改正の3本柱① 協議を無視した価格決定が違反に!

今回の取適法改正で、最も企業実務に影響を与えるのが「協議を適切に行わない代金決定の禁止」です。

これは従来の下請法になかった、12番目の禁止行為として新たに追加されました。

 

■ これまでの「買いたたき」との違い

従来の下請法では「買いたたき」が禁止されていました。

これは、通常の対価と比べて著しく低い価格を一方的に設定する行為です。

つまり、「最終的な価格の妥当性」が問題とされていました。

 

しかし新しい取適法では、価格の妥当性だけでなく、「価格を決めるプロセス」そのものが評価対象になります。

 

■ 何が禁止されるのか?

 

具体的には、以下のような行為が違反となります:

 

【違反となるケース】

  • 中小受託事業者から「原材料費が30%上がったので価格改定したい」と申し出があったのに、協議の場を設けず放置
  • 「今回は価格据え置きで」と一方的に通告し、理由を説明しない
  • 形だけの協議を行い、受託者の意見を全く聞かずに決定
  • 価格据え置きの理由を「業界慣習だから」「予算がないから」など曖昧な説明で済ませる

■ 価格が据え置きでも違反になる可能性

 

重要なポイントは、最終的な価格が市場価格と同等であっても、協議プロセスに問題があれば違反になるということです。

 

例えば、コスト上昇を理由に価格交渉を求められた場合:

  • ❌ 「今期は予算がないので据え置きで」と一方的に通告 → 違反
  • ⭕ 協議の場を設け、据え置きの理由を客観的データで説明し、次年度の改定を約束 → OK

■ 企業が今すぐやるべきこと

  1. 価格協議のルール策定

    • 価格改定の申し出があった場合の対応フローを明確化
    • 協議の期限、参加者、議事録作成ルールを設定
  2. 交渉記録の保存

    • 価格交渉の経緯を文書化
    • メール、議事録、見積書などを体系的に保管
    • 保存期間は最低2年間(取適法の記録保存義務)
  3. 説明責任の意識

    • 価格据え置きの場合は、客観的な理由を用意
    • 「業界慣習」「前例踏襲」は理由にならない
    • コストデータ、市場調査資料などの根拠を準備

■ 受託者側も積極的な姿勢を

 

中小受託事業者側も、ただ待つのではなく、コスト上昇の客観的データ(原材料費の推移、人件費の変動など)を準備し、積極的に価格交渉を申し入れることが重要です。

この新ルールは、「協議すること」自体に価値を置いています。

対等なパートナーとして、誠実に話し合うプロセスが、これからのビジネスに求められているのです。

次回は、支払実務に直結する「手形払い全面禁止」について解説します。

混同注意!フリーランス保護法との違いを整理

「あれ?去年フリーランス保護法が施行されたばかりじゃなかった?」そう感じた方も多いはずです。

今回は、混同しやすい2つの法律の違いを明確にしましょう。

 

■ 2つの法律の関係性

2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス保護法)」と、2026年1月施行の「中小受託取引適正化法」。

 

どちらも取引の公正化を目指していますが、保護対象と規制内容が異なります。


フリーランス保護法と取適法の比較

項目 フリーランス保護法 中小受託取引適正化法(取適法)
施行日 2024年11月1日 2026年1月1日
対象者 従業員を雇わない個人・一人法人 資本金・従業員数基準の中小企業全般
主な目的 個人事業主の保護 企業間取引の公正化
適用範囲 業種制限なし(全業種) 5類型の委託取引に限定
重点規制 書面交付、報酬支払、ハラスメント防止 支払遅延、減額、手形払禁止など

 

次回からは、取適法の「改正3本柱」を1つずつ詳しく見ていきます。

 

まずは最も注目すべき「協議を無視した価格決定の禁止」について解説します。

なぜ「下請」という言葉がなくなるのか?改正の真の目的

「下請法」という名前から「下請」という言葉が消えます。

これは単なる言葉遊びではありません。

この改正の背後には、日本のビジネス文化を変えようという強い意志があります。

 

■ 「下請」という言葉が持つ問題

「下請」という言葉には、どうしても「上下関係」のニュアンスが含まれています。

親事業者が上、下請事業者が下。発注する側が強く、受注する側が弱い。

こうした構図が、不公正な取引慣行を生み出してきました。

 

原材料費や人件費が上昇しても、「親」の立場を利用して価格据え置きを強制する。

手形払いで資金繰りを圧迫する。一方的に発注内容を変更する。

こうした行為が、中小企業の経営を圧迫し、サプライチェーン全体の持続可能性を脅かしています。

 

言葉としては「下請法」の方がわかりやすいですけどね(笑)

 

■ 用語の変更が示すメッセージ

改正法では、用語が以下のように変更されます:

  • 親事業者 → 委託事業者
  • 下請事業者 → 中小受託事業者
  • 下請法 → 取適法(中小受託取引適正化法)

この変更は、「発注者と受注者は対等なパートナーである」という新しい関係性を示しています。

委託する側は「親」ではなく「委託者」、受託する側は「下請け」ではなく「受託者」。

上下ではなく、対等な協力関係を築くことが求められているのです。

 

■ 改正の真の目的

今回の改正は、3つの大きな目的を持っています:

  1. 対等なパートナーシップの構築:上下関係から協力関係へ
  2. 適切な価格転嫁の実現:コスト上昇を正当に価格に反映
  3. サプライチェーンの持続可能性確保:中小企業が健全に事業を継続できる環境づくり

名称変更は、企業の意識改革を促す第一歩なのです。

 

次回は、混同しやすい「フリーランス保護法」との違いを整理します。