素人短編小説 -3ページ目

死人に口なし・・「幸福の時間」のあとがきから

 私、連載小説を完結させた際に、僭越ながらあとがき(テーマは「ひとこと」です)を書いているわけですが、45作目あたりからその前文としてショートショートを載せております。

 先日、そのショートショートを遡って読んでみましたら、私的にそこそこ興味深いモノもありましたので、切り抜いて再掲載してみようと思い立ちました。週1回か、月1回か未定ですが、よろしければどうぞ。

 

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 死後において、残された肉体にほとんど損傷がない場合・・・例えば、血管梗塞などによる脳内活動や心機能の突然停止、虚弱や老衰等による身体の多機能不全といった、致命的な外部損傷がともなわない事象が死因であった場合、その脳機能を中心として肢体全体にかかる六割程度の動的再生が可能となるかもしれないという。


 そしてなにより画期的なことは、筋肉機能はもとより、その脳機能を外部から引き出すことができ、かつ、単純な反復行為については、学習させることさえ可能という実験結果論文を日本の某私立大学病院研究チームが発表した。

 

 少々不謹慎な言い方をさせてもらえば、バイオハザードに代表されるホラー映画に出てくるゾンビ生成の実現化だ。


 ここで、おれは大いに慌てた。


 筋肉の動的再生程度ならまだしも、脳機能の再生ということは、生前の記憶といった部分の再生までも到達するのだろうか。それとも死後を出発点としての低水準の思考のみ可能となるのか・・・。


 後者ならまだしも、前者であればどうか・・・。

 

 冒頭にあるとおり、致命的な外部損傷がない限り云々…とはどの程度のことか。死人に口なしと云われてきたが、一転、死人が生前の記憶を下に失くしたはずの口を取り戻し、これを開く可能性もあるというのだろうか。


 ふん、マジか・・・冗談じゃない。


 さらに、このまったくもって洒落にもならない迷惑千万な技術開発を進めている大学病院の研究チームは、厚生労働省の許可が下りしだい、広く国内外から献体の募集を開始するようだという憶測まで、近代コミュニケーション・システムの活躍によって、地球単位の広範囲にまでまことしやかに伝わっているらしい。


 しかし、幸いなことにこのような研究、実験は、歴史上類を見ないほどの罰当たりな行為だと、世界中ほとんどの宗教団体の強く批判する声明がきっかけとなり、最近では大規模な抗議行動を激化させているようだ。


 そのため国の判断も、内政上はもちろん、外交上の配慮から許可、不許可の決断が大幅に遅れているといった肉付け情報まで付随させながら、“死者への冒涜”批判の声はますます強さを増している。

 

 当然、こういった動きは宗教的な視点からの蜂起にとどまらず、瞬く間に広く世界全体の動きへと発展しているという。


 ふふふ・・・そうだ、その調子だ。

 死者の記憶を再生して今さらどうするというのだ。そんな研究や実現化など木っ端微塵に吹き飛ばしてやれ!迷惑千万だ!!


 世界の殺人件数を知っているかい。

 五十万件を超えるか、超えないかという膨大な数字だ。だが、こんな数字で驚いてちゃいけない。

 

 統計数字がそんなもんでも、実際は・・・もしかしたら誰もがうすうす気づいているのかもしれない。裏の・・・表面化していない実際の数は大きく、大きく異なるのではないかということをね。

 

 そして、その隠れた件数の内、死人に口なし・・・で、真相が解明されず、病気や事故に死因が転嫁されている数を。

 

 それが、おれたちプロの仕事にほかならない。


 もう一度、言わせてもらうぜ。

 死人の口をもう一度開かせようだなんて・・・愚の骨頂としか言えない試みだ。過ぎ去った時間を今に遡らせてどうする。


 おっ、ククク・・・いいニュースが入ったぜ。

 

 そう、その決断が正しいよ。

 

 あんたら国だって、おれたちの同士じゃねえか・・・。

 

                                     -了-

 

 

 

 

 

