素人短編小説
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圧巻!!渓流釣り真髄への入り口へ‥

>> 入渓、雪しろ岩魚を求めて・・

 

 岩魚や山女を狙った釣り、いわゆる渓流釣りにのめり込んでいた頃のことです。ひょんなことから隣町で会社を経営するすずきさんを紹介してもらいました。この方、渓流釣りにかけてはプロ中のプロと近辺でも名高い方です。渓流素人のわたくしにもそのウワサは耳におよんでおりました。すずきさんは実に気さくな方で、知り合ったその日に「じゃあ、天皇誕生日(この頃はまだ4月29日がその祝日でした)の朝3時に卸売市場で落ち合って行きましょう」ということになりました。

 

 当日の車中、すずきさんは「今日時間あるんだベ?オレ、今日は子どもの運動会でほんとは午前中だけのつもりだったけど行くのやめた。ほりない沢で一日釣ろう!」、わたくし「はあ、オレはいいスけど・・。いいんスカ?子どもさん・・」、すずきさん「いいって、いいって、行こう!ほりない沢は県内でも有数の渓流だしね」。

 

 早朝4時30分、ほりない沢に入渓であります。

 

 途中、同時に入渓した釣り人2人との話し合いで、わたくしたちは1.5Kmほど上流の三角岩から釣り始めることになりました。「よし、ここから始めよう」というすずきさん、わたくしの仕掛けを見て「それじゃあダメだ、竿貸してみて・・」とおもむろにわたくしの仕掛けを直し、釣り方を伝授してくださいました。自分の腕前もまんざらではないと思ってたためちょっと心が傷つきましたが説明を聞いてすっかり納得。

 

 「先にやってていいよ!」というすずきさんの声で第一投目・・ククッ・・ウソッ、魚信!?


>> 一本の細い雑木に命を託して・・

 

 第一投目・・ククッ・・ウソッ、魚信!?・・いや、ウソではありません、夢でもありません。確かにわたくしの愛竿の先に良型のサカナがいるようです。他のサカナを散らしてはいけないので、素早く引き上げます。姿を現したのは、まだサビがとれない真っ黒な27cm超級のイワナです。「すずきさん、一発だ!」。悠然と仕掛けを作っていたすずきさんはニッコリ笑って「よーし、いけるな今日は!ここのイワナはみんな居つきなんだ。だから、大切に釣らないとナ。あんまりいないかもしれないが20cm以下級はリリースな」。

 

 沢登りしながら釣り続けて2、3時間ほど、ほりない沢はその表情を次々に変え、周囲は切り立った岩肌でどんどん厳しくなって行きます。ここまでの釣果はわたくしが2、3尾、すずきさんが5、6尾ほどです。流れが左側に大きく曲がるところですずきさんが「ここは巻くのも無理だし、この岩づたいに進むしかない。ちょうどロッククライミングの連中のハーケンが打ってあるから、これに指を入れてつかまりながらいこう。オレが言うとおりにして慎重にな!落ちたらこの激流で一発(・・死?)だからね」。見上げると確かに岩肌に直径3cmほどのハーケンが打ってあります。一旦竿をたたみ、ザックに入れて沢登りの開始です。すずきさんが「まず、このハーケンに左手の指を入れてから、ここに右足をかけて・・」といった具合に解説してくれながら、それに習って進みます。と、すずきさんが「あれ、ここハーケンが無いなあ。仕方ない、ここの柴(雑木の小枝)につかまって来て。大丈夫折れないから、ほら!」。えー、まじッスすかあ?。恐る恐る手をかけ、全体重を細い柴に託します。これが折れたり、抜けたりしたら3mほど下の激流にあっという間に飲み込まれるでしょう。南無三!

