけ、後者は精神薄弱児施設で教師をしている貧しいが純朴な青年(演:葉山良二)の登場で、心が揺れるも、周囲からのプレッシャーで結局華道後継者との道を選びかけるが、土壇場で教師を選ぶという筋。施設の教師を狙っていた妹が、最後は姉の後押しをする役を担っており、この辺りに一昔前の文芸作品の登場人物ならではの良心を感じる。

父親の大坂志郎氏がどうやら娘の本当の気持ちを理解していたようで、打算と見栄から、娘をさっさとセレブのもとへ片付けようと迫る母親の方が、娘思いでないようにも見える。

 

『祈るひと』では、ヒロインの出生問題が絡んでいる。世間的には有名学者だが、家庭では冷淡で温かみのまるでない父親、その死後、奔放な振る舞いに思えてならない月丘夢路演ずる母への反発、その愛人(?)役として、またしても“憎まれ役”・金子信雄。

物語中盤、ヒロインが手伝いに通うようになる佐々木教授は“冷血動物”の父とは対照的な人間味溢れる人柄で、演ずるは宇野重吉。

『佳人』では、わが娘を恥さらし呼ばわりする冷酷な父親役だったが、宇野重吉氏といえば、本作のような朴訥だが、人間的温かみを感じさせる役柄のほうがなじみ深い。

その父が、実は外面がすごく良く、登山や植物の趣味があり、学生にも慕われていた人物だったということを、佐々木教授に示された学術雑誌によって、父の死後初めて知る娘。

それもひどい話だが、世間体とか見栄とか体面とか、そういったものにだけ重きを置いて、家庭を振り返らず、「稼いでやってるんだからいいだろ」的な男性像が垣間見えるが、そこは物語。妻の不倫を疑い、娘との血のつながりを疑い、人知れず苦悶していたのだという、“冷血動物にも一部の理”が与えられてある。

 

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『真白き富士の嶺』 (1963)は、どちらかといえば吉永小百合さん演ずる妹娘と、日活青春映画で吉永さんの相手役だった浜田光夫氏演ずるヨット青年の純愛がメインの話。

芦川いづみさんはその姉の役。

長年住み慣れた逗子の屋敷を引き払うところから物語は始まる。

今では座り主を失った籐椅子がポツンと庭に忘れられ、それを見つけた姉が回想するという構成。

 

先に取り上げた2作では、結婚を意識する相手でいながら、いずれもヒロインに振られる、ちょっと嫌味で鼻持ちならない強引な男という役柄だった小高雄二氏だが、本作では姉の心ある婚約者となっている。

 

不治の病に侵され、最後はその命を散らす吉永小百合と、彼女の心の支えになる純朴青年・浜田光夫という組み合わせは、『愛と死をみつめて』 (1964)などと同じだが、“M.K.”なる謎の人物からの手紙を心待ちにする妹、しかもその仲が結構進んでいるらしい様子に、姉はやきもきさせられ、「もしかしてM.K.?」と疑ったヨット青年もイニシャルが違う…と見せかけて、実は何らかのトリックがあって、やっぱりM.K.イコール浜田光夫なのでは?と思いながら見ていたが、実は…という話。

これも現代では到底あり得ないような、純真で回りくどい文芸作品なのだが、逆に言うと、直接的な通信手段が蔓延る現代は、純文学が成立しがたい詰まらない時代なのかもしれないと思う。

 

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『若草物語』 (1964)は、ご存じ4人姉妹の話だが、芦川いづみさんは長女で既婚者。3人の妹たちの世話を焼く役どころ。

本作も、物語の主軸は二女・浅丘ルリ子に見せかけて、実は三女・吉永小百合である。

何となく、浅丘ルリ子さんのほうが芦川いづみさんよりお姉さんに見えてしまうのは気のせい?

浅丘ルリ子が、幼馴染で、かつては子分と従えていたのが、今はTVニュースのカメラマンになっている次郎(演:浜田光夫)と恋仲になり、一方、年下の大学生だが金持ちの息子でボンボンの圭一(演:和田浩治)からも言い寄られ、揺れる女心…。

その次郎のことが好きな三女・吉永小百合は、次郎を蔑ろにしているとしか思えぬ姉に怒りを覚え…。

最後、迷いを吹っ切ってもらおうと雨の中、社にやってきた浅丘ルリ子を袖にして、次郎は事故現場へと向かってしまい、結果、ルリ子はボンボンのほうを選ぶ。

振られた次郎は、酒を呷りながら、ルリ子の気持ちも分かると、理解を示しているのか、負け惜しみを言っているのか…?

ルリ子姉が新婚旅行に空へ向かうため、羽田へ見送りに来た吉永小百合は、同日、次郎が瀬戸内へ単身撮影旅行へ発つときき、後を追っかける。

すぐには受け入れてもらえないかもしれないけれど、とりあえず私は一緒に居たいのヨ。

 

…それにしても、浜田光夫と和田浩治って似てるよなぁ…。

入れ替わったって、見た目じゃ区別がつかないゾ…。

声としゃべり方で辛うじて識別できるという有様。

 

開業間もない東京モノレールの旧型車両がカラーで出てくるし、最後は山陽本線直通の急行「よど」に、非冷房時代の153系電車が出てくるのが、鉄道好きとしては堪らんが、本作に限ったことではないが、何故新性能電車なのに、猫も杓子も釣りかけ駆動の「ぐも~」って効果音を被せるのだろう?

次郎はまだまだ駆け出しのカメラマンに見えるのだが、その割にはグリーン車に乗っており、何だか身の丈に合っていない気も…。

 

“北極おばさん”になる前の、若き日の和泉雅子さんが末娘役で出ているが、ふっくらした丸顔の少女といった感じで、まだ初々しい。

近藤正臣氏との逃避行を演じた、TV時代劇『斬り抜ける』の若き武家の奥方役が、個人的には一番印象深い。昔は美人で清純派女優でした。

 

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字数制限のため、一旦おしまい。

次回へ続く。

以上、一部敬称略。