経営者のための債権管理の基本として、与信管理と信用調査について紹介します。

 

  与信管理とは

 与信とは、文字通り取引相手に信用を与えることをいい、与信管理とは、取引相手を評価(与信限度額を設定)し、与信限度額を基準とした売上債権残高を管理することをいいます。

  取引先が倒産して債権の回収が困難になれば、会社は大きな損害を被ることになるため、取引相手ごとに適切な与信限度額を設定し、リスクを極力少なくする必要があります。

  与信限度額の設定

 新規の取引先に対して与信限度額を設定するためには、いわゆる信用調査を行います。

 信用調査では、取引先の名称、住所、業歴、会社 規模、財務状況等を把握します。

さらには、

・新規の取引先のお客様、同業者、金融機関等に問い合わせる
・会社年鑑や業界紙などで調べる
・登記簿謄本や不動産登記を取り寄せる
・企業調査会社の調査データを利用する

といった方法で情報を入手することも検討します。

 このようにして把握した情報や取引予定額、 支払条件等を総合的に勘案して与信限度額を設定します。

  与信限度額は、取引を開始したときだけではなく、既存の取引先に対しても定期的に見直す必要があります。

 たとえば、支払条件変更の打診があった場合、取引金額に急激な変化が生じた場合、取引先の財務状況が著しく悪化した場合には、その原因を調べて、取引可能金額を変更していくことになります。

  信用調査の目的

 取引先の信用調査の目的は、取引先の安全性の確認と、積極的な販売促進活動が挙げられます。

(1)取引先の安全性の確認 

 信用調査の1つ目の目的は、債権を確実に回収できるよう取引先の安全性を確認することです。取引先の信用度が高ければ安心して取引を継続することができますが、信用度が低ければ取引を中止する、あるいは与信限度額を決めて、その範囲内で取引を行うこととなります。

 (2)積極的な販売促進活動 

 信用調査の2つ目の目的は、売上増大を図るために積極的な販売促進活動を行うことです。 新規の取引先と取引を開始する前に信用調査を行い、取引の有無を決め、1社でも多くの優良先を開拓し、取引基盤を強化することで、売上高の増大を図っていくことができます。

 

 企業経営において「取引先の安全性の確認」と「積極的な販売促進活動」は車の両輪のようなものです。

 取引先の安全性を確認し、 債権を確実に回収することは資金繰りに重大な影響を与えます。

 また、積極的な販売促進活動は、売上収益の源泉として非常に重要です。どちらか一方でも支障を来すと、経営という車はまっすぐに進まなくなってしまいます。しっかりと管理していきましょう

経営者のための債権管理の目的や方法などについてご紹介します。

 

  売上債権の残高管理  

 

 商品等の販売では、代金の回収が重要です。

代金の回収状況が悪いと、すぐに資金繰りに影響します。

売上債権の残高は、得意先ごとにいくらの売上と回収があったかを管理します。

販売代金を回収しないかぎり、経費の支払いを続けるのは不可能であるため、

営業活動を継続していくことが困難になります。

 売上債権の残高を管理するためには、「売掛金管理台帳」などの帳簿を作成し、

得意先ごとに売上債権の残高を確認していくことが有効です。

それぞれの得意先に対して、

いつ、なにを、 どれだけ、いくらで販売したのかを確認します。

 

   請求書の発行と入金確認

 

  売上債権管理の前提として、納入した商品すべてについて売上計上されて、

請求書が発行されていなければなりません。

当然のことながら、 請求書の発行が遅れれば入金の遅れにつながります。

  入金確認作業では、請求した金額が回収期 日までに入金されたかを確認します。

これを「消し込み作業」と呼びます。

消し込み作業は重要な仕事です。

忘れたり間違えたりすると、その後の取引先への誤請求の原因となります。

消し込み作業の際に、回収遅れや請求金額と入金金 額に差異を発見した場合には、

担当者はその差異の内容を把握し、得意先に問い合わせを行い、

入金予定日を確認します。

 

   期末の債権残高確認 

 

 売上債権の残高管理は、期中において、社内で定期的に確認を行うのは

もちろんのこと、期末には得意先ごとに「残高明細書」を作成・発行し、

各得意先に対して売上債権の残高が合っているか確認することで、

社内の不正防止に役立てることもできます。 

 

  与信管理の実施 

 

