私も本や物語を後世に繋ぐ「輪」でありたい 原田ひ香『古本食堂』 | 茶々吉24時 ー着物と歌劇とわんにゃんとー

本日2回目の更新です。

 

原田ひ香さんの『古本食堂』を読了しました。

 

 

 

この作品の舞台は東京の神田神保町。

多くの書店、古書店が並ぶ神保町にある「鷹島古書店」の店主 鷹島珊瑚さんと、その甥の娘である大学生の鷹島美希喜、二人の視点で進んでいく物語です。

 

「鷹島古書店」の店主だった鷹島滋郎が急死して1年余り。

滋郎の妹の珊瑚が、ふるさと北海道から上京し、古書店を再開させることになった。

滋郎と珊瑚兄妹から見て甥の娘にあたる美希喜は大学院で日本文学の古典を研究している。

美希喜は大学進学に際して大叔父にあたる滋郎に助言をもらったし、元々本が好きなので、鷹島書店にはよく出入りしていた。

大叔父の死によって閉まっていた鷹島古書店が営業を再開して以来、美希喜は講義が終わるとすぐに鷹島古書店に向かうようになった。鷹島古書店が好きだという理由以外に、美希喜の母が珊瑚さんの様子を見るようにと命じたことも理由の一つだ。

珊瑚や美希喜は、神保町で美味しいものをテイクアウトして一緒に店内で食べたりもする。そうして珊瑚と語り合ったり、店に出入りするさまざまなお客様と関わるうちに、美希喜は自分が何をしたいのか見えてくるのだった。

(原田ひ香さん『古本食堂』の概要を私なりにご紹介しました)

 

神田神保町は本の町として有名なことは私も知っています。実際に行ったことはありませんが、本の町だというだけで、本好きとしては親近感が湧き、すぐに物語に没頭することができました。

 

この小説のストーリーを進めていく鷹島珊瑚さんと鷹島美希喜ちゃん。

(登場人物がみんな「美希喜ちゃん」と呼ぶので、私も真似することにします)

二人は年代で見ると、おばあさんと孫くらいなのですが、共通点が二つあります。

まずは、本が大好きであること。二人だけではなくて、鷹島家の人はみな、読書好き。

亡くなった滋郎さん、珊瑚さん、二人の甥である美希喜の父、そしてもちろん美希喜ちゃんも読書家です。

 

この作品は6つの短編からなっているのですが、一話ごとに書籍を一冊と神保町の美味しいものをひとつ紹介するようになっています。

 

目次を見てみましょう。

 

第一話 『お弁当づくり ハッと驚く秘訣集』小林カツ代著と三百年前のお寿司

第二話 『極限の民族』本田勝一著と日本一のビーフカレー

第三話 『十七歳の地図』樋口譲治著と揚げたてピロシキ

第四話 『御伽草子』とあつあつカレーパン

第五話 『馬車が買いたい!』鹿島茂著と池波正太郎が愛した焼きそば

最終話 『輝く日の宮』丸谷才一著と文豪たちが愛したビール

(原田ひ香さん『古本食堂』の目次より引用)

 

珊瑚さんと美希喜ちゃん…というより、著者である原田ひ香さんは本当に色々なジャンルの本を読んでおられます。恥ずかしながら私は、この目次に挙げられている本のどれもまともに読んだことがありません。かろうじて太宰治の『御伽草子』をかじったことがある程度。

タイトルに上がっていない書籍も紹介されていて、私は何度も「この本をいつか読まなくっちゃ」とメモを取りましたよ。

 

さて、珊瑚さんと美希喜ちゃんのもう一つの共通点は名付け親が一緒ということ。

珊瑚さんは、危うく「三子」になりそうなところを、兄の滋郎さんたちに助けられました。

美希喜ちゃんの名前も滋郎さんが「色々なものをよく見て人の話をよく聞くように」との思いを込めてつけたもの。「見聞き」ということです。

どちらのお名前もとても珍しいですが素敵な名前です。

 

そんな素敵な名前をつけてくれた滋郎さんは、この小説のスタート時点ですでに亡くなっています。ですが、鷹島古書店の店内の様子や蔵書、珊瑚さんや美希喜ちゃんの回想から、今は亡き滋郎さんの在感がどんどん増してくるのです。

 

読者はいつの間にか、珊瑚さん、美希喜ちゃん、そして滋郎さん、三者三様の人生を見守ることになります。

三人に共通するのは、生活が読書と美味しいものに彩られていること。

子どもの頃から本が好きだった私から見ると、ある意味理想的な人生です。

 

最後に、美希喜ちゃんの担当教授である後藤田先生の言葉をご紹介します。

 

「確かに、平安時代に、他にもいろいろな物語があったという記録がありますが、そのほとんどは残っておりません。また、その記録にさえ残っていない物語や作者もあるはずです。だから、今、ここに残っているものは末永く残していかなくてはならない。私たち、研究者はその長い長い鎖をつなぐ、小さな鎖の一つでいいではないですか。自分の名前を残そうとか、自分の研究で世間や学会をあっと言わせてやろうなんて考えなくていいのです。ただ、それを後世に残す小さな輪で」

(原田ひ香さん『古本食堂』 P261-262より引用)

 

後藤田先生はまた、鷹島古書店をはじめとする古本屋さんも本や物語を後世に残す「輪」だと語ります。

 

私はこの部分を読んで涙がこぼれました。

そうか、読書ってただ単に好きで読んでいるだけだと思っていたけれど、書籍を後世に伝える助けをしているのかもしれない。

そして読後、こんなふうに紹介している私も、本や物語を後世に伝える小さな「輪」の一つなのかも。ぜひ、そうでありたい。

 

 

 

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