新型コロナウイルスとの共生を余儀なくされる時代が始まるのでしょうか。いわゆるウィズ・コロナ時代ですが、従来のビジネス形態が維持できるとは限らなくなりそうです。

 

 このコロナがきっかけで「非対面サービス」が浸透しつつあり、金融機関においても「脱ハンコ」などという動きが出てきました。

 

 今までは当たり前のように考えられていたビジネス・モデルが、全く変わってしまう日も近いのでしょうか。

 例えば、たくさんのお客様にお店に来ていただき、たくさんの商品を買っていただくというビジネス・モデルでは、もはや成長は期待できないとか。

 

 そこで取り組まなければならないと誰もが考えるのが、「新しい商品や技術サービスの開発」「新しい市場や顧客の開拓」であり、現状からの脱却、ビジネスの多角化ではないでしょうか。

 

 ただ闇雲に考えてもなかなか答えは見つけられないものです。

 こんな時、便利な道具である「フレームワーク」のひとつを使ってみるのも一つの手ですので、ご紹介したいと思います。

 

 以下のマトリックスは、「アマゾフの成長のマトリックス」と呼ばれるものです。「アンゾフの成長マトリクス」は、縦軸(市場・顧客)および横軸(商品・サービスなど)をそれぞれ既存と新規に2分割した4象限マトリクスを用いるフレームワークです。戦略経営論の創始者であり、企業戦略の父ともよばれるロシア生まれの経営学者イゴール・アンゾフによって提唱されたものです。

 

 通常経営者は当然のことながら、左下の「既存の市場」で「既存の商品」という象限の深堀を一生懸命行います。

 『たくさんのお客様に来ていただき、たくさん買っていただく』ビジネスですね。

 それが、コロナで難しくなってしまった。前述の通り、経営者は新しい商品、新しいマーケットの新規事業を考えます。そのときイメージするのは右上の飛び地の象限だと思います。

 

 しかし、何の手掛かりや足掛かりのないまま右上の象限に立ち向かえば、ほぼ間違いなく失敗するでしょう。

 いきなり多角化に飛びつくのではなく、一度立ち止まり、じっくりと考えて見ることが大切です。その時に利用するフレームワークがこれなのです。

 

 使い方は、現状の象限①から、横か上にひとマス“ずらす”、を考えて見ること。ひとマスであれば、成功の可能性を50%見込むこともできるというものです

 

 

 では、各象限を簡単に見て行きましょう。

 

②新商品・サービスの開発

 この象限は、既存顧客に対して新たな商品やサービスを買っていただく成長戦略となります。たとえば、銀行で保険商品や投資商品を預金者に販売するといったケース(クロスセル)がこの象限となります。

 また、現状と異なる分野でなくても、今の商品やサービスに新たな属性を追加(バージョンアップ)したりしても良いかもしれません。

 

③市場・顧客開拓

 この象限は、既存の商品やサービスを未顧客を顧客として取込む成長戦略となります。いままで企業をターゲットとしていたものを個人を対象として売り込みをかけるとか、男性⇒女性、成人⇒子ども、国内⇒海外など、これまで参入していなかった市場に参入して行って商品やサービスを提供します。

 

④多角化

 できれば、ここに到達したいもの。具体例をあげれば、

⑴  富士フイルムの化粧品販
(既存事業と関連性のない業種への多角化です。このためシナジー効果はあまり期待できませんが、企業としてリスク分散を図ることができます。)

⑵  キッコーマンのワイン販売
(自社の中核技術やターゲット顧客に関連する事業に参入する多角化です。異業種への参入という点でより大きなシナジー効果が期待できます。)

 

 いま私たちにできることは、現状の①象限に限界を感じたら、このマトリックスの横か上に“ずらす”ことができないかを考えて見るとこだと思います。そして、何か方法は必ずあるはずです。

 

 最後に“ずらす”で最後には成功した例をひとつ、

 