 与信管理とは、得意先を評価し(与信限度額を設定し)、

与信限度額を基準とした売上債権残高の管理をすることをいいます。

与信限度額は、取引を開始したときだけではなく、たとえば、社内でルールを

決め、半年や1年のサイクルで定期的に見直すとよいでしょう。

  取引先の管理は、営業担当者だけでなく、全社一丸で取り組むと効果的です。

たとえば、取引先から支払条件変更の打診があった場合や、取引金額に急激な

変化が生じた場合、財務状況 が著しく悪化した場合など、状況が突然変化する

ことがあります。

こうしたときに、その異変に最初に気づくのが経理担当者です。

これらの問題が発生した場合には、営業担当者と経理担当者とが連携しながら、

その原因を調べて、取引可能金額を変更していくことになります。  

 

営業活動を継続する上で、販売代金の回収、 すなわち、債権残高の管理は非常に

重要です。 

しっかりともれなく管理していきましょう。

 

 キャッシュポジションというのは、ある時点における現金+流動性預金(+短期の有価証券)の合計額を言います。

 企業は通常業務を継続的に行って行くにあたり、人件費などの経費の支払や、買掛金など取引先への支払が絶えず必要であり、それが少しでも滞ってしまうと事業の継続が危ぶまれたり、信用の失墜に繋がったりします。例えば、売上先の急な倒産や売上代金の遅延などによる資金ショートを未然に防ぐためにも、このキャッシュポジションの管理は重要なのです。また、キャッシュポジションは「手元流動性比率」として短期的な安全性の指標として使われているのです。

 

 では、ある時点でのキャッシュポジションはどの程度あればよいのかということなのですが、一般的には月商(年間売上高÷12か月)の2か月分以上、より安全性を重視するなら3か月以上あることが望ましいとされています。

 

 このキャッシュポジションの感覚なのですが、平時の時は上記のような考え方で十分なのですが、そうではない時、例えば会社の業績が悪化して通年での赤字が慢性化してきたときなどは別な考え方が必要となります。

 

 例えば、急激に業績が悪化した以下のA社のようなケースを考えて見ましょう。以下のA社の実績表を見て、この後A社がどのようになったのかを予想してみてください。また、A社はどのようなミスを犯しているのかもお考え下さい。

 

 

結局A社はリスケ後2年の間に自己破産を申請する道を選んだのでした。

 

 「リスケ」とは、リスケジュールの略語で、銀行融資における返済計画や返済額の見直しなど、契約時の借り入れ条件の変更という意味で使われています。銀行融資で用いるリスケは、借り入れ条件を緩和するときに使うのが一般的です。「当初の返済計画では返済が間に合わなくなった」「返済額を減らしたい(又は返済を止めたい)」といった場合に、リスケをすることが多くなります。

 

 注目ポイントは現預金残高と借入金残高の推移です。

 

 

 これを見ると業績の悪化と同時にA社のキャッシュポジションも大きく減少(悪化)しています。では、A社のキャッシュポジションが悪化した原因は業績悪化だけでしょうか。

 A社がキャッシュポジションを悪化させた最大の原因は業績悪化にもかかわらず銀行への返済を進めてしまったことなのです。そして、現預金が底をつきかけて初めてリスケを決断したことが分かります。決断が遅すぎたわけです。

 

 それでは、より以前にリスケを開始するといったことを行った場合を見てみましょう。

 もし、A社が業績の悪化を早めに予見し、資金繰りの悪化を防ぐために、前期の開始時点から金融機関と相談してリスケを行っていれば、大切な資金を借入の返済に回すことなく、当期末においても30百万円の資金を手元に残せていたはずです。

 もし、A社がこのような措置を早く行っていれば、もう数年は会社再建という道を探れたかもしれません。資金繰りは弾が切れたらおしまいです。資金繰りに苦しむ中小企業は,数百万~数千万円をめぐる銀行との交渉でつぶれたり、生き返ったりするのです。

 『手元資金とキャッシュフローに対する認識の甘さ』が会社の生死を分けると言っても過言ではないと思います。

 「経営とは、お金の出と入りの真剣勝負」だと言われます。

 

 特に非常時のキャッシュポジションは、たとえ借金してでも多めに確保しておくことが大切です。『弾が切れたらおしまい』ということを経営者は肝に銘じることだと思います。