私自身の老後も設計しなくちゃ 内館牧子『今度生まれたら』 | 茶々吉24時 ー着物と歌劇とわんにゃんとー

 

老後、充実した日々を送るにはどうしたらいいんだろう、それをもっと真剣に考えなくっちゃと思わせてくれる小説を読みました。

内館牧子さんの『今度生まれたら』です。

 

 

 

 

 

 

佐川夏江70歳。

二つ年上の夫 和幸とは職場結婚だ。

和幸は身長180㎝の長身で、社内でも目立つエリートサラリーマン。彼を狙う女子社員は大勢いた。

夏江は和幸に対して、他の女子社員のようなわかりやすいアプローチをしたりはしなかった。

もっと周到に作戦を立てて、見事に和幸を射止めたのだ。

「女の幸せは結婚」「女性はクリスマスケーキ。25(歳)を過ぎたら賞味期限切れ」などという言葉が横行してた時代に、寿退社を果たした夏江。以後48年、専業主婦として二人の男児を産み育て、東京都内の持ち家で暮らす生活は、若い頃に理想だと思った人生のはずだ

しかし、今の夏江は夫の寝顔を見てこう思うのだ。

「今度生まれたら、この人とは結婚しない」

(内館牧子さんの『今度生まれたら』の出だしを私なりにまとめました)

 

大いに作戦を練って射止めた「理想の」旦那さんなのに「今度生まれたら、この人とは結婚しない」なんて寂しいですねぇ。

でもね、夏江さんの気持ちがわかる気もするんです。

だって、この旦那さん、ケチなんですよ。

二言目には「最後に頼りになるのはカネだよ」といって、小銭にまでうるさく言うんです。

夏江さんが「今が老後なんだから今使わずにいつ使う?」と思っても聞き入れてくれません。

旅行に行く時、どんな繁忙期でも指定席に座ったことがない。

それどころか、冠婚葬祭での出費もケチる。

節約は大切だけど、お金は使うべき時に使わないと!

私、こんな旦那さん嫌だ。

夏江さんも思うんです。若い時はこんなのじゃなかった、こんなケチになるなんて!と。

 

振り返ってみれば、このエリートサラリーマンだった旦那を射止めるために失ったものもあるのです。

いや、もっと遡って学生時代の進学だって、やりたいこと、自分の特技を活かす道があったのだけれど、「あまりにも高学歴だと女の幸せである結婚に差し支える。オールドミスにはなりたくない」と、自ら可能性の芽を摘んできたのではないか?その結果が今なのか?

 

とはいえ、夏江さんはリアリストなので、ただただ不満を抱いているわけではありません。

これまで色々あった人生、幸せだったし、今の生活が送れるのも夫のおかげだとわかっています。

 

だけど、同じ歳の女性弁護士がマスコミでイキイキ活躍しているのを見て複雑な心境になります。

同じ歳ということは、彼女だって「女性の幸せは結婚だ」「女性はちょっとおバカな方が可愛い」という風潮の中、進路を決めてきたはず。

自分は「幸せな結婚」に照準を絞りそれを実現させたわけですが、この女性弁護士は自分の望む職業につき社会貢献し、同じ70歳になって全く別の次元に立っている……

 

私自身は家族の理解があり、自分のやりたいことをやりたいようにさせてもらってきたので夏江さんの

焦りとも、軽い後悔ともつかない気持ちを本当には理解できないのですが、それでもわかる気がします。

「本当にこれでいいのか?」

「このまま歳を重ねていっていいのか?」

「今からでも何か自分にもやれることがあるのではないか?」

という思いを。

 

ただ、夏江さんって本音と建前をしっかり使い分ける人なのです。

夫がつまらないことでマウントを取ってきても

「さすがね!」

と持ち上げてその場をやり過ごす。

そもそも夫を射止める時にも「猫を100匹かぶって(夏江さん自身の例え)」きました。

周囲の人に忖度して、話を合わせているけれど中身は超リアリスト。

70代に入って、さてこれからの人生で何か自分にできることはないか、と考える時ですら、こうです。

 

今、私は七十代に入ったのだ。よく、したり顔に「年齢なんて関係ない。男も女も何かをやろうと思った時が一番若い」などとほざく人がいる。私も忖度して同意しているが、腹の中では「なら、テコンドーやれるか、ボルダリングやれるか」とせせら笑っている。

(内館牧子さん『今度生まれたら』P6より引用)

 

この腹の中と外側との違いに、私は大笑い。

普通は表と裏を使い分けする人のことは好きになれませんが、夏江さんほどはっきり使い分けている人となると、痛快です。

 

面白いのは夏江さんだけではありません。周囲の人たちの人生模様が面白すぎます。

特に興味深いのは、夏江さんとは正反対のお姉さん。

お姉さんは高校時代の同級生と結婚し、今でもめちゃくちゃ仲が良いのです。妹である夏江さんが呆れるくらい。

「今度生まれたら、この人と結婚しない」という夏江さんと夫、今度生まれても今の夫と結婚したいというお姉さんとその夫。二組の夫婦のコントラストのおもしろさよ。

 

とはいえ、ただおもしろいだけではなく、自分の老後はもうスタートしており、できることをすぐにでも始めていかねばと思わせてくれる小説でもありました。

 

どの世代の人にも面白く感じられるとは思いますが、特に中高年女性には身につまされる部分も大いにあり、おすすめしたい一冊です。

 

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