米NY市に13万人を超す中南米やアフリカなどからの移民が到着し、「受け入れの限界を超えた」と市長。移民はメキシコから国境を抜けて米国に入ってくるのだが、止まない移民の流入に対応せざるを得ない南部のテキサス州などが、専用バスを用意して移民をNY市や首都ワシントンなどに送り続けている。南部が北部に移民を押し付けている状況だ。
これは、流入する多数の移民を持て余している南部が、不法移民の人権を尊重し、保護するNY市などに、「綺麗事ばかり言うなら、そっちで面倒を見ろよ」と移民を送り込み始めた結果だ。昨年春から今年10月までに13万人以上となり、昨今でも約600人/日が到着するという。米国には約300の聖域都市(郡や州も含む)があり、不法移民の強制送還に反対するなど移民に寛容な行政を行っている。
必要のある人にシェルターを提供するNY市では移民がホテルや仮設住宅などのシェルターにあふれ、ホテル前などで路上生活をする移民も多く、滞在費や食費、移民の子供の教育費などの財政負担が増大した。不法移民の人権や尊厳は守られなければならないという考えは正しいが、実際に移民が殺到すると、膨大な生活コストを負担しなければならなくなり、移民を受け入れた側にのしかかる。
NY市は連邦政府に援助や国境管理の強化などを求め、バイデン政権は、建設を中止したメキシコ国境の壁について判断を変え、建設を続けることを認めることを余儀なくされた。NY市長は22年8月に「ニューヨークは移民の街だ。常に新たな移民を歓迎する」と述べ、移民を送りこむテキサス州知事を「思いやりの心がない」と批判していたが、今年10月には移民危機として非常事態を宣言した。
殺到する移民の押し付け合いはEUでも起きている。地中海をわたって押し寄せる移民を大量に受け入れているイタリアは、移民をEU内で再配分するよう求めたが他のEU諸国は難色を示し、さらにイタリアと国境を接する仏とオーストリアは国境管理を強化している。移民を本国に送還するにもコストがかかり、移民の出身国が帰国を認めないこともあるという。
10月にEUは緊急時の国境管理の厳格化を認める移民抑制策で合意した。報道によると、①移民が急増する緊急時にEU加盟国は「特別なルール」を適用できる、②移民希望者を国境の施設で数カ月とどめる、③資金支援と引き換えに移民希望者を他の加盟国に移送して受け入れ審査を引き継げるーなどの内容だ。移民は大歓迎だと積極的に引き受けるEU加盟国はなくなり、移民を押し付けあっている現在、今回の抑制策が有効に機能するのかは未知数だ。
家族と離れ故郷を後にして米国やEUを目指す移民の事情は様々で、同情すべき面もあるだろうが、受け入れ側は移民の生活を当面「丸抱え」しなければならず、移民の増加に伴ってコスト負担は大きくなる。移民の急増が遠くの場所で起きているならば、移民は保護されるべきだと「正論」を主張することもできようが、移民受け入れの当事者となれば「正論」は現実に押されて後退する。