謎と不思議・・「灼熱の日」のあとがきから

 私、連載小説を完結させた際に、僭越ながらあとがき(テーマは「ひとこと」です)を書いているわけですが、45作目あたりからその前文としてショートショートを載せております。

 先日、そのショートショートを遡って読んでみましたら、私的にそこそこ興味深いモノもありましたので、切り抜いて再掲載してみようと思い立ちました。週1回か、月1回か未定ですが、よろしければどうぞ。

 

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 世の中に「不思議」ってあると思うんですよね。

 対して「謎」ってよくよく考えると活字で見るほどの深さを感じないっていうのが最近の僕の捉え方なんですがね。


 最近、自宅から数百メートル離れたところに建っている村の博物館で“謎の宇宙展”っていうテーマで展示が行われていたんで入ってみました。


 宇宙とか、心霊現象とか、巨大遺跡なんかに興味津々…っていうか、テレビなどで放映すればすぐ見入ってしまうし、古本屋の印刷物なら手にとって、安価であれば即購入するほどなのでありまして。大袈裟に解説すればするほど娯楽性が上がっていきます。


 以前、このブログの“ひとこと”の中に超短編としてかなり皮肉っぽく書いた地球人の入れ替えやピラミッドその他をテーマに物語を載せたことがありましたっけねえ…。


 さて、ここで先ほどの村営博物館の話に戻します。

 

 そこには主に日本が打ち上げた宇宙ロケットについてのパネルや模型が多く展示されていました。これにはちょっと興味ないなあ…といった気持ちから、大雑把な…本であれば斜め読みといった感じで展示物を見学していたとき、一枚のパネルに目が行きました。

 

 そのパネルの題名は、“太陽系の謎を探り、生命誕生の謎に挑む”


 …驚きました。

 

 その驚きの程度を言葉で表すと、少なくても「少し」ではありませんでした。どちらかといえば「大いに」…そう、大いに驚いたという感じでしょうか。ただ、「驚愕」とか「驚嘆」といったほどではなかったことも白状しておきましょう。


 で、次にそのパネルの文章の終わり部分です。

 こう記述してありました・・・実文のままです。


「私たち人類は、

今、全地球を管理する時代を迎えています。そして、それほど遠くない未来、人類は全太陽系を管理する時代を迎えることでしょう。」


 JAXAか、あるいはそこを管轄、関係する機関がこのパネルを作り、文章を書き上げたのでしょうか。で、あれば、それを少なくとも日本全域で閲覧させているものと推察されます。


 …愚かですね。


 彼ら流に“人類”という名称を使えば、今の人類は、人類を、そして地球を、太陽系の惑星や衛星の一つひとつを、太陽系全体を…いや、ブラックホールを除く一銀河の大部分を管理し、運営している存在が、もしかしたら他にいるのかもしれないという思考を露ほども持ち合わせていないのですね。


 私の立場上、これ以上のことは申し上げられませんが、この拙文の締めとして私見を申し上げれば…

 

 人類にとって、不思議に思うことは数えられないほどおありでしょう。

 十分に理解できます。


 しかしですね、“謎”は言い過ぎであり、甚だしい勘違いでしょう (笑)

 

 目を覚ましてください。人類と名乗る皆々さま方は、それほどまでに “上から目線” を許されるほどの存在ではないのです。


 ここで、現在の人類について、全くの思いつきで私の脳裡に浮かんだイメージを文字にしてみましょうか。


―― サファリパークのライオンやキリン、サイ、シマウマ…

 

                                    -了-

夜な夜な・・「地球外知的植物」のあとがきから

 私、連載小説を完結させた際に、僭越ながらあとがき(テーマは「ひとこと」です)を書いているわけですが、45作目あたりからその前文としてショートショートを載せております。

 先日、そのショートショートを遡って読んでみましたら、私的にそこそこ興味深いモノもありましたので、切り抜いて再掲載してみようと思い立ちました。週1回か、月1回か未定ですが、よろしければどうぞ。

 

