素人短編小説
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峠越えてのヤスケイワナ・行きはヨイヨイ帰りは

 

 渓流の、しかもイワナ釣りに夢中になっていた頃はずいぶんいろんな沢を探して歩きました。

 

 あんまり遠征とかはしなかったのですが、県南部の小さな渓流を地図を頼りに探して小まめに釣り歩いていたものです。

 

 地図であたりをつけ、誰も入渓している様子がない小さな沢の数少ないポイントにそっと仕掛けを差し込むとブルッと手応え・・至福の一瞬がそこにありました。

 

 そんな名も知れぬ渓流の中でもヤスケ沢は、わたくしが探し当てた(・・とは言ってもわたくしが知らなかっただけで、けっこう有名な沢だということをずいぶん後で知りました)沢の中でも特筆すべき渓流であり、すばらしいイワナが釣れたものです。

 

 春となり、いよいよ渓流解禁。わたくしは去年自分が見つけたヤスケ沢へ真っ先に出かけました。本来ヤスケ沢には隣市を通って行くのですが、それだと1時間以上もかかってしまいます。

 

 しかし、R町の東、クロ森峠を越えれば40分ぐらいで到着です。わたくしは迷わずクロ森峠をめざしました。ところが・・陽春の中快適に車を走らせるわたくしは、峠を越えたところで急ブレーキ!!

 

 えっー!うっそー!!・・

 なんと、そこには30mほどの残雪が!

 

   

  息も絶え絶え、帰りは過換気症候群!?

 

 なんということでしょう・・せっかくの大物イワナを狙いに車を走らせていたのに。もうとっくに雪なんて消えていると思っていたのですが、やっぱり奥羽山脈をあまくは見ていけないということでしょうか。

 

 クロ森峠の裏側は、南や西向きの斜面とは大違いです。

 そう、まだまだ厚い雪に覆われていますし、道路にだってところどころに数十メートルほどの積雪が点在しているではありませんか。

 

 う~ん・・参った!やっぱり少々遠くてもY市から来るべきだったかあ。後悔しても、もうあとの祭りです。ここから後戻りして隣市を目指していたら2時間以上もかかってしまう、どうしよう・・。

 

 そのとき、心の中の釣りの悪魔がつぶやきました。・・歩いてきゃいいんじゃないか?そんなに遠くないんじゃなかったけ?トランクに確かカンジキも入ってたんじゃないか?絶対釣れるって今日!! 

 

 よっしゃあ!行くぞお!!・・てなわけで、ナニをとち狂ったか、わたくしはそこに車を駐車し、カンジキを履き、ザックに愛竿"春渓"、腰に魚篭を下げ、残雪の上をすべるように、そして真っ直ぐに目指すYASUKE沢へと向かったのであります。

 

 その日の釣果はまさに大漁でありました。イワナバリの8号ではまったく小さく、尺上クラスを数匹釣り落としたものの尺前後の良型イワナを7、8尾魚篭に納めたのでありました。

 

 時計を見るともう午後の3時近くになっています。

 

 帰らなきゃ!どれくらいで着くかな?来る時は残雪の上を真っ直ぐに来たから・・それでも40分くらいは歩いたよなあ・・いや、もっとかなあ?小さな不安が帰路に着く足を1歩進めるごとに大きくなっていきます。

 

 そして予感は見事に的中。そりゃあそうです。沢に向かうときは残雪の上を一直線に、いわば転げ落ちるように向かったのですが、帰りは行きの足跡をそのままなぞって登ってくるなど不可能なことなのでした。

 

 しかも、その残雪も陽の光に緩みざくざくととしていて足をとられます。結局、息も絶え絶えに車まで3時間ほどもかかってやっと到着!

 

 またその寸前には生まれて初めて大きな雪崩も目撃するというおまけ付きで。ハアハア、ゼイゼイ、ハアハア、ゼイゼイ・・。思わず四つん這いになり「た、助かったぁ・・」。ハアハア、ゼイゼイ、ハアハア、ゼイゼイ・・。

 

 車のエンジンをかけ、およそ30分後にR町の東端の集落に着いた頃もあの3時間におよぶ雪山登りを思い出し、「危なかったなあ・・まだ心臓がドキドキしてるよお」などと思っていると、なんか手足がしびれてきました。

 

 ええっ、なに?