 

「いやあ、ここもきついなあ。よし山から橋の代わりになるような倒木かなにか探してこよう!」。・・唖然。

 

>> 激釣13時間の始まり・・

 

 釣り進むうちに雪しろ水を含んだほりない沢はますます激しさを増していきます。わたくしが手前の岸、すずきさんが向こう岸ということで釣っていたのですが、なかなか向こう岸に好ポイントが見つからなくなり、わたくしの後をすずきさんが釣り探ってくるといった感じになりました。最初は「ワルイなあ・・」などと思っていたのですが、わたくしが釣り終えたポイントですずきさんはナント好調に釣り上げている様子です。あれぇーおっかしいなあ?。

 

 もう入渓してから7時間ほど経っています。「もうちょっとで沢が二つに分かれるよ。一本がMANDAノ沢でもう一本があさひ沢だ。マンダノ沢は渓流釣りをしている人の中でも入ったことのある人はそんなにいない秘渓だ。でもマンダノ沢で釣るには泊まりがけでなきゃムリだから入り口だけ見て、左のあさひ沢に入ろう!」とすずきさん。わたくし「(ややゼイゼイしながら)ハ、ハイッ!」。

 

>> ラーメンをすすりながら聞く釣りの教訓・・

 

 やがてすずきさんの言ったとおり沢はまっすぐの沢(マンダノ沢)に左側から同じくらいの幅で合流してくるあさひ沢が見えてきました。めったに来れないからということでまずマンダノ沢の入り口付近まで行って引き返し、あさひ沢に入りました。本流のほりない沢とはまた違って少し緩やかで優しそうな渓相です。30分ほど歩き、少し遅い昼食をとることにしました。すずきさんが野営道具でお湯を沸かします。もちろんあさひ沢の水を沸かしているのです。重いからここに釣った魚を置いていこう-ということで黒サビの凛々しい居つきイワナを魚篭から取り出し腹を裂き、ナイロン袋に入れて沢の端に埋めるように保管しました。数はSUZUKIさんが24、5尾、わたくしが10尾ほどです。いずれも尺をわずかに下回る良型です。「お湯も沸いたし、さあ、飯だ!」。すずきさんは自分が釣ったイワナをナイフで真ん中からドンッと真っ二つにしてお湯の中に入れ、インスタントの味噌ラーメンを作ってくれました。

 

 フウ、フウいいながらラーメンすすり、おにぎりをほおばりながらすずきさん「オレはあんまり人と一緒に釣りに来ないんだ。だから今日は特別。ほかの人は一人じゃ危ないと言うけど、オレは数人で行くとかえって無理をして危険だと思っている。キミも釣りは一人で歩いてみるといい。ただし、怖くなったらそこで必ず帰ること。ここが大切なんだ。周りに誰も笑う人なんていないんだから、必ず怖いって思ったら帰ることだ。その先はまた今度くればいい。そうすればそのとき帰った場所までは2度目の道のりになるだろう。それから50mなら50mそのときまた挑戦すればいいのさ」。

 

>> 天候急変、必死の帰還・・

 

  昼食をとり、あさひ沢の釣りを再開しました。2時間ほど釣り登ったところで沢の表情は一変しゴツゴツした岩だらけの渓相となりました。わたくしが2、3尾追加した頃、突然すずきさんが「マズイ、帰るよ!雨が落ちてきた!」。すずきさんの話しだとこれだけ深い渓流では天気がすぐに変わってしまう、特に雨には最も注意が必要だとのことです。大急ぎで竿をたたみ、帰路につきました。途中、あの昼食をとった場所でイワナを魚篭に入れ行こうとすると、すずきさんが「あれ、これ見て!熊が通ったらしい」と指差しています。「ええっ?」すずきさんの指す先を見ると、枯れた3mほどの木の肌が真新しく剥ぎ取られ、ぎざぎざになっています。「俺たちが行ってすぐだな、こりゃ・・。まあいい、帰ろう!」

 

 なにが「まあいい」のかはわかりませんでしたが、雲行きもいよいよ怪しくなり、二人は沢を再び降り始めました。途中、雨となり二人ともびしょぬれです。そしてやっとの思いで最後の沢を横断する地点までたどりつきました。驚いたことに、出発したときは足首あたりまでしかなかった水位が、降雨のせいで膝あたりまでになっています。転倒しないようすずきさんと手をつなぎ横断。時計を見ると午後5時半くらいを指しています。入渓してから13時間近い時間が経っています。無事に帰ったことの安堵の気持ちと厳しい釣りをし終えた充実感に浸りながら釣り長靴を脱ごうとすると、中がグチャグチャという感じでなかなか脱げません。やっとの思いで釣り長靴を脱いでビックリ!白い靴下は真っ赤、その靴下を脱ぐとわたくしの足の爪のほとんど全部がはがれてしまっていたのでありました。釣果:すずきさん30尾(マナー限度)、わたくし12尾。

