キャッシュポジションというのは、ある時点における現金+流動性預金(+短期の有価証券)の合計額を言います。
企業は通常業務を継続的に行って行くにあたり、人件費などの経費の支払や、買掛金など取引先への支払が絶えず必要であり、それが少しでも滞ってしまうと事業の継続が危ぶまれたり、信用の失墜に繋がったりします。例えば、売上先の急な倒産や売上代金の遅延などによる資金ショートを未然に防ぐためにも、このキャッシュポジションの管理は重要なのです。また、キャッシュポジションは「手元流動性比率」として短期的な安全性の指標として使われているのです。
では、ある時点でのキャッシュポジションはどの程度あればよいのかということなのですが、一般的には月商(年間売上高÷12か月)の2か月分以上、より安全性を重視するなら3か月以上あることが望ましいとされています。
このキャッシュポジションの感覚なのですが、平時の時は上記のような考え方で十分なのですが、そうではない時、例えば会社の業績が悪化して通年での赤字が慢性化してきたときなどは別な考え方が必要となります。
例えば、急激に業績が悪化した以下のA社のようなケースを考えて見ましょう。以下のA社の実績表を見て、この後A社がどのようになったのかを予想してみてください。また、A社はどのようなミスを犯しているのかもお考え下さい。
結局A社はリスケ後2年の間に自己破産を申請する道を選んだのでした。
「リスケ」とは、リスケジュールの略語で、銀行融資における返済計画や返済額の見直しなど、契約時の借り入れ条件の変更という意味で使われています。銀行融資で用いるリスケは、借り入れ条件を緩和するときに使うのが一般的です。「当初の返済計画では返済が間に合わなくなった」「返済額を減らしたい(又は返済を止めたい)」といった場合に、リスケをすることが多くなります。
注目ポイントは現預金残高と借入金残高の推移です。
これを見ると業績の悪化と同時にA社のキャッシュポジションも大きく減少(悪化)しています。では、A社のキャッシュポジションが悪化した原因は業績悪化だけでしょうか。
A社がキャッシュポジションを悪化させた最大の原因は業績悪化にもかかわらず銀行への返済を進めてしまったことなのです。そして、現預金が底をつきかけて初めてリスケを決断したことが分かります。決断が遅すぎたわけです。
それでは、より以前にリスケを開始するといったことを行った場合を見てみましょう。
もし、A社が業績の悪化を早めに予見し、資金繰りの悪化を防ぐために、前期の開始時点から金融機関と相談してリスケを行っていれば、大切な資金を借入の返済に回すことなく、当期末においても30百万円の資金を手元に残せていたはずです。
もし、A社がこのような措置を早く行っていれば、もう数年は会社再建という道を探れたかもしれません。資金繰りは弾が切れたらおしまいです。資金繰りに苦しむ中小企業は,数百万~数千万円をめぐる銀行との交渉でつぶれたり、生き返ったりするのです。
『手元資金とキャッシュフローに対する認識の甘さ』が会社の生死を分けると言っても過言ではないと思います。
「経営とは、お金の出と入りの真剣勝負」だと言われます。
特に非常時のキャッシュポジションは、たとえ借金してでも多めに確保しておくことが大切です。『弾が切れたらおしまい』ということを経営者は肝に銘じることだと思います。