重松清氏の小説の話ではない。
今から13~4年ほど前、NHK総合テレビで1年ほど放映されていたTV番組の話である。
視聴者から懐かしい思い出話と、それにまつわる歌を募り、思い出部分を毎回違った漫画家がカラー漫画にし、エピソードとして紹介する内容であった。
Wikipediaにも放映時間は載っていないが、夜10時45分から始まる15分のミニ番組だった。
漫画家によって絵柄は大きく異なるし、取り上げられる歌も、明るいのや切ないのや色々だが、やはり青春のほろ苦さ、哀しさが感じられる回が個人的には印象に残った。
エピソード、歌、絵柄、この三者がピタリとマッチした時、何とも言えぬ切なさを覚えたものだ。
最初に魅かれたのは、まだ暑さが残る9月の、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」の回だった。
投稿者は女性。確か中学時代の憧れの若い女性の先生の家へ遊びに行った時に聞かせてもらった歌がこの歌で、卒業後、数年経ち、その先生が病気で家で療養しているときいて見舞いに行くと、浴衣姿の弱々しさを感じさせる姿で先生は迎えてくれた。
その時も聞かせてくれたのが「時の過ぎゆくままに」。
…大人への階段を上りかけている「私」は、この歌と先生に、まだ見ぬ大人の世界への期待と少しばかりの不安を抱いた。そんなエピソードだったように思う。
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翻って私自身にとり、「あの歌」は何だろう?
そう自問した。
人生の節目、転換点、或いは黄金時代を象徴する歌は幾つか思い当たる。
だがその時頭に浮かんだのは、渡辺美里の「マイ レボリューション」であった。
全国指折りと、これだけは自負できる超難関高に入ると同時に、今度は大学受験へのレールが敷かれ、今度はそこに向かえという不文律があったが、生徒たちの自主性に任せるといえば聞こえはいいが、「君たちは優秀だから」と妙な買い被り方をされ、その実手抜き授業を繰り返す無責任な教師の授業にすっかり嫌気がさした。おまけに無責任教師は母親たちに「女、ギャンブル、アニメに嵌まらなければ大丈夫」とのたまい、それを真に受けた母から、当時「キャッツ・アイ」や「うる星やつら」に傾倒していったのを咎められ、余計に反感を抱く。
幼少期からの趣味であった鉄道は、この時期、国鉄の末期で、妙ちきりんな改造国電やジョイフルトレインが乱発し、それまでの重厚長大さが失われ、ずっと買い続けていた「鉄道ファン」という雑誌も買うのをやめるなど、何をやっても詰らないと感じ、成績は下がる。授業をサボることを覚え、周囲から不良扱いされる。
随分と荒んだ気持ちでいたものだった。
年が変わり、高3が近づくと、流石に大学受験を意識し始めたが、何からどう始めたらいいのかわからず、苛立ちが募る。焦りと不安だけが嵩んでいった。
そんな年の春、ヒットしたのがこの歌だった。
「マイ レボリューション」――—勝手に“自分革命”と直訳し、兎に角がむしゃらに荒っぽくてもいい。緻密でなくてもいい。ひたすら目の前に迫りくる難敵に立ち向かい、蹴散らさねばならない。
自らを精神的に無理やりに鼓舞し、手前味噌だが、なりふり構わず猛勉強を始めた時の、テーマソングとして、この歌が何度も何度も頭の中で流れたのだった。
余談だが、この歌を作曲したのは小室哲哉である。
TKと称される前、更にはTMネットワークの「GET WILD」で大人気を博すよりも前の仕事である。今でこそ悪く言われ、すっかり時代遅れのように扱われる氏だが、人の心を揺さぶるものを生み出したことには間違いない。私は決して氏の仕事までも否定する気にはなれない。
暫く後、実際にこの番組でも「マイ レボリューション」が取り上げられたが、思い入れの強い分、失礼ながら、番組中で紹介されたエピソードは、自らのどん底状態から這い上がった経験に比べれば大した話ではなく、やけに軽っちいものに思えた。
だから、「時の過ぎゆくままに」を消してしまったことを悔やんだ後、レコーダーのHDDに気に入った回だけ残し始めていった中からも、「マイ レボリューション」は漏れている。
…まぁそんなことを思うのは、当の本人だけであって、私自身の“思い入れエピソード”も、シニカルな目で突き放して見てみれば、恵まれたお坊ちゃんのワルぶりっ子、遅れた“反抗期”でしかなかったのかもしれない。
だが、それでも、今でもあの前奏曲を耳にすると、当時の「まだ何者でもない」自分が、懸命に何者かになろうと、必死に正体のわからぬ「何か」への脱皮を試みてもがいていた頃の、不安と、そこに差した一筋の光のようなものに、訳知らずわくわくし、すがりつこうとしたことが思い出される。
そして、当時の気持ちのひとかけらが甦り、途轍もなく懐かしい気持ちになる。
「大丈夫、最善ではないかもしれないが、きっと何とかなるよ。」
当時の自分に語りかけてやりたくなる。
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そんな折、忘れられないエピソードに巡り会った。
オフコース「生まれ来る子供たちのために」の回である。
YouTubeで検索したら、奇跡的に、この回の漫画部分だけをアップロードして下さっている方がいた。
何年か前の深夜、それを見つけ、久しぶりに動画を再生してみたが、自分でも恥ずかしいほど、ボロボロと涙が零れ落ちた。
論より証拠。ご紹介する。
「夏子の酒」の尾瀬あきら氏の手による、内省を怠らずどこまでも誠実に患者と向き合う若き研修医の人柄。
心の奥底で死を覚悟しながら、辛さを表に出さず、明るく気丈に振舞う若き女性患者の清冽な生きざま。
手元に残った「あの歌が聞こえる」の8回分のエピソードを録ったDVDを探し出し、見返してみた。
恋人との別れ、大切な人との死別。
そんなエピソードがやはり心に残る。
だが、この回は特別だ。
何というか、この世に生を享け、今、こうしてものを考え、感じていること。それも命あってのことなのだが、その命もやがて尽きてしまう。
どんな偉い人も、どんな目立たない生き物も、全ての生命はいつか尽きる。
そしてまた新たな生命が誕生する。
生と死の営みの連鎖。
そうした深遠で哲学的なものを感じたのであった。
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今、コロナ禍で、普段ならどんなところへ出かけよう?何をしよう?