 あるロボット関連会社でのケース。相当前の話なのですが、この企業が今後の企業成長戦略として、介護用ロボット市場に参入を決断ししたのでした。

 ロジックはこうです。

 ●介護市場は伸びている。
 ●わが社にはテクノロジーがある。

 ●競合はまだそこまで競争力はついていない。

 ⇒だから、わが社はロボット事業に参入すべきである。

 

その企業には確かに技術はありました。そのころは競合も出てきてはいませんでした。しかし、肝心のマーケットが無かったのです。その当時、介護される人はロボットなんかに介護されたくはなかったのです。

 

あわや失敗かと思われたのですが、その介護用ロボットを開発した企業は、生き残りを賭けて、利用者の“ずらす”を考えたのでした。

介護するロボットではなく、介護士の腰や足をサポートするロボット、パワースーツを開発することを思いついたのです。案の定、製品はヒットしたのです。

 

どこに可能性が落ちているかはわかりません。あきらめずに探す努力を続けようではありませんか。

 

ポイントは、既存の市場や商品をちょっと“ずらし”て考えて見る!です。

 

 企業が今後の歩む道筋として策定する「経営計画」には必ずと言っていいほど“ビジョン”という項目が語られています。

 

『〇年後のわが社のあるべき姿は....』などと、経営者の夢の詰まった事項が語られ、進むべき方向を指し示しています。

 

 なぜ「経営計画」では“ビジョン”を示す必要があるのでしょうか。今回のお話は、もっともっと仕事を楽しみたい人へのヒントの提言と、前回と同じく、ちょっと変わった参考図書のご紹介です。

 これは、日本で最初の経営コンサルタントとして有名な一倉定氏の言葉です。氏の解説を引用すれば、以下のように述べられています。

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(以下引用)『 我が社の未来を決めてしまう経営計画に、時間を節約するというほど、間違った時間の使用法はないのである。

 経営計画に時間をかけることこそ、時間の最も有効な使用法である。というのは、計画に費やした時間の数千倍、数万倍の時間が、それ以降に節約できるからである。

 その意味は、「利益が増大する」ということである。

 仮に1年で利益が2倍になれば、1年間節約したことになるからである。』

(引用終わり)

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 これは、『暇がない』ことを理由に会社で最も大切なアイテムの一つである「経営計画」すらも策定していない会社への戒めの言葉ですが、今でしたら「ぼ~っと、経営しているんじゃねぇよ!」などと、誰かに叱られるのかもしれませんが。

 

 この「経営計画」に“ビジョン”が必要なのか。様々な説が考えられますが、理由の一つとも言えそうな説明を、『仕事の説明書』(田宮 直人  (著), 西山 悠太朗  (著), パブリック・ブレイン (編集)土日出版)という本をご紹介しながら行ってみたいと思います。

 さて、その昔、任天堂などのゲームメーカーが世に送り出したロールプレイングゲームなどで徹夜してしまったという経験を持つ人も多いと思います。私もその一人でした。

 

 この本は、まず、「仕事」と「ゲーム」を比べて見よう。という話から始まります。

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 (以下引用)『少年時代、 ゲームに熱中していた。幼稚園に入る前からゲームをやっていた。小学生になるとゲームが好きな友達同士で遊ぶのが日常 だった。(中略)

 中でもRPGやシミュレーションゲームに夢中になった。与えられるクエストやクリア条件に対し、ある程度の選択の自由を与えられた中で、自分で様々な戦略・戦術を考え、それが成功するか失敗するかを試してみる。(中略)

 幼いながらも工夫を重ねゲームに熱中していた。

 

 しかし、社会人になったら仕事に夢中になれない自分がいた。(中略)

 

 自分で決めて入社した会社にも関わらず、なぜゲームと同じように熱中できないのか。』

(引用終わり)

田宮 直人; 西山 悠太朗. 仕事の説明書〜あなたは今どんなゲームをしているのか〜 (土日出版)

