素人短編小説 -2ページ目

徴飛令(再掲)

 本ブログ開設してから、素人短編小説の各作品をやっとの思いで仕上げた後、そのあとがきを載せるテーマ「ひとこと」をもうけました。そして、いつの頃からかその書き出しにショートショートを書き始めたのですが、最近これを読み返し、自分的に興味深かった十数編再掲してまいりました。

 ところが先日、あとがきのときに限らず、自分がショートショート単独でも書いていたのを数作発見。読んでみたところ、これまた非力な自分にしてはまあまあかなっていうのもいくつかありましたので、それを再掲してみることにしました。

…えっ、明白にズルしてる?

…アップ回数の手抜き増加を狙った爺のかわいげのない手口?!

…あらら!またまたのまた、あなた…そんな言いがかりはいかんです (苦笑)

 

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「ちょっとあなた!あなたってば!なんかやけにご立派なところから手紙が届いてるわよ!ちょっとってば!」

 

「ああ?どうせどこぞのホームセンターか紳士服専門店のチラシかなんかだろう」

 

「違う、違う!そんなんじゃないわよ。だって今しがた書留郵便で着いたんだもの。親展のスタンプも押されているわ!」

 

 

 大学を卒業してすぐに採用されたから、かれこれ三十六年間勤めた片田舎の村役場を二年ばかり早く退職した。

 

 六十歳の定年まで勤めた上げたところで人生の一寸先は闇。やれ住みよい町づくりだの交流人口の増加などといった無理難題を押しつけられ、ごたごたに巻き込まれた末に精神を病むよりは、嫌気が差してきたところですぱんと第二の人生に向かう方が利口に決まっていると勝手に決め込み今に至っている。

 

 五十歳に手が届きそうな時期に水田に囲まれた町はずれに土地を求め、家を新築した。そのときに借りた住宅ローンを繰り上げて償還するなどして借金という借金を全て返済したところ、退職金は雀の涙ほどしか残らなかった。まあ、そんなことは十分承知していたことではあるが・・・。

 

 それでも、重い鎖でぐるぐる巻きにされていた身や心が共に解き放たれたような感覚は、まるで甘い陶酔に近いものだった。しかし、それも極めて一時的な感覚であり、借金はないものの、わずかな貯えはぶらぶらしているうちに底をついた。妻の機嫌が日に日に悪くなっていったのは至極当然のことである。

 

「あなた、ちょっと見てって!差出人が凄いのよ。えーとね・・・」

 

 まだ勤めていた頃は、たかが封書一通届いたぐらいの呼びかけなんかに返答などしなかったが、今は、できるだけ妻との会話を持とうと心がけている。

 

 せめて家庭内の雰囲気が常時ぎすぎすしっぱなしの状態だけは回避したいと思ってのことだ。

 

 隣市に事務所を置き介護事業所を数施設営む民間会社に今年の春から事務補助のパートに週三日ほど行っているのもその一環だ。時給は、最低賃金に限りなく近い。これも仕方のないことだと割り切ってはいるものの、賃金明細に目を通すたびに吹く貧乏のすきま風は思ったより肌に寒く身に凍みる。

 

 

「差出人はね、厚生労働省年金局と内閣府、内閣府の方には括弧があって、宇宙開発戦略本部事務局って書いてあるんだけど」

 

「はあ?なんだそりゃ」

 

「ちょっと、開けてみてよ」

 

「いや、オマエが開けてみればいいじゃないか。いつもそうしてるだろ」

 

「・・・だって、書留だし、一応親展って書いてあるからね。しかしまた、紫とオレンジ色のストライムとはずいぶん派手な封筒ね。・・・で、なんて書いてあるの?ねえ、あなたったら・・・あな・・・どうしたの?」

 

 自分でも顔が火照ってきたのがわかる。と、同時にひどい口渇と発汗が自覚できた。ちょうど村役場を辞めようと決心した頃のような体調だ。

当時、かかりつけの内科医に相談したところ、総合病院の精神科を紹介され、カウンセリングのような診察を受けた結果、重症ではないものの、軽中度の不安障害と診断された。

 

 

「ええっ、これってなんか嘘みたいなスゴい話じゃない?!・・・で、どうするの?」

 

「ううっ・・・ああ・・・いいぃ・・・」

 

「ええ、なに?う~とか、い~じゃわからないわ・・・」

 

 

 妻は、キッチンの椅子に腰かけながら国から届いた二省庁連名の手紙に目を通していたわたしの肩ごしに覗き込んで読んでいたらしく、たった一枚半の文面からなかなか目を離さないわたしに催促の言葉をかけてきた。