 

【 仕掛け 】  ダイワカーボンロッド(名前忘れた!)5.3m。道糸ナイロン糸1.5号一ヒロ強で穂先から40cm程のところにトンボ。イワナ鈎9号。エサはドンガラの虫。

 

                                <2編目>

 

 

 

一本だけ買おうかなあ・・カミさんも勘違い応援

 

 隣町にある管理釣り場でのヘラ釣り・・常連釣り師のほとんどが和竿を所有し、これで釣りをしております。

 

 初めてこの管理釣り場を訪れた頃は、その値段や特徴を聞いてまさに仰天。「な、なんでそんな高価な、しかも重い、数釣りをすると曲がるそんな竿を、釣って食するわけでもないヘラ釣りのために大枚をはたいて使わなきゃいけないんだ??」とまったく理解できなかったとしても、常識的に不思議じゃないよなあ~と今でも思っているわけであります。

 

 …が、ヘラ釣りを始めて5年目、当時はそう思っていたわたくしの家にもなぜか十数本の紀州竿が置かれているわけでありまして。え~、やっぱり釣りは悪魔の趣味、究極の道楽とでも申しましょうか。

 

 あるとき、「なにも竹でなきゃヘラが釣れないわけじゃあねえ。カーボンでもなんでもいいに決まっているべえ。ただ、どんな道具でも大事にしなきゃいけねえぞ」と釣り場で師匠のSYOZI爺。

 

 「そうだよなあ。あくまでも竿は釣るための道具だよなあ~。要は腕が第一さ」とわたくし。

 

 しかし、そうは言ってもわたくしとて(当時の)釣り歴20年超、年間50日以上の釣行を続けている者でありまして、その和竿というものに興味がないわけではありません。

 

 隣のSYOZI爺に何気なく「ところで、和竿っていくらくらいするものなんスかあ?」と尋ねてみますと、「ああっ?安いのは尺単価4、5千円からあるべえ。高いのはそりゃ、際限無しよお」

 

 わたくし「えっ、尺単価スカ?」、SYOZI爺「おう、そんだから尺単価で5千円なら10尺竿で5万円ていうヤツよ。まあ、ここら辺じゃ尺1万円くらいが手ごろだべえ」。

 

 わたくし「尺単価1万円?それじゃあ10尺で10万円、15尺で15万円?!」ひえーっ!こりゃあ驚いたぜい!!まあ、雑誌とかじゃあ読んだことがあるけどはあ、ホントにそういう人たちっているんだなあ(感心)

 

 竿をたたんで帰えろうとしたとき、SYOZI爺「ちょっと待て!確か竿のチラシが来ていたから見てみれ、ほれっ!別に買えって言うんじゃねえぞ!」と自分の道具入れの中から大きめのチラシを渡されました。

 

 家に帰って風呂に入り、晩酌をしながら夕食をとりつつSYOZI爺からもらったチラシを見ているとカミさん「これこれ、食事中にチラシなんか見ないでよ!」

 

 続けて「えっ、何見ているの?竿?今やっているヘラ釣りの?どれどれ5千円、9千円買うの?」、わたくし「ええっ?う~ん、まあ興味本位で1本くらい買ってみようかな。買ってもこの5千円の10尺竿くらいかなあ

 

 するとカミさん何を思ったか「ええ~、5千円?ずいぶん安いの選ぶじゃない。せめて1万5千円くらいのでもいいんじゃない。カンパしてあげようか?」と愛想よくニコッ!

 

 わたくし「ええっ?」、カミさん「磯釣りの竿やなんかに比べたらずうっと安いじゃん!」

 

 …こりゃあ、完璧に勘違いしているわ。これが1尺あたりの単価なんて言えねえよなあハハハ(苦笑)。

 

 そしてその後、わたくしがこっそり貯金をおろし、水連作高野竹10.1尺の和竿を手にするのにさほど長い時間を有しなかったことは言うまでもないのでありまして

 

                        <2編目>

 

 

 

酷暑の風景

 酷暑の毎日が続いていた。常軌を逸しているとしか表現しようがないギラギラした太陽が今日も真っ青な空に居座り、街全体を炙り出している。こんな日が一ヶ月も連続している夏真っ盛りの白昼。

