書籍紹介:『わたしのペンは鳥の翼』 | 奈良の石屋〜池渕石材のブログ

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本日は書籍紹介をいたします。

今回取り上げるのはこちら、

アフガニスタンの女性作家たち『わたしのペンは鳥の翼』古屋美登里訳、小学館、2022年

 

 

 

 

女性の権利が抑圧される状態が続くアフガニスタンの女性作家の短編小説を集めたという、非常に意義深い作品集です。

「アントールド」という、紛争などによって疎外された作家を発掘するプロジェクトがあるそうで、その試みによって生まれた本だということです。

もともとはすべての作品が、アフガニスタンの主要言語であるダリー語ないしパシュトー語で書かれており、そこから英訳されたものをさらに邦訳するという、いわゆる重訳の本になるわけですが、そんな言語的困難を感じさせないほどに素晴らしい小説が集まっています。

 

18人の作家による23もの短編が集められているので、そこで扱われているテーマは多様です。

アフガニスタンで日常的な女性の抑圧状態を描いたものから、我々がこの地域について想像するときについて回る連想でもある爆弾テロを描いた作品もありますし、性同一性障害をテーマにした作品もあり、いずれも文学的技巧が凝らされているというよりは、どちらかというとストレートな言葉で綴られていて、それだけに胸に響いてくるものがあります。

 

アフガニスタンというと、私などは貧困、テロ、社会的混乱といった否定的なイメージを思い描きがちであり、ここに収められた作品の中にそういったイメージを裏切らないものが多いのも事実です。

しかしそんな社会に生きる女性たちによって書かれた作品を読んでいて、そういった否定的なイメージ以上に印象的なのは、困難な生活条件の中で生きる人々の人生のかけがえのなさであり、教育への熱情の貴重さであり、愛や共感といった感情的紐帯がどれほど人の支えになるかということです。

個別の作品については実際に読んでいただくのが一番だというのは間違いないので、ここでは編者による「後記」から少し引用します。

 

「『わたしのペンは鳥の翼』は2年間にわたる苦労が結実したものです。三種類の言語、複数の国、多くの時間帯をまたいだ徹底的な編集作業が続けられました。重労働と、作家との信頼関係と、最高かつ最悪のテクノロジーが一体となった結果なのです。

 心を揺さぶられる出来事が2021年の夏に起きました。このアンソロジーのために作家たちは創作に励んでいましたが、タリバンが国を支配し、カブールが陥落したことで、彼女たちの創作環境が、さらには彼女たちの人生までもが、大きな困難に直面しました。世界中がカブール空港とほかの場所で繰り広げられる胸の潰れるようなシーンを見つめているうちに、わたしたちの活動の目的は小説の発表から安全の確保へとたちまち替わり、国外脱出を望む作家や、国に残りたい作家、残らなければならない作家たちの支援をすることになったのです。

 18人の女性たちは連絡を取り合っては励まし合っていました。いかに眠れないでいるか、どうやって衣類を黒く染めるか、プリントアウトしたものを持っているのが危険になったので、原稿からいかにインクを消すかといった情報を分かち合っていたのです。街頭デモに参加する人もいれば、潜伏した人もいます。6人は国境を越え、いまはドイツ、イタリア、イラン、スウェーデン、タジキスタン、アメリカ合衆国で暮らしています。アフガニスタンに残っている人たちも含め、全員がいまも書き続けています」

(238-239頁)

 

タリバン支配下では女性の高等教育が認められない、といった情報は伝わってきますが、プリントアウトしたものを持っているだけで危険というのも凄まじい状況ですよね。

そんな中でもなお書くことが励みになる、というのは「ペンは剣よりも強し」という言葉を思い起こさせるものです。

 

文学というものがどれほど解放への潜勢力を持ちうるか、そんなことを強く印象付けられる貴重な読書でした。