 なんか顔もしびれてきた・・なに??ウソ!!結局これは極度の疲労と興奮からくる、その名も「過換気症候群」なのでありました。

 

 かくなるわたくし、バスケットボールの競技選手として長くプレーしてきて、過換気症候群を1、2度経験済みなのでありましたので、急きょ車を止め、リクライニングを倒し、たまたま持っていたスーパーの袋を口にあてスーハー、スーハー・・。

 

 オレってつくづくバカ?

 

                     <第4編目>

 

 

 

 

屈辱の7回連続ボウズ・・T川の池に魚信なし

 

 

(以下、かれこれ25年以上も前の文章でありす。)

 

 真冬の話しです。

 

 隣市に"T川の池"というヘラブナの釣堀があることを聞いたのは3、4年ほども前のことでしょうか。これがなかなか繊細で面白いとの話しでしたので、釣具を車に積んである日曜日にいそいそと出かけてみました。

 

 釣堀ですからもちろん料金があります。1日1,000円でありました。釣堀にはもう7、8人の釣り人が糸を垂れています。

 

 しかもほとんどの人が、釣り雑誌でしか見たことない小さな一人用のテントに入っての釣りでありました。へえ~、こんなことしてホントに釣ってんだ。

 

 あ、釣れた!、あ、あっちも・・よっしゃあ、やってみよう!といったわけでわたくしも一番手前に釣り座を設けました。

 

 この日は幸いに風もなく、雪もちらちら降ってくる程度の釣り日和。準備をしながら周囲の様子を見てみると皆さん意外と短い竿を出しています。

 

 少し離れた両脇の釣り人に「すんません、初めてきたんですけど・・何尺ですか?」と尋ねると、片方の釣り人が9尺、もう片方の釣り人が10尺とのことでした。

 

 そこでわたくしも10尺のカーボン竿でチャレンジです。よくよく観察しているとどうやらみんな底釣りをしているようです。なるほど、なるほど・・なんか面白そうだぜい(ゾクゾク・・)。

 

 ・・しかし、9時半頃から始めて3時間、昼もとうに過ぎたというのにわたくしのヘラ浮子はピクリとも動きません。「今日はあんまり食いがよくないからナー」といって声をかけてくれる隣の釣り人も、20分くらいの間隔で竿をしならせています。

 

 結局、その日はあえなくボウズ・・いやそれどころか釣堀"T川の池"に通えども、通えどもまったく魚信というものがありません。

 

 結果、なんともその後、釣行を何度重ねてもヘラブナの魚影を見ることはありませんでした。屈辱の7連続ボウズであります。

 

そして、それからがわたくしの本格的なヘラブナ釣りの始まりであるといっても過言ではないような気がします。

 

 ヘラブナに限らず、多くの釣り人を魅了して止まない釣りにはそれなりの理由があるのだと改めて思わずにはいられない思い出であります。

 

【 仕掛け 】  竿は10尺、カーボンのヘラ竿、かちどき。ミチ糸は1.5号、改良スレバリ2号。バラケとグルテンのセット釣り。浮子は小春4号。

 

 

                    <第5編目>

 

 

冬磯での交通事故・・嗚呼

 

 12月の28日だったように思います。厳しい寒気が一時的に弱まり、天気予報では気温も上昇し3から5ほどにも上がり、空にも青空が広がり太陽が顔を出すとのことでありました。

 

 いやいや、そんな日に竿を出さない釣師ではないだろう!とばかりに、前日職場で年次休暇の請求をしたところ、上司「んっ、明日?!明日は仕事納めで、夕方から職員全体の忘年会だろう・・」とけげんそうな顔。

 

 わたくし「頼んます、課長!!最近あんまり調子が良くなくて、仲間に水を空けられていまして・・」、上司「なんだぁ~、釣りかい?!」、わたくし「ええっ?・・ええ!そうスけど・・頼みますよ~」、上司「だってキミ、忘年会の会費払ってあるんだろう。ドタキャンでは会費は戻らないって話だぞ~」、わたくし「3,000円や4,000円の問題じゃありませんよ!」、上司「困ったヤツだなあ~」・・といったやりとりがあった翌日・・。

 

 天気予報は的中し穏やかな天気・・早朝、目指すは約120km先のOGA磯。もう一度車のトランクの中を確認、免許証と財布の中身も大丈夫です。よしっ、出発!途中、国道に掲げてある温度表示を見ると1度です。天気予報によると今日の気温は5、6度くらいまで上がるとのこと。いつものこの時期の寒クロ釣りでは雪道のためかなり神経質な運転が求められますが、今年は降雪時期が遅く、今日は前日の雨も手伝って路面に雪がありません。この分だと2時間ちょっとでKAM漁港まで到着できそうです。