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 『仕事とゲームを比べるなんてナンセンスだ』なんて言わないでください。話はそこで終わっちゃいますから。

 

 では、ゲームと仕事の違いは?...なんて、考えたこと、ありますか。

 

 それほど楽しさを感じない仕事を、楽しくてやめられないゲームに近づけるために解決すべき課題は以下の3つだと定義されています。

 

その1:ゴールや到達手段が曖昧であること
ゲームは勝敗を決めるためのゴールと、そこに到達するためのルールが明確に決められています。

その2:失敗が許容されていないこと
ゲームにおいてどれだけ失敗しようが現実社会には影響を及ぼしません。

その3:自由意志が発揮できないこと
仕事は自分の意思を自由に反映させることが難しい。

 

 以上の3つがゲームと仕事の違いみたいなものなのかもしれません。確かに、仕事には「明解なルール」というものはありませんね。「就業規則」や「行動規範」などの「〇〇しはてならない」といった一見ルールみたいなものがあるだけだし、現場にある「対応マニュアル」は単なる作業説明書であって、仕事の説明書ではありませんね。

 

 ましてや、「~したら勝ち」というようなゴールも明確ではありません。毎日同じことをただ繰り返しているだけでは、楽しくないのは当たり前のことだと思います。

 

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(以下引用)

『結果、仕事に必要な要素として次の3つを定義した。

 

1. ゴールや到達手段を明確にすること

2. 失敗を許容される環境を作りあげる

3. 自由意思を発揮すること

 

これら3つの差分の中で全ての基礎となるのは「 1. ゴールや到達手段を明確にすること」である その上で「 2. 失敗を許容される環境を作りあげる」ことでリスクを最小限に抑えながらにして、仕事のゴールに到達する ことが可能になる。 リスクを最小限に抑える環境や戦略を十分に整えることができれば「 3. 自由意思の発揮」つまり自分がやりたい・やるべきと 考える仕事を仲間を巻き込んで進められるようになる。』

(引用終わり)

田宮 直人; 西山 悠太朗. 仕事の説明書〜あなたは今どんなゲームをしているのか〜 (土日出版)

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 注目すべきは『3つの差分の中で全ての基礎となるのは「 1. ゴールや到達手段を明確にすること」である。』の部分でしょう。

 

 ゲームでは何らかの目的や目指すべき姿が必ず用意されているものです。それに対しプレイヤーがゴールを目指して試行錯誤するのです。それと同じで、日々の仕事においても、目的や目指すべき姿を明らかにしない限り、全てのプレイヤーがゴールに到達することはおろか、到達手段すら検討することを難しくしてしまうことでしょう。

 

 到達すべきゴール(ビジョン)やルール(到達手段)が明確になっていない経営計画を、時間をかけて作ったとしても、海図も持たずに航海に出るようなもので、一倉先生が仰るような経営計画を作ることで得ることができる効果は期待できないとことでしょう。

 

 仕事を楽しくするコツは、明確なゴールと、明確なルールの設定ができていることなのだろうと思います。

 誰が読んでも、どうすればこのゲームを前に進めることができ、そしてどうすれば勝つことができるのかを理解できる説明書が仕事にも必要なのです。

 

企業経営でなくてはならない「経営計画書」がそれを実現するためのツールの一つなのです。これが、仕事の説明書となるのです。

 まず、明確なビジョンを謳うべきなのです。

 

『人生の大部分を占める仕事は、見方によってはゲームである。ゲームにはルールがある。ルールを学ぶことで勝てるゲームを勝つのである。』

 

 「世界各国と比較した場合、わが国の労働生産性は低い」とよく言われます。わが社でも、各業務の効率化を推進しようと委員会を立ち上げて行動計画までの落とし込みに着手しています。

 