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 まあ、ままならないが世の中の常というもんだが、おれの場合はとことんついてない人生を送っている。思い起こしてみると若い時分からそうだった。必ずどこかでケチがつく。


 しかもだ。地元の同期生や会社の同僚をはじめとして、おれの周りには、子どものころから垢抜けた大学に入って面白可笑しく学生時代を過ごし、卒業後には優良企業の会社員、美人の嫁さんをもらって子宝にも経済的にも恵まれ、順風満帆に過ごしている奴ばかりだ。


 いじけるな、オマエにだってこれから良いことが一杯あるさ。ただ、その機が熟していないだけの話だ・・・なんてことを飲み屋で酒をあおりながら慰めてくれる奴もいたが、所詮、それはおれをさらに落ち込ませ、自分の優越感にどっぷり浸かるだけの所作に過ぎない。

 

 それでも駅前の居酒屋チェーン店でそいつから安酒を奢ってもらっている都合上、心にもないアリガトウなどという本来神聖であるはずの言葉を返す自分にほとほと愛想が尽きたりもするわけで・・・。

 

 いけない、いけない!そんな自己嫌悪に満ちた自分の境遇なんかについて、愚痴をこぼすために喋ってるんじゃなかった。


 で、まあ、話を元に戻すと、つまりはこの度も散々なめに会い、しかもそれが現在進行中という苦労話をさせてもらうためだった。

 

 せめて、誰かに少しでも当たり散らさずして、このいつまで続くかも知れない今のこの悲惨な状況にあってのストレスに耐えられるはずもない。

 

 お願いだから、カウンターの隣に偶然座ってしまったことを、不運だとでも思って、ちょっとだけ付き合ってほしい。

 

 実は、どうも・・・いや、確実におれには、わけの分からぬ得体の知れないナニか憑りついているらしいのだ。

 

 い、いやこれは本当の話だ。

だから、冷たくそうそっぽなどを向けずにもう少し辛抱して聞いてくれ。酒が足りないのなら一杯ぐらいならおれが奢ってやろう。


 でだ、今は憑りつくと表現したから霊魂かナニかと捉えたかもしれないが、あながちそうでもないらしい。

 

 らしいといったのは、当のおれにも確証がないからだ。しかし、だからと言っておれの身体を宿主にして、この世のモノとは思えぬ生き物が棲みついていると断言できるわけでもない。


 また、しかしだ。

 これを逆に言えば、おれの体内にいるそのナニかは、果たして霊魂かもしれないし、生き物かもしれないってことも、あながち否定はできないのだ。いや、いやこれは冗談で言ってるわけじゃあない。

 

 残念ながらまったくもっておれ自身に起きている現実の話だし、おれの嘘偽りのない告白だ。もう五ヶ月ほど前になる。

 

 だから・・・そう、いつもなら残暑の中にも秋の匂いっていうか、そういうもんが感じれるはずの頃だった。

 

 しかし、去年は昼夜の気温差がほとんどなく、夜になればなるほど湿度が急上昇するっていう寝苦しい年で、老若男女を問わず体調不良者が多く出ていると、新聞とか週刊誌とかインターネットで取り沙汰されていたのを覚えていないかい。そう、あの頃だ。


 エアコンなどというモノに頼ったことのないおれでも、かなり暑苦しい不快さを感じながら、普段どおり晩酌もやったし、さあ寝ちまうかと安アパートの一室に敷いた布団に入ったが、どうにもその時分の1カ月ぐらいの間だが、夜中に決まって目を覚ますようになった。小便をもよおしてじゃない。


 実は、実はだが、その頃・・・夜な夜な・・・おれの耳元で、ぼそぼそと呟き声のようなものが聞こえてくるようになったんだ。それでもって、ガバっと起きて常夜灯の淡い灯りの中に何かの姿を探したが、当然の如くその辺に何がいるわけでもなかった。

 

 誰でもそうだろうが、おれ自身も「寝ぼけて夢でも見たんだろう」ぐらいにしか思っていなかったよ・・・初めのうちはね。

 

