山田洋次監督 最新作『こんにちは、母さん』 | 茶々吉24時 ー着物と歌劇とわんにゃんとー

昨日は豊中市立文化芸術センターで開催された 映画『こんにちは、母さん』豊中市先行上映会に伺いました。

 

 

先日、豊中市生まれの山田洋次さんを応援する「豊中山田会」に寄稿させていただいたことがご縁でお招きいただいたしだいです。

 

『こんにちは、母さん』は山田洋次監督にとって90作品目。

9月1日の全国公開を前にして、監督の生まれ故郷である大阪府豊中市で先行上映会が行われました。なんと山田監督ご本人がおいでになり、上映後にはトークショーが催されました。


映画はもちろん、山田監督ご本人のお話も聞けるということで1433席ある豊中市立文化芸術センター大ホールはほぼ満員の盛況で、私も、楽しみに上映を待ちましたよ。


山田監督は豊中市の名誉市民でいらっしゃいます。

長内繁樹 豊中市長による開演の言葉に続いて上映が開始されました。

 

 

 予告編

 

 

 

 

 『こんにちは、母さん』感想

 

この映画は、ひとことで言うと「母親と息子の物語」。

そして、現代の話なのに郷愁をそそられると同時にホッとする映画。

それではあまりに漠然としすぎているので、もう少し付け足しましょう。

 

東京スカイツリーが見える墨田区の下町にある足袋屋「かんざき」。

職人気質だった親父は他界し、今は未亡人である福江(吉永小百合)が店を引き継いでいる。

息子の昭夫は家業を継がず家を出て、大会社に勤めている。現在は人事部長をしていて、心ならずもリストラに加担することになり、毎日神経をすり減らしている。

ある日、昭夫は実家を訪ねてみた。そこには昭夫が過ごす会社での人間関係とは全く違う世界があった。

近所のボランティア仲間が、気楽に家に上がり込み、勝手に冷蔵庫を開けて麦茶を飲んでいたりする。

他人の家の個人情報にも詳しい。かつて自分も生活していた下町の様子に戸惑いながらも、安らぎを感じる昭夫だった。

が、一つ見過ごせないことがあった。それは母の変化だ。何やら生き生きしているのだ。ホームレスの人たちに支援物資を配るボランティア活動をしているらしいのだが、それだけでは説明がつかないほど溌剌としている。

両親に黙って家出をし、福江と一緒に暮らしていた昭夫の一人娘(永野芽郁)が驚くようなことを言った。

「おばあちゃんは恋をしているのよ」

未亡人なのだから、もう一度恋愛をしようが、再婚しようが自由なはずなのだが、面白くない昭夫だった……。

(山田洋次監督『こんにちは、母さん』の出だしを私なりにまとめました。)

 

役名で言うとわかりにくいので、ここからは役者さんの名前で書かせていただきますね。

 

この映画、まずは出演者が皆さん良いんですよ。

母親である吉永小百合さんと息子 大泉洋さんの会話がナチュラル。

孫娘の永野芽郁さんの親子孫三代の会話や態度は、本当に日本全国どこにでもありそうで、映画なのにまるで自分の家族の物語のよう。冒頭からグッと引き込まれました。

 

下町の足袋屋さんを継がずにサラリーマンになった昭夫が勤めているのは、名前を聞けば誰もがわかる大企業。そこで人事部長をしているエリートなわけです。だけど人事部長は時に、他の社員から恨まれる立場になります。現に、リストラ要員がリストアップされ、各部署で早期退職を勧告するようになって、昭夫は辛い立場に立っています。

「これが自分の仕事なんだ」と心に言い聞かせても、スッパリ割り切ることができず心は晴れません。

しかも、昭夫自身家庭の問題を抱えております。

なんだか暗くなりそうな役だけど、大泉洋さんが演じると、いい意味で軽いんです。

吉永小百合さんと交わす親子の会話、年頃の娘 永野芽郁さんとの親子の会話に、客席からは何度も笑いが起きていました。この三人が本当の親子、孫に見えてくるくらいしっくりしていました。

 

昭夫とは大学時代からの友人で、同期入社の社員を演じるのは宮藤官九郎さん。

クドカンがまた良いんですよ。

こういう人いるよね、と思うし、窮地に立たされた時の反応もどこか憎めず可愛らしい。

 

吉永小百合さんのボランティア仲間、枝元萌さん、YOUさん。

ちょっと他人の事情に入り込みすぎだけど、心根の優しさが感じられて、これが下町の良さだなと思えました。

 

