企業が今後の歩む道筋として策定する「経営計画」には必ずと言っていいほど“ビジョン”という項目が語られています。
『〇年後のわが社のあるべき姿は....』などと、経営者の夢の詰まった事項が語られ、進むべき方向を指し示しています。
なぜ「経営計画」では“ビジョン”を示す必要があるのでしょうか。今回のお話は、もっともっと仕事を楽しみたい人へのヒントの提言と、前回と同じく、ちょっと変わった参考図書のご紹介です。
これは、日本で最初の経営コンサルタントとして有名な一倉定氏の言葉です。氏の解説を引用すれば、以下のように述べられています。
――――――――――――――――――――――――――
(以下引用)『 我が社の未来を決めてしまう経営計画に、時間を節約するというほど、間違った時間の使用法はないのである。
経営計画に時間をかけることこそ、時間の最も有効な使用法である。というのは、計画に費やした時間の数千倍、数万倍の時間が、それ以降に節約できるからである。
その意味は、「利益が増大する」ということである。
仮に1年で利益が2倍になれば、1年間節約したことになるからである。』
(引用終わり)
――――――――――――――――――――――――――
これは、『暇がない』ことを理由に会社で最も大切なアイテムの一つである「経営計画」すらも策定していない会社への戒めの言葉ですが、今でしたら「ぼ~っと、経営しているんじゃねぇよ!」などと、誰かに叱られるのかもしれませんが。
この「経営計画」に“ビジョン”が必要なのか。様々な説が考えられますが、理由の一つとも言えそうな説明を、『仕事の説明書』(田宮 直人 (著), 西山 悠太朗 (著), パブリック・ブレイン (編集)土日出版)という本をご紹介しながら行ってみたいと思います。
さて、その昔、任天堂などのゲームメーカーが世に送り出したロールプレイングゲームなどで徹夜してしまったという経験を持つ人も多いと思います。私もその一人でした。
この本は、まず、「仕事」と「ゲーム」を比べて見よう。という話から始まります。
――――――――――――――――――――――――――
(以下引用)『少年時代、 ゲームに熱中していた。幼稚園に入る前からゲームをやっていた。小学生になるとゲームが好きな友達同士で遊ぶのが日常 だった。(中略)
中でもRPGやシミュレーションゲームに夢中になった。与えられるクエストやクリア条件に対し、ある程度の選択の自由を与えられた中で、自分で様々な戦略・戦術を考え、それが成功するか失敗するかを試してみる。(中略)
幼いながらも工夫を重ねゲームに熱中していた。
しかし、社会人になったら仕事に夢中になれない自分がいた。(中略)
自分で決めて入社した会社にも関わらず、なぜゲームと同じように熱中できないのか。』
(引用終わり)
田宮 直人; 西山 悠太朗. 仕事の説明書〜あなたは今どんなゲームをしているのか〜 (土日出版)
――――――――――――――――――――――――――
『仕事とゲームを比べるなんてナンセンスだ』なんて言わないでください。話はそこで終わっちゃいますから。
では、ゲームと仕事の違いは?...なんて、考えたこと、ありますか。
それほど楽しさを感じない仕事を、楽しくてやめられないゲームに近づけるために解決すべき課題は以下の3つだと定義されています。
その1:ゴールや到達手段が曖昧であること
ゲームは勝敗を決めるためのゴールと、そこに到達するためのルールが明確に決められています。
その2:失敗が許容されていないこと
ゲームにおいてどれだけ失敗しようが現実社会には影響を及ぼしません。
その3:自由意志が発揮できないこと
仕事は自分の意思を自由に反映させることが難しい。
以上の3つがゲームと仕事の違いみたいなものなのかもしれません。確かに、仕事には「明解なルール」というものはありませんね。「就業規則」や「行動規範」などの「〇〇しはてならない」といった一見ルールみたいなものがあるだけだし、現場にある「対応マニュアル」は単なる作業説明書であって、仕事の説明書ではありませんね。
ましてや、「~したら勝ち」というようなゴールも明確ではありません。毎日同じことをただ繰り返しているだけでは、楽しくないのは当たり前のことだと思います。
―――――――――――――――――――――――――――
(以下引用)
『結果、仕事に必要な要素として次の3つを定義した。
1. ゴールや到達手段を明確にすること
2. 失敗を許容される環境を作りあげる
3. 自由意思を発揮すること
これら3つの差分の中で全ての基礎となるのは「 1. ゴールや到達手段を明確にすること」である。 その上で「 2. 失敗を許容される環境を作りあげる」ことでリスクを最小限に抑えながらにして、仕事のゴールに到達する ことが可能になる。 リスクを最小限に抑える環境や戦略を十分に整えることができれば「 3. 自由意思の発揮」つまり自分がやりたい・やるべきと 考える仕事を仲間を巻き込んで進められるようになる。』
(引用終わり)
田宮 直人; 西山 悠太朗. 仕事の説明書〜あなたは今どんなゲームをしているのか〜 (土日出版)
――――――――――――――――――――――――――
注目すべきは『3つの差分の中で全ての基礎となるのは「 1. ゴールや到達手段を明確にすること」である。』の部分でしょう。
ゲームでは何らかの目的や目指すべき姿が必ず用意されているものです。それに対しプレイヤーがゴールを目指して試行錯誤するのです。それと同じで、日々の仕事においても、目的や目指すべき姿を明らかにしない限り、全てのプレイヤーがゴールに到達することはおろか、到達手段すら検討することを難しくしてしまうことでしょう。
到達すべきゴール(ビジョン)やルール(到達手段)が明確になっていない経営計画を、時間をかけて作ったとしても、海図も持たずに航海に出るようなもので、一倉先生が仰るような経営計画を作ることで得ることができる効果は期待できないとことでしょう。
仕事を楽しくするコツは、明確なゴールと、明確なルールの設定ができていることなのだろうと思います。
誰が読んでも、どうすればこのゲームを前に進めることができ、そしてどうすれば勝つことができるのかを理解できる説明書が仕事にも必要なのです。
企業経営でなくてはならない「経営計画書」がそれを実現するためのツールの一つなのです。これが、仕事の説明書となるのです。
まず、明確なビジョンを謳うべきなのです。
『人生の大部分を占める仕事は、見方によってはゲームである。ゲームにはルールがある。ルールを学ぶことで勝てるゲームを勝つのである。』