そんな当たり前の日常が、根こそぎ失われ、多くの人が普段と違う連休を過ごしていることだろう。
そして、予想だにもしなかった命が、予想だにもしないタイミングで、突然失われ続けている。
人との接触を意識せず、楽しく過ごせた日々を、この歌の「あの頃」になぞらえ、「あの頃に帰りたい」などとチープで甘えたことは毛頭言うつもりはない。
人の生死を嫌でも意識し、覚悟せねばならぬ今、命の重みというものを考え直してみる意義がある。
そして、今日はこどもの日。
最初に敢えて反感を買うことを書くが、私は子供が嫌いだ。
可愛いと思うのは赤ちゃんの時だけ。
後は「きぃ~~~~~~っ」と奇声を張り上げ、所構わずドタドタと地団太を踏み鳴らし、騒ぎ立て、喚き、泣き散らす。
そんな奴らを可愛いなどと思えるほど、私の心は大らかではない。
それにも増して、そんな無節操な奴らを生み、育てているというだけで、偉いもののように傍若無人で身勝手に振舞う、優遇されて当然と思いあがる、社会性を欠いた、子供の親たちがもっと嫌いだ。
「子供が大事」などと口ではのたまいながら、ベビーカーに乗せたまま目も配らず、何がそんなに大事か知らないが、スマートフォンばかり見ている今どきの親の大半がものすごく嫌いだ。
どうせ子供のご機嫌伺いばかりして、碌に躾もせず、勝手放題なのだろう。
そんな無法連中を「社会の宝」だなんて絶対に思えない。
碌な躾もされない者が、身体だけ大人になっても、年金を収め、巡り巡って自分の年金を担ってくれる層になるとは思えない。
いずれ年金制度は先細りあるいは崩壊に至ることだろう。
私はそう悲観している。
…そんな私が敢えて言う。
子供を持つことになったのならば、せめてこの社会に於いてやっていいこと、悪いことをきちんと教え、少なくとも成人するまで、食事を与え、危害を加えず、守ってやらねばならない。
虐待なんてとんでもない。
生んだ以上、責任をとるべきだ。
この連休中、巣籠り生活のあおりで、萩尾望都の「残酷な神が支配する」を読んでいる。
「海外が舞台のサスペンスもの」程度の認識しかないまま、読み始めたのだが、主人公の少年は、母親の再婚相手の富豪即ち義父に、実は夜な夜な歪んだ性的欲望の対象にされ、虐待どころか蹂躙され続ける。
そして少年は、夫を善人と信じ切っている母親が、捨てられてしまうのを恐れて、母親にも誰にも、自分のされていることを訴えられず、一人、義父の鞭に耐え続けている。
…こんなことをするのは人間だけだ。
どんな他の生き物だって、子育てこそせず、放置するものはあれど、知能が増せば増すほど、子を庇護し、食べ物を与え、一人になっても生きられる知恵を授ける。
特別優秀でなくてもいいではないか。
良識ある、まともな人間に育てあげる責任が親にはある。
こんなことを記すと、やれ、周囲の大人が無関心だとか、親だけで育てるのは大変だとか、挙句の果てにはカネがないとか、抜かすか思うかする奴らが出てくると思うが、甘えるな。
この世に生を享けた以上、誰にも、どんな生き物にも、生を全うする権利があり、自らもそれを維持する義務がある。それが言い過ぎならば、維持する最大限の努力をする必要がある。
今、この瞬間、生命を授かっているということの有難味を今一度再認識してみてもよい。
生きたくても生きられずに生命を終える人だって生き物だって大勢いる。
これまで当たり前だと思ってきたことが、当たり前とは決して言えない今だからこそ、そして今日がこどもの日だからこそ、この長話を綴った意義がある。
否あってほしいと願っている。
以上、敬称略。


