 

 そこには、まったくもって人を小馬鹿にしたような、しかし、非常に魅力的な内容を掲げ、なぜか諸条件に該当するわたしに一つの選択を迫るものだった。何度も読み返し、読み返ししているうちに冷静さを取り戻してきたわたしの内側から、なにか怒りにも似た感情が湧き出てきたのは当然のことのような気がする。

 

 しかし、その正当な怒りも、顔を上げ、妻を見た瞬間に萎えた。

 

 妻は、テーブルの向こう側から、ここ数カ月見たこともないほどの優しそうな微笑みと、それを上回った鬼気迫る眼光をもって、わたしのスマホを両方の手のひらに乗せ、小首をかしげてわたしに差し出していたのだった。

 

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謹啓 益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。

 さて、このたび、宇宙開発戦略本部では、これまでの宇宙機開発における我が国の技術的な遅れを解消し、この分野での世界的地位を飛躍的に高めるため、国際宇宙ステーション往復型有人宇宙機「かみよ99号」をおよそ四年前からJAXAの特別組織であるJAXA±1が継続的に開発し、このたび実践的ファーストステージ「有人大気圏外往復飛行」を実施するまでに至っています。

 つきましては、あなたは諸条件に合致する約九千人の候補者の中から厳選した三十人の飛行士候補の一人となりましたのでご通知申し上げます。

 建前上は、候補者個々人の自由意思によるものでありますが、是非、ご承諾くださるよう願うものであります。

 別紙に選考基準、承諾対価、諾否の方法等を明示しましたのでご確認ください。

 末文となり恐縮ですが、今後のご活躍を期待しております。

                       謹白

 

(別紙)

 

-選考基準-

①国家、地方公務員で定年前(早期)退職者

②年齢基準:1957年~1962年生

③性別:男

④武道(柔道、剣道、空手等四段以上)継続中

⑤在職中所得比40%未満

⑥退職金残高2,400千円未満

⑦退職後借入金残高1,000千円以上

⑧退職後にパートを始めた配偶者あり

⑨夢想家又は理想家

⑩人間ドック毎年受診(改善の有無は不問)

 

-着任対価-

①退職時退職金の55%追加支給

②行政職(一)八級適用(その他諸手当も同じ)

③1980年当時の共済組合年金制度適用(遺族年金含む)

④上記①~③の実施時期は着任後2月経過後

 

-勤務内容-

①宇宙機の操縦訓練及びその実践

 

-重要事項-

①動物実験不実施

②不慮の事故及び被害の規模等詳細は非公表

 

【諾否伝達の方法】

受諾者は、この令状を受け取った日の午後3時までに、自らの携帯電話(スマートホン限定)により、マイナンバーを入力し送信(再送信不可)のこと

 

                                  -了-

 

 

 

仕方ねえ、よく聞けよ・・(再掲)

 本ブログ開設してから、素人短編小説の各作品をやっとの思いで仕上げた後、そのあとがきを載せるテーマ「ひとこと」をもうけました。そして、いつの頃からからかその書き出しにショートショートを書き始めたのですが、最近これを読み返し、自分的に興味深かった十数編再掲してまいりました。

 ところが先日、あとがきのときに限らず、自分がショートショート単独でも書いていたのを数作発見。読んでみたところ、これまた非力な自分にしてはまあまあかなっていうのもいくつかありましたので、それを再掲してみることにしました。

…えっ、やっぱりズルしてる?

…アップ回数の増加を狙った高齢者のいかさま手口?!

…いやあ、まさか!またまたあなた…そんな言いがかりをおっしゃって (苦笑)

 

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 山脈の麓にあるこの山中で命を落とす羽目になるとは思ってもみなかったが、これも運命と受け入れなければならないのだろうか、おれの寿命は62年間だったと・・・。まあ、そう割り切って考えてみると、それはそれで諦めもつくような気がする。


 案外、誰でもそうなのかもしれない。

自分の寿命を予め知っているヤツなんて、いないはずだ。

 

 しかし・・・癌の告知などを受けて病の床に臥せている人なんかは、自分の死期までは未だ数年あるとか、じきに来るようだとかうすうす感じとることも希ではないような気がする。


 それにしてもだ・・・

 

 おれの場合、その寿命の訪れを、こんな里山の雑木林の中、樹齢30年ほどのコナラの下敷きなって腹から両方の太腿あたりを押しつぶされながら迎えるとは思いもよらなかった。