 そこで、昔読んだ本を思い出し、再度読み返して見ると、またこれが新鮮なほど面白かったので、今回はこの本の内容を少しだけご紹介したいと思います。

 今から10年前の2010年にアウンコンサルティング株式会社(現在東証二部上場)CEOの信太 明(しだ あきら)氏が執筆された本です。氏の会社で日常的に使われているテンプレートとその考え方を書いた本で、一気に読めば3時間程度で読み終えることができ、その後、様々なアイデアが頭の中に湧き出てくるような気分になるから不思議です。

 

 この本に出てくる内容を少し紹介しつつ、業務を効率化して、生産性を上げるとはを考えて見たいと思います。

 

 この本では「効率化」と「生産性」について以下のような定義がなされています

 

「効率化」⇒無駄をなくし時間というリソースを生み出すこと。

「生産性」⇒時間というリソースをきちんと投資して大きく成果を出すこと。

 

 この定義は、確かに的を得ていると思います。

 

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  仕事の75% は、その人が付加価値を生めないルーチンワークであり、残り の25%が、ルーチンワークではできない、その人が付加価値を生む業務である。そして、「忙しい」「時間が無い」と仕事に追われている人の多くが、「75%の、付加価値を生まないルーチンワーク」のせいで「忙しく」「時間が無く」なっている。「付加価値を生まないルーチンワーク」に圧迫され、「その人が付加価値を生む業務」に支障を来している。自分でしっかりと「(付加価値を生む業務の ために)これだけの時間をブロックしておこう」と決めておかないと、過去の繰り返しや単純作業など、付加価値は生まないけれど、やらなければいけない仕事 に時間を侵食されてしまいます。

 

(信太 明「 テンプレート仕事術日常業務の75%を自動化する」東洋経済新報社より)

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 イメージするとこのようなことです。現状の仕事量を分析してみると下図の左側となっている。これをどう打開するかが問題なのです。

解決策は簡単で、75%のルーチンワークに25%の時間しかかけずに、25%の付加価値業務に75%の時間を投下できるようにすればよいのです。

 

...とは言うものの、どのようにしてじっこうするのでしょうか。

 

 この本では、その解決策をテンプレート(鋳型という意味)というツールを利用することで実現しているという事です。

 

 たとえば、『電話を受けたら次のことを最低限確認する』

□相手の氏名

□要件

□電話番号

□折返しの有無

 

 といったチェックリストを受話器に貼っておけば、担当者が不在であっても、「要件を聞き忘れた!」などというミスも無くなり、新入社員でもその日から滞りなく仕事を進めることが可能になる....と書かれています。

 

 仕事は、「定型・非定型」と「属人・非属人」の二種類に分けることができ、「定型」「非属人」の仕事は、一定のパターンに沿って進められています。要するに「誰でもできる仕事」「誰がやっても同じ成果しか出ない仕事」は一定のパターンを持っていて、そのパターンをテンプレート化することによって仕事を分担することが可能となり、その意味効率化(時間というリソースを生み出す)の実現へとつながるということです。

 

 この本では、いろいろとテンプレートが紹介されていますが、どれも「そうだよね~」と言えるものです。ロジカルシンキングでよく言われる『漏れなく、ダブり無く』と同じような考え方で作られているように思います。

 

 さらに、何事においても同じだと思いますが、物事を最後までやり遂げるためには、それなりに明確な目的が必要となります。ただ単に「お金を貯めなくては....」という目的だけでは、途中で挫折してしまうのは目に見えています。

 「〇〇が欲しい!買いたい!」などと明確な目的を持つことが、モチベーション維持のための大事な要素となるのです。

 

 信太氏のテンプレート化の目的は明快で、本書にかかれている言葉を引用すると....

『仕事のテンプレート化の果てに、テンプレート化できない「自分にしかできない仕事」を手に入れる。これこそが、 テンプレート仕事術がなぜ必要なのかという、私の答えです。』

 

 日本人の生産性向上に資する施策とは、ただ単に残業時間をなくすことではなく、時間というリソースを生み出し、そのリソースをどう使うかということを考えることなんだという事なのです。