 

 どこでどんな非常識があってもなんらの不思議もないし、果たしてそれは、誰に責任があるとかどうとかなどといった問題ではないと思う。

 

 現に、僕が歩いているこの細いでこぼこした継ぎ接ぎだらけのアスファルト道。道の中央には雪国にしか見られない消雪パイプの古く寂れた路面の盛り上がりが続いている。

 

 ここを通るたびになんと醜い道路かと常々湧き上がる嫌悪の気持ちを何とか抑えながら正面の遠くに視線を送り歩いているのだが、この日の凶器にも似た太陽の情け容赦ない照りつけに、良識によって制御されるはずの辛抱が機能不全を起こしている。

 

 耐えきれず、僕は小汚い板塀に右手をかけて我が身を支え、できるだけゆっくりとしゃがみ込み、細く乾いた側溝にゲホゲホと嗚咽しながら嘔吐した。

 

 肩を揺さぶりながら吐き終わり、その吐しゃ物を見ると黄色く泡立った少量の液体で固形物はない。胃液らしかった。

 

 そういえば、昨夜は食欲がなく十数本の素麺を口にしただけで布団に横たわったものの暑苦しさに熟睡できず、今朝も寝不足のまま水すら腹に入れず出社したのだった。

 

 今は朝一番に訪問を約束していた取引先での短いプレゼンを終えて会社に戻る途中の帰り道だ。

 

 あともう四、五百メートルも歩けば駅に着くだろう。早く電車に乗り込みたかった。近頃の電車内は比較的エアコンの冷気が低めに設定されているのかもしれない。時には口では表現できないほどの快適さを感じる。

 

 もうすぐだ。

 乗車する直前、キンキンに冷えたお気に入りの果物ジュースを買い、車内の冷房に包まれながらそれを一気に飲み干すことにしよう。そうすれば失われていた英気も少しは戻るだろう。午後からもスケジュールが詰まっている。

 

 改札を抜け、ホームに降り、いつも利用している清涼飲料水の自販機に向かったが、あいにく三、四人が並んでいる。

 

 どうやら先頭の爺さんが、紙幣口にお札が入らず戸惑っているらしい。誰も助けようとしない。僕は近づいて手伝いを申し出、爺さんの千円札を借り、望みの炭酸飲料を買ってあげた。

もちろん、釣銭と一緒に。

 

 そしてその後、自販機に並んでいる列の後ろに戻ろうとしたそのときだった・・僕は、何人かの暴漢に後ろから羽交い絞めされ、プラットホームに組み伏せられた。

 

「うわっ、痛てえ、このクソ野郎なにしやがんだ!離しやがれ!」

 

「抵抗しないでください!ほかの利用者さんの迷惑になります!大人しくしてください!さあ、冷静になって!」

 

「うわあっ!痛い!大変です、気をつけてください!この人、なんか凶器のようなモノを持っています!さ、刺されました・・」

 

「ぐるる・・ざまあ見やがれ!護身用の〇〇よ。俺に何かしやがるヤツは滅多刺しにしてやる!とにかく俺の上から早くどきやがれ!ぐるるる・・」

 

「警察が到着しました!!みんな、こいつが身動きできないよう強く抑えて!」

 

「警察だとう!一体おれが何したってんだ!クソじじいがもたもたしてやがるから、二、三発ぶちかました後、言うことを聞かねえくされ自販機を消火器でぶち壊して中からジュースを買っただけじゃねえか。金もちょうど百三十円思いっきり投げつけて払ってやったろうが!」

 

「なに、二人を傷つけたああ?あたりめえだろう、おれがジュースを買うのを邪魔しようとしやがったんだから!とにかく、おれを放せ!放しやがれ!ぶっ殺すぞ!」

 

「はい、立って!ほら立つんだ!器物破損、人身傷害の現行犯で逮捕する。ほら、一緒に来るんだ!」

 

「ぐるるる・・なんだ、なんだ?断りもなく人に手錠なんかかけやがって!おれは、ただ一刻も早く冷たいジュースをクーラーの効いた電車の中で飲もうとしただけじゃねえか!それのどこが・・一体どこが・・」

 

 

                           -了-

 

 

 

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