 定年退職を迎え、再雇用などまっぴら御免とばかりにくるりと会社に背を向けて、すたこらさっさと逃げ帰り、念願の自由人となって、近くの雑木が生い茂る森林を一町歩ほど安く譲り受け、近くの爺様に頼み込んで炭焼き窯をこしらえた。

 

 のんびり、気ままに木炭を焼いたり、山菜を採ったり、山道伝いにその辺りを散策したり・・・と理想的な第二の人生を迎えたばかりであったのだが・・・。


 今日は2回目の炭焼きをするために径40cm弱のコナラを切り倒そうとしていたときの事故だった。

 

 経験したことのない人にはわからないだろうが、樹高30mにも近いコナラの、その幹元から樹頂を見上げた時の威圧感・・・。

 

 そういえば、あのとき、その威圧感におれは少し圧倒されていたのかもしれない。


 技術的には、斜面下側の幹にチェーンソーで受け口を作ったのだが、おそらくその深さが浅かったのだと思う。

もちろん油断もあった。

 

そして、反対側の切り口と見込んだ箇所に、チェーン刃を当たときの角度が悪かったのか、巨木はメリメリ・・・というよりは、バリンッといった音を立ておれの方に倒れてきた。

 

 木切のときは、どこに倒れてきても避けることができるよう、逃げ場を作っておくのが常識と重々頭に叩き込んでいたはずなのだが・・・足が滑って逃げ切れず・・・今のこの、死を覚悟せざるを得ない事態に陥っている。


 陽が落ちてきた。

 

 もう、脱出を試みる体力も気力も残っていない。

 

 第一、今さっき咳をしたところ、はっきりそれと認識できるほどの血混じりの唾が手のひらにへばりついた。

 

 恐らく、内臓の内出血によるものだろう。息苦しくもなってきた・・・。それと同時に眠気に近い意識の薄らぎ感・・・初めての経験だった。


 ふうと一つ息を吐き、目を瞑り、この世との別れと観念したそのとき・・・。

 

 

 

 

・・・おい、人間様!目を開けろや、おい人間!


「ん・・・、だ、誰だ?お、おれに話しかけているのか・・・」


・・・まあな。


「た、助けてくれ・・・助け・・・助けをよんでくれ・・・ゲホッ」


・・・さあな、オラにはできねえな。


「な、な、ナニを言ってるんだ。ナ、ナラの木の下敷きに、な、なってるんだ・・・ゲッ」


・・・そんなことは、わかっている。


「ああ、目の前が、く、暗く・・・なってきた・・・くる・・・苦しい」


・・・苦しいべなあ。ずいぶん重てえだろう。


「重たい・・・っていうより・・・。とにかく人を・・・助けを・・・」


・・・助けは、あと小一時間後だ。それまで持ちそうか?おエライ人間様よ。


「ナナ、ナニを・・・言ってる・・・アンタは誰だ?・・・ど、どこにいる?」


・・・何処にいるって?ふん、決まってるだろうが。お前さんの身体の上だ。


「ど、どういう・・・意味・・・だ」


・・・だから、オラはお前さんの内臓を押し潰そうとしているコナラだわさ。


「ナ、ナニ・・・ゲホッ、ゲホッ、ゲエッ」


・・・可哀想になあ。苦しいべなあ。人間様にとっちゃあオラの幹、枝は重過ぎるだろうなあ。下の橋のところまでお前さんを探して消防団が来てるようだ。へっへっ・・・それまで人間様の身体が耐えれるかどうかだなあ。


「・・・いや、もう・・・もう、おれはもうダメだ・・・。さ、最後に一つだけ聞かせてくれ・・・」


・・・ん、なんだ。


「これは、アンタをチェーンソーで切り倒した・・・おれへの・・・復讐か?」


・・・復讐?


「・・・」


・・・違うよ。オラは幹を切られたぐらいで死にゃしねえしな。数ヶ月で切り株辺りに芽を出す予定よ。また三十年も若返るわい・・・ふふ。


「な、なら・・・なら、なぜ・・・」


・・・ところで、人間様ならずとも、生あるものはなんでもそうだが、終わりを目前にするとすべてを受け入れるらしいなあ。樹木のオラがお前さんに話しかけているこの状況・・・お前さん、不思議じゃないのかい?


