その他の重要な改正ポイント

今回は、これまで触れていない改正ポイントをまとめて紹介します。

 

■ 書面交付の電子化が簡素化

取適法では、発注時に交付する書面(4条書面、旧3条書面)や取引記録(7条書類、旧5条書類)の電子化が簡素化されます。

 

【従来の下請法】

  • 電子メール等で交付する場合、事前に受託者の承諾が必要
  • 承諾がない場合は紙の書面交付が義務

【改正後の取適法】

  • 受託者の承諾なしで電子交付が可能
  • 電子メール、EDI、クラウドシステム等で交付できる
  • ただし、受託者が確実に受領できる方法であることが条件

【企業にとってのメリット】

  • 発注業務の効率化
  • ペーパーレス化の推進
  • コスト削減
  • 記録の検索・管理が容易に

【注意点】

承諾が不要になっても、交付義務そのものは存続します。

電子化したから交付しなくていいわけではありません。

むしろ、「送ったはず」「届いていない」というトラブルを避けるため、送信記録や受信確認の仕組みを整えることが重要です。

 

■ 遅延利息の拡充

取適法では、遅延利息の規定が強化されます。

 

【従来】 支払期日(60日以内)を過ぎた場合、年14.6%の遅延利息

【改正後】

  • 上記に加え、代金を減額した場合にも遅延利息の対象に
  • 減額日から実際の支払日まで年14.6%
  • 減額=実質的な支払遅延と認識される

【具体例】

  • 当初の代金:100万円
  • 減額後:90万円(10万円減額)
  • 減額日:4月1日
  • 実際の支払日:6月1日(2か月後)

この場合、10万円に対して2か月分の遅延利息(年14.6%)が発生します。

不当な減額は、金銭的ペナルティのリスクも高まります。

 

■ 木型・治具が対象物に追加

製造委託の対象物として、従来の「金型」に加えて、**「木型」と「治具」**が追加されます。

  • 木型:鋳造などに使用する型
  • 治具:加工や組立の際に工作物を固定する器具

これにより、木型や治具の製作を委託する取引も取適法の保護対象になります。

 

■ 執行体制の強化

取適法の執行体制も強化されます。

【従来】

  • 公正取引委員会と中小企業庁が執行
  • 違反の疑いがある場合、調査・勧告・公表

【改正後】

  • 事業所管省庁(業種ごとの主務大臣)にも指導・助言権限
  • 例:国土交通省(建設・運輸)、経済産業省(製造業)、総務省(情報通信)など
  • 各省庁が連携して「面的執行」を実施

【企業への影響】

  • 監視の目が増える
  • 業界特有の商慣習への理解がある省庁が関与
  • 違反発見の可能性が高まる

■ 勧告制度の見直し

違反行為が是正された後でも、再発防止のための勧告が可能になります。

従来は、是正されれば勧告対象外でしたが、改正後は再発リスクが高い企業に対して、体制整備を求める勧告ができるようになります。

 

これまで複数回にわたって、取適法の全体像をお届けしました。

重要ポイントを振り返りましょう:

【改正の3本柱】

  1. 協議を無視した価格決定の禁止 → プロセス重視の新ルール
  2. 手形払いの全面禁止 → 現金払いへの移行必須
  3. 適用範囲の拡大 → 従業員基準の追加、運送委託の追加

【その他の重要改正】

  • 書面交付の電子化簡素化
  • 遅延利息の拡充
  • 執行体制の強化

【企業に求められること】

  • 対等なパートナーシップの意識
  • 誠実な価格協議
  • 適切な支払条件
  • 法令遵守体制の構築

この法改正は、「上下関係」から「協力関係」へ、日本のビジネス文化を変える大きな転換点です。

施行まで残り1か月。

今から準備を始めれば、まだ間に合いますよ!

改正の3本柱③ 適用範囲が大幅拡大!

「うちは資本金が少ないから下請法は関係ない」そう思っていた企業に衝撃のニュースです。取適法では、適用範囲が大幅に拡大され、これまで無関係だった企業も対象になる可能性があります。

 

■ 最重要:従業員基準の新設

これまでの下請法は「資本金」だけで適用対象を判定していました。

しかし取適法では、資本金または従業員数のどちらかに該当すれば適用されることになります。

 

【適用基準の詳細】

①製造委託・修理委託・特定運送委託の場合

  • 委託事業者:資本金3億円超 または 従業員300人超
  • 中小受託事業者:資本金3億円以下 かつ 従業員300人以下

②情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム、運送、倉庫保管、情報処理)の場合

  • 委託事業者:資本金1億円超 または 従業員100人超
  • 中小受託事業者:資本金1億円以下 かつ 従業員100人以下

■ 具体的なケーススタディ

【ケース1:IT企業A社】

  • 資本金:5,000万円
  • 従業員:150人
  • システム開発を従業員50人の会社に外注

→ 従来:資本金基準を満たさず対象外
→ 改正後:従業員100人超で取適法の対象に!

 

【ケース2:製造業B社】

  • 資本金:1億円
  • 従業員:350人
  • 部品製造を従業員200人の会社に委託

→ 従来:資本金基準を満たさず対象外
→ 改正後:従業員300人超で取適法の対象に!