 だが、これが1日も欠かさず毎晩ともなったら・・・。人間なら一番に、こりゃあ、今流行りのストレス病や精神病かなんかの不健康が為せる幻聴かと思うだろう。だが、2度寝とはなっちまうものの朝の目覚めは爽やかだし、3度の飯も晩酌も旨い。便通もすこぶる快調とくりゃあ、どうにもそうではなさそうなんだ。


 だったら、摩訶不思議な霊魂か妖怪の仕業かと疑うのも、人の気持ちを考えりゃあ自然の流れというものだろう。しかし、ならなにが原因でそんな魍魎(もうりょう)にとり憑かれることになったのかと思案したが、とんと見当もつかない。

 

 田舎の実家に先祖代々の墓や仏壇はあるものの、おれの安アパートにそんなモノがあろうはずもないし、今住んでいる街なかに寺や神社があると聞いているが、そんなところに足を運んだことすらないんだよ。


 しかしまあ、さっきも言ったように1カ月ほど経った頃、ぷっつりとそんな夜な夜なの煩わしさがなくなったんだ。まあ、2、3日はビクビクものだったが、以降は本当にぴたりと止んだんだ。正直、本当にホッとしたよ。ああ~、これでゆっくりできる。やっぱり体調のせいだったのだろうと思った。


 ・・・ところがだ。終わったと思っていたあの忌々しい夜な夜なの呟き声がまた先週の日曜日から聞こえ始めたんだ。もちろん昨夜もだ・・・。


 で・・・で、アンタ、これが前の時よりも酷いんだ。い、いや呟く声がでかくなったとかじゃあないんだ。

 

 それが・・・以前は、枕元で呟いていただけだったんだが、その呟く声が・・・このたびは、な、なにか身体の中でも・・・そう、おれの腹からも聞こえてくるような・・・錯覚じゃない、確かにそうなんだ。それどころか、今じゃあ、ぐにゅぐにゅ腹の中を何かが蠢いているような気さえすることがあるんだ。

 

 そう、夜中・・・初めは枕元でぼそぼそ・・・でもって、決まってその耳元に生温かい吐息のようなモノがふう~とね。そして、数秒後には、今言ったように腹の中で・・・ぼそぼそ。おれはもう頭が混乱して、ギュッと目を瞑ったままこの症状が収まるのを耐えて待ち続け、気がつくと、知らずの間に何もなかったような朝を迎えるってわけなんだ。

 

 こんなことが夜な夜な続くことを、自分のことだと思って想像してみてくれ。アンタだって堪ったものじゃないとわかるだろう。

 

 さあ、ここからだ。それで・・・それでな、おれは意を決して昨夜、ぼそぼその呟き声が始まったその瞬間を待ち構え、バンっと両眼をかっ開いてみたんだ。

 

 すると・・・するとだ。おれの目の前に・・・おれの顔に引っつくくらいのところ・・・そう、わずか2センチか3センチほどのところに、ぬめっとした真っ白な顔、いやお面みたいなものが逆さまになっておれを覗き込んでたんだ。

 

 部屋は真っ暗だったが、なぜか、そのお面のようなものは、夜光塗料でも塗ってるかのようにうっすらと光っていて・・・鼻はなく、両目は暗い空洞のようだった。・・・あまりの近さに、鼻や口までは見えなかったよ。

 

 で、そのあとは、そう、気がついたらいつもどおり朝だった・・・。

 

 なあアンタ、信じてくれ!すべてホントの話なん・・・ん?

 

 お、おいアンタ、どうしたんだい!?なんでそんな顔してるんだ?おれがなんかしたのか?びっくりするじゃないか、そんな飛び退いたりして・・・。


 ええ?な、なに?・・・お、おれの?おれの眼?・・・おれの眼がどうかしたのか?今度は口の中・・・?し、舌がどうしたって?手・・・?手の甲・・・?


 う、うわあ、なんだよ、なんだよこれは!!

 

                                      -了-