「そんなこと・・・い、今さら問うてみても、なんになる・・・ふんっ・・・世の中、なんでも有り・・・最後の最後に・・・よくわかったよ・・・ゲッ」


・・・そうか、今さらか!なんでも有りか!最後にわかったか!ククク・・・よく言った。その返答、気に入った。


・・・お前さん、助かるよ・・・っていうか、助けてやるよ。今のお前さんにゃあわからんだろうが、お前さんの腹の横でオラは2本の枝で自分の身体を支えてやってるのよ。まあ、重さにすれば、実の三分の二くらいになあ。


・・・おっ、助けが来たから、早めに引っこ抜いてもらえや。


・・・一応、もう一度言っとくが、お前さんがオラの下敷きになったのは、オラのせいじゃねえぜい。ましてや切り倒されたことへの腹いせや復讐なんかじゃねえからな。よくよく忘れちゃあいけねえぞ。


・・・仕方がねえから教えてやろう。

よく聞けよ。お前さんが、こんな事態になったのはなあ、ふふふ・・・、ただ、お前さんの木を切る腕が、呆れるほど下手くそだっただけのことよ。

 

                                 -了-

 

 

 

 

ご近所寄り合い仲睦まじく(再掲)

 本ブログ開設してから、素人短編小説の各作品をやっとの思いで仕上げた後に、そのあとがきを載せるテーマ「ひとこと」をもうけました。そして、いつの頃からからかその書き出しにショートショートを書き始めたのですが、最近これを読み返し、自分的に興味深かった十数編再掲してまいりました。

 ところが先日、あとがきのときに限らず、ショートショート単独で書いていたのも数作発見。これまた、自分にしてはソコソコかなっていうのもありましたので、再掲してみることにしました。

…えっ、ズルしてる?

…アップ回数の増を狙った姑息な手口?!

…いやあ、まさか!あなた、またまた…そんなことおっしゃって、いや~ん(苦笑)

 

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奥羽山麓に十坪ほどの荒れ地を無償で借り、手造りの山小屋で炭焼きを始めてからもう四年数か月過ぎた。だいぶ山間深くに建てたものだから、半年ほども経たないうちに様々なヤツが立ち寄るようになった。

 

一番ちょくちょく来るのは女キツネで、日に三回は顔を見せる。歳のほどは知らないが、口調から中年くらいかと思う。目つきに小賢しさを感じるが、置いてある食い物をちょろまかすわけでもなく自由に行き来させている。

 

キツネといえば当然タヌキと来るわけで、こいつも常連客の一人だ。いつも雄雌揃ってくる。しばらく夫婦かと思っていたが、どうやら母息子の親子らしい。

 

息子タヌキの方はなにやらずいぶん甘ったれたマザコンで、見ていて飽きれるときもたびたびだ。

 

滅多にタヌキ、キツネの双方が一緒に来ることはないが、珍しく今日は鉢合わせした格好だ。特に仲が悪いわけでもないので放っておくと、それぞれ新年の挨拶を交わしている。

 

「これは奥さん、しばらくぶりだんしな。相変わらず息子さんとご一緒で」

 

「いやいや、キツネ姉さんも元気でなによりだんし。本年もよろしくお願いするんしな。ほれ、オメも姉さんさあいさつへで」

 

「・・・」

 

「あや、あや、これは面目ね!年明けのあいさつをコロッと忘れてらった。おめでとさんね!」

 

囲炉裏に手をかざしてながら、こんな他愛のないやりとりを聞きいていると、真っ白い野ウサギが駆け込んできた。ゼイゼイと息を切らしている。

 

「なした?」

 

のっぴきならないほど慌てて肩で息する野ウサギのその様子に思わず問いかけてみた。

 

「おう、旦那!危ねえがったで。デイゴの辺りを通ったら、突然、鉄砲で撃たれそうになってよう。ありゃ、旦那の向かいのトシなんたな。下手くそで助かった」

 

「ハハハ・・・んだのが!んだどもえがったな~、新年早々ウサギ汁にならねでよ」

 

「やがましで!他人事だと思ってよう・・・」

 

「いや、んだな!こりゃおれが悪かった」

 

確かに新年早々命を狙われたんだから、気の毒な話だった。茶化す場面じゃなかったなと頭をかきながらこう言い分けた。

 

「ところで、ねえ、今年は寅年だや!」

 

こう話しを切り出したのは、女ギツネだ。

 

「昔から寅年は、山のオガリが悪いって聞ぐねが。んだんて、我慢へねでついつい人里さ近づいて捕まったり、撃たれたりするヤツが多いらしいんて、気をつけねばな!」

 

この話は、おれも知っている。すこぶる元気な姿を朝に見ても、夕方には皮を剥がれて鍋の中・・・ていうのは洒落にもならない。

 

・・・と、そこに、空気穴の切れ間からちょこんと顔を出したのは、アナグマだ。ここら辺ではマミといわれ、身につけた肉と脂肪がとろけるように甘くて人間好みらしく、狩猟解禁になると一番に命を狙われる。気の毒といえば気の毒だが・・・。