 

 ・・OGA磯に入りました。あと10分くらいで渡船場です。「そうだ、ちょっとトイレで用を足していこう。ここまで来たらあわててもしょうがない。体調を整えてからの方がいいだろう」とDAISN橋駐車場の公衆トイレで用を済ませ、再びハンドルを握りました。

 

 「そうだ、シートベルト、シートベルト」。カシャッ!「おお、漁港が見えてきた。ここのカーブを右に入りながら左に曲がるとすぐだぞ~

 

 ・・の瞬間!!わあーっ、道路が凍ってるー!左に曲がれない!対向車線に入っちまう!わあー対向車がいるうっ!!わああああ~ダメだあ~・・(目をつむり、ハンドルに腕を突っ張る)・・あれっ、ぶつからないのカナ?・・と、その瞬間!グワシャーン!!!シートベルトに強い衝撃。

 

 少しして我に返り、車を飛び出すと相手の運転手も「いやあ、参ったなあ~」と車から出てきました。わたくし「す、すみませ~ん!大丈夫ですか??」、相手の人「ふう、びっくりした!・・あれっ、あんたR町の人!?」、わたくし「ハ、ハイ!」、相手の人「いつか会議で一緒になったよね。しかし、それにしても参ったなあ・・とりあえず警察を呼ぼうか!」

 

 痛恨の交通事故でありました。

 天気予報では気温が5、6度でもOGA磯の日陰は潮風にさらされアイスバーンとなるのをすっかり忘れていました。ハンドルをきりすぎてそのハンドルがロックされたままわたくしの車は対向車線に入り、そのまま対向車線で止まった相手の人(ISIさんという地元集落の人であります・・)の車に正面から衝突したのですから、渡船の親父さんの家を借りての事情聴取でも弁解のしようもなく、ただただ平謝りのわたくしでありました。

 

 渡船のカアさんは「とにかく相手がいい人でヨカッタよ。不幸中の幸いだ」と慰めてくれました。

 

 強風、そのときボンネットが!・・・な、なに!?

 

  事情聴取も終わり、地元の駐在さんに「この車、ここに置いていった方がいいですよね?」とうなだれながら尋ねると、「いや、動くだろう?動くんだったら明るいうちに帰った方がいい。気をつけてな!他の警察官に止められたら私の名前を言って事情を説明してくれればいいから」、「ハ、ハイ!」

 

 すると、隣で渡船の親父さんが「なんだ、明るいうちに帰ればいいんだったら、午前中釣っていったらいいべえ!」、わたくし「ええーっ?勘弁して!帰るよ・・迷惑かけました・・(ペコリ)」

 

 外に出て前の右半分がぐしゃっとつぶれ、ボンネットが盛り上がり運転席からの視界を3分の1程度もさえぎっている自分の車に乗り込み帰路につきました。ボンネットの盛り上がりのため背筋をピンと伸ばしていなければ前方がよく見えません。

 

 すれ違う車、すれ違う車の中の人たちがわたくしの悲惨な車を見て驚いたり、指をさしたり、振り返ったりしているようです。

 

 「参ったなあ・・背中も疲れるし」などと思ったそのときです。

 

 右前方からの風が強くなってきたかと思うと盛り上がったボンネットがガタガタ、ガタガタ震えはじめました。な、なんだ?ナニか起こるのか?と思ったその瞬間です。ブアターン!!という大きく激しい音とともにフロントガラスからの視界が突然消えてしまいました。

 

 そうです、おそらくボンネットを固定していた部品が風の強さに外れてしまい、そのボンネットがものすごい勢いで開いてフロントガラスを直撃したというわけなのです。やばい!とっさにそう思ったわたくしは、静かにそのままブレーキをかけました。頼む~誰も追突してくれるなよ~。

 

 無事、車は止まりました。後続車もわたくしの車をいぶかしげに追い越していっているようです。疲れた身体で車から降り、持っていたロープでボンネットを車体に固定し再び運転席に乗り込んで車を走らせました。

 

 あれ、なんかさっきまでと違うなあ・・なんだ?・・あっ、そうか!今、ボンネットがフロントガラスに思いっきりぶつかったせいで盛り上がったところが平たくなって前が見やすくなったんだ!

 

 

                   <第5編目>

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