 

■ 特定運送委託の追加も大きな変化

もう1つの重要な変更が、対象取引への「特定運送委託」の追加です。

 

【特定運送委託とは】 物品の販売や他の事業者への納品に伴い、その物品の運送を他の事業者に委託すること

 

【具体例】

  • 製造業が製品を顧客に届けるため、運送会社に配送を委託
  • EC事業者が商品配送を物流業者に委託
  • 卸売業が取引先への納品を運送業者に委託

これまで、製造委託等は下請法の対象でしたが、その製品の運送は対象外でした。

改正後は、製品の運送も取適法の規制対象となります。

 

■ 物流・運送業界への大きな影響

特に影響が大きいのが物流業界です:

  • 荷主(発注者)が取適法の適用事業者になるケースが増加
  • 運送業者が中小受託事業者として保護対象に
  • 運賃の不当な据え置き、支払遅延などが規制対象に

■ 自社が対象かチェックする方法

以下のチェックリストで確認してください:

 

【委託事業者(発注側)チェック】 □ 従業員が100人超(または300人超)である
□ 製造・修理・運送・情報成果物作成・役務提供を外注している
□ 外注先が中小企業(資本金・従業員数が基準以下)である

1つでも該当すれば、取適法の対象になる可能性があります。

 

【中小受託事業者(受注側)チェック】 □ 従業員が100人以下(または300人以下)である
□ 上記の業務を受注している
□ 発注元が大企業または従業員が多い企業である

該当すれば、取適法による保護対象です。

 

■ 今すぐやるべきこと

  1. 自社の従業員数を確認(常時使用する従業員数)
  2. 取引先の規模を調査(資本金と従業員数)
  3. 対象取引をリストアップ(特に運送委託に注意)
  4. 法務・総務部門への共有(全社的な対応準備)

「うちは小さい会社だから」「製造業じゃないから」という思い込みを捨てて、改めて自社の状況を確認しましょう。

改正の3本柱② 手形払いが完全禁止に!

取適法のもう1つの大きな変更点が、手形払いの全面禁止です。

これは多くの企業の資金繰りに直接影響する、極めて実務的な改正です。

 

■ これまでの規制と改正後の違い

 

【従来の下請法】

  • サイト(支払期日)が60日を超える手形が問題視
  • 2024年11月以降、60日超の手形は行政指導の対象
  • 手形そのものは禁止されていなかった

【改正後の取適法】

  • 手形による代金支払いが全面禁止
  • サイトの長短に関わらず、手形払い自体が「支払遅延」に該当
  • 違反すれば勧告・企業名公表のリスク

■ 手形だけじゃない!電子記録債権も要注意

「じゃあ手形の代わりに電子記録債権(でんさい)を使えばいい」と考えた方、それも危険です。

取適法では、「支払期日までに代金相当額の満額を得ることが困難な支払手段」も禁止されています。

 

【禁止される支払手段の例】

  1. 電子記録債権

    • 支払期日が60日を超える場合
    • 割引料や手数料が差し引かれる場合
    • → 受託者が満額を期日内に受け取れないため違反
  2. ファクタリング

    • 手数料を受託者が負担する形式
    • 買取金額が満額に満たない場合
    • → 実質的な減額に該当するため違反
  3. 一括決済方式(一括ファクタリング等)

    • 早期現金化の手数料を受託者負担にする
    • → 同様に違反の可能性

■ 何が許されるのか?

原則は明確です:納品・役務提供完了日から60日以内に、満額を現金で支払う

 

具体的に許される支払方法:

✅ 銀行振込(60日以内、手数料は委託者負担)
✅ 現金払い
✅ 電子記録債権・ファクタリング(60日以内、手数料なし、または委託者負担)

 

■ 振込手数料の負担も注意点

実は、振込手数料を受託者に負担させることも「減額」に該当する可能性が高まっています。

企業取引研究会の報告書では、合意の有無に関わらず振込手数料を受託者負担にすることは問題とされており、今後の運用基準で明示される見込みです。

 

■ 企業が直面する課題と対応

【課題1:資金繰りへの影響】

  • 手形払いで資金繰りを調整していた企業は、現金払いへの移行で資金需要が増加
  • 対策:金融機関との資金調達体制の見直し、運転資金の確保

【課題2:システム改修】

  • 経理システムの支払条件設定変更
  • 取引先マスタの見直し
  • 対策:2026年1月までにシステム改修を完了

【課題3:取引先との調整】

  • 長年の取引慣行の変更を説明
  • 場合によっては支払スケジュールの再交渉
  • 対策:早期に取引先へ改正内容を通知、丁寧な説明

■ 経理部門は今すぐ動くべき

この改正は経理・財務部門に最も影響します:

  1. 現在の手形払い取引を全てリストアップ
  2. 支払条件を現金払いに変更する計画策定
  3. 資金繰り表の見直しと金融機関への相談
  4. 社内決裁・承認フローの整備

施行まで時間がありません。今すぐ準備を始めましょう。

次回は、「対象範囲の拡大」について解説します。「うちは関係ない」と思っている企業こそ、必読です。