 

けれども、ちょうどよく小屋に来てくれた。おれはコイツらマミにひと言文句があった。

 

「ところでマミ!」

 

「ん、なんだ、旦那さん?」

 

「オメエがた、去年の秋から冬の始まりにかげで、リュウガの山裾さ並べてらクルミのほだ木どこ、爪でずたずた傷つけだべ!ありゃあ、どういう魂胆だ!あこのほだ木は一番新しいヤツだや!」

 

母ダヌキが間髪入れずに応援してくれた。

 

「あやっ、本当にが!?マミ、それだばダメだ!それだば穏やかな旦那さんもごしゃぐに決まってら!」

 

「そりゃんだな。どういう訳だ?オメの方さ言い分はあるなが?」

 

珍しく野ウサギも話しに入ってきた。

 

「い、いや、そんたはずねえなや・・・」

 

そんたはずはねえ・・・とはいうものの、マミの返答はしどろもどろで怪しい限りだ。

 

「まあ、推測してみればだども・・・ほだ木さ打ってある駒っこの傍さはその香りみでたものがあって・・・」

 

「ええっ、あってだってぇ・・・?」

 

意地悪く女キツネが揚げ足をとった。

 

「ああ、あ、いや・・・あるみてえたぐて。それを狙って虫が寄るもんだから・・・」

 

「はあ~、寄るもんだなが?よく知ってることなあ~」

 

女キツネがたたみ掛ける。

 

見ていて、気の毒にすらなったが、一応、謝罪の言葉の一つももらいたいので促してみた。

 

「おい、マミよ。みんなの前で、ここに至ってまだオメエはしらを切るつもりだが?」

 

「・・・あ、いや・・・わがった!

旦那のほだ木を傷つけたのは・・・確かにオラがただ。

すまねがった・・・」

 

母親タヌキも調子にのった。

 

「え、え?最後の方、よく聞けねがったども・・・ん、なに?ダンナさんも聞けねがったよね?」

 

「ふふふ・・・、まあ、んだな。あんまり良くは聞けねがったな」

 

「ああ~、んだがら面目ねがった!申し訳ねがったス!!

だども・・・」

 

「だどもなんだい?」

 

母親タヌキと女キツネが声を揃えた。

 

「いやあ、人のごと悪ぐいうわけではねども、あれはオラがたマミだけの仕業じゃねで!」

 

「へば、あと誰よ?」

 

生意気にも息子タヌキが母親の後ろから首だけ出して問いかけた。

 

「あれぇ、あれよ・・・十年ほど前からこのあたりさ棲みつくようになった、あのハクビシンよお。

アイツらの方がおれらマミより酷えことしてるって!小林道の石っころほっけして車に迷惑かけてらのはあのハクビシンだでぇ~。確かにおれらマミもやってるども、粗方あいつらだや~!!」

 

「ふわあ~・・・うるせなや。ふんっ、だども旦那よ、そのマミの言うことはホントだや」

 

畳んであるブルーシートの中から顔を出したのは、冬眠に入っているはずのアオダイショウだ。横からチロチロ舌を出しながら顔を出しているのはカナヘビのようだ。

 

けれどなんとも嬉しいことに、女キツネ、親子ダヌキに野ウサギ、マミ(アナグマ)、アオダイショウ、カナヘビ・・・。

 

なんともまあ、日頃近所付き合いをしている山麓の小獣たちが、新年早々小屋を訪れてくれた。

 

・・・と、ここでまた来客が・・・。

 

「どもで~す!新年のごあいさつに参りました~、新入りのハクビシンでございまあ~す!!」

 

一同、入口の方に首をひねって顔を向けた。

なんにしても年明け早々の勢ぞろい。

 

雪が消え、次の季節が訪れると、コイツらに加えてイノシシ、カモシカ(最近はニホンジカも・・・)、ツキノワグマが動き始める。

 

まあ、みんないいヤツらだ。

 

けれども時として、勤め人を卒業し、落ち着いた隠居暮らしに入ったおれには”騒がしいのもほどほどに願いたい”と思うこともたびたびあるというのが本心だ。

 

しかしまあ落ち着いて考えてみると、そもそも勝手にこいつらのねぐらにお邪魔してるのはおれの方なんだからしょうがない。なんとかここを人生の隠れ家としてことしも暮らしたいんで宜しく願いたいものだ。

 

「おい、オメがた。ここにお神酒を五升ばし持参した。

心存分飲んでけれ!

んだんて、今年もなんとがよろしくな!」

                                     -了-