吉永小百合さんをめぐって対立する(?)男性二人には寺尾聰さんと田中泯さん。

芝居が上手な人たちが揃っているのです。

(上から目線ですみません)

 

この映画には、あっと驚くような展開はありません。

日本全国にこういう親子、孫は他にもいるだろうな、と思うようなどこにでもある日常が描かれているんです。だからこそ自分ごととして見られるんでしょうね。

観客の年代によって、吉永小百合さん、大泉洋さん、永野芽郁さんのいずれかの視点で映画に入り込めると思います。

私は大泉洋さんと吉永小百合さん、どちらの立場・気持ちもわかる気がしながら見ていました。

 

ただこの映画は、楽しく明るいだけでは終わりません。

ラストに近い場面で、吉永小百合さんが次のような内容のことを言います。

 

死ぬことが怖いんじゃない。

いつ歩けなくなるのか、動けなくなるのかを考えるのが怖い。

いつか、誰かのお世話にならないと何もできない時が来る、それが怖い。

 

メモをとったわけではないのでセリフもニュアンスも若干違うと思いますが、そんな内容のことを吉永小百合さんが喋るんです。

 

それまで笑いが絶えなかった客席が、この時にはシンと静まりました。

先行上映会に来られているお客様の年代層は、人生の先輩方が多く、吉永さんの搾り出すようなこのセリフに共感されていたのだと思います。

私も、このセリフには胸を突かれました。人生100年時代だとしても、私はもう折り返し点を過ぎています。そういうことを考えることが増えました。

 

念の為に申し添えておきますが、このセリフは介助、介護を受けておられる方を否定しているわけではないと思います。誰もが歳をとる。今までできていたことができなくなる時が来る。その現実から目を背けず、自分ごととして捉えているセリフなのだと思います。

 

この映画は心温まる楽しい映画ですが、楽しいだけではなく、笑いの中にほろ苦い思いや涙もある、人生そのものを描いた映画だと思います。

 

そしてそれこそが山田洋次監督の真骨頂なのでしょう。

 

9月1日の公開をぜひお楽しみに。

 

 

 山田洋次監督トークショー

 

終演後、山田洋次監督が舞台に登場。

ご高齢の監督をエスコートしておられたのは、映画の中では向島署の警官だった俳優の北山雅康さん。

 

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監督は、この映画は母と息子のキャスティングが要だと思っておられたそうですが、早い段階で吉永小百合さん、大泉洋さんをイメージしたとおっしゃっていました。

個性派と評価されている宮藤官九郎さんはご自身が映画監督もされているので、どうだろうかと思ったけれど、すぐに「やります」と言ってくれて、見かけによらず(?)真面目な人だとおっしゃっていました。

 

北山さんは、ラストに近い場面を撮影した時のエピソードを語っておられました。

隅田川にかかる事問橋の撮影時、実際の通行をストップして映画撮影が行われたのですが、時間が経過するうちに、橋の両側に人が溜まってきたのですって。ご自分の出番を前に橋の袂で待機していた北山さんは警官役。本当の警官だと思った通行人から「どうして橋を通行できないの?」「何(ぼーっと)しているの、ちゃんと交通整理して」などと苦情を言われたそうです。

「僕は警官役なんです。あっちに本当のお巡りさんがいらっしゃいますから、あちらに言ってください」と、対応に追われた、とのこと。目に浮かびますわ。

 

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次回は91作目。

司会者さんの「生まれ故郷である豊中市でロケ、というのはどうでしょう?」という言葉に、場内から拍手が湧きました。

 

すると監督が「僕の生家がまだ残されているんですよ。そこを撮れるようなストーリーにしたいね」

これにはこの日一番の拍手が起こっていました。

 

楽しみにお待ちしております!


帰りにこんなティッシュをいただきました。



 

 

 山田洋次監督と亡き父のご縁

 

私がこの先行上映会に伺うきっかけとなった文章です。

「豊中山田会」様の会報、このサイトの一番下に掲載されております。

 

 

 

 

豊中山田会ニュースレター第7号

https://toyonakayamadakai.com/data/230710/230710newsletter.html

 

 

こちらにも同じ文章を掲載しています。

ただし、映画『幸福の黄色いハンカチ』の中で、高倉健さんが日本酒『多聞』を胸に抱いている写真は著作権の関係で掲載できていません。

 

 

 

 

 

 

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