ブラック企業という言葉が定着して使われているのは、日本にブラック企業という言葉に相当する企業が珍しくないと人々が感じているからだろう。ブラック企業の法的な定義はないが、厚労省は①労働者に極端な長時間労働やノルマを課す、②賃金不払い残業やパワーハラスメントが横行するなど企業のコンプライアンス意識が低い、③労働者に過度の選別を行うーなどをブラック企業の特徴とする。 

 

 ③労働者に過度の選別を行う結果、ブラック企業では離職率が高く、従業員の入れ替わりが激しく、若者らの「使い捨て」が常態化している。そのため社員などの募集を頻繁に行っている。もちろん「使い捨て」の対象は若者に限ったものではなく、社長や役員らとその取り巻き以外の人間は皆「使い捨て」の対象だ。

 

 ブラック企業の見分け方について多くのサイトがある。例えば、「ベンナビ」はブラック企業の特徴として①長時間労働・過重労働(月80時間以上の残業が続くのはブラック企業の可能性が高い)、②休日が少ない・有給が取れない、③給料が低い・最低賃金を下回っている、④残業代が出ない、⑤謎の雇用契約(社員を管理職にして残業代を出さない、みなし残業を悪用など)、⑥従業員の入れ替わりが激しく離職率が高い、⑦募集要項に、やる気や情熱の言葉が多い、⑧上司や社長が絶対のトップダウン、⑨パワハラやセクハラの横行、⑩精神論がよく出てくる(やればできる、感謝、仲間などはブラック企業が好むフレーズ。「頑張る=長く働く」ことになる)。

 

 ブラック企業とは知らずに入社した人が「ここはブラック企業だ」と認識したなら、金銭的・精神的被害を最小にする対応法は一刻も早く辞めることだろう。働き続ける人には様々な事情があるのだろうが、働き続けることで金銭的・精神的被害は拡大する(一方、ブラック企業は、我慢して働き続ける人がいることで利益を増大させる)。

 

 ブラック企業と同じような体制の国家がある。独裁者らが特権階層を形成し、トップダウンの政治を行い、人々を管理の対象とする。人々を強制労働に駆り出したり、過大なノルマを課し、低賃金を放置して中産階級の形成を阻止する。国内でも国際的にもコンプライアンス意識が低く、異論や反対論を主張する人々を社会から排除し、国民に対しては精神論で「やればできる」「国家に感謝しよう」「団結せよ」などと鼓舞する。

 

 そうした国家はブラック国家と言えるが、国際的にブラック国家を取り締まる法も機関もない。人々にできることは①我慢する、②政府を打倒する、③国外に逃れるーなどだ。欧米発の民主主義が世界に広まり、多くの国で採用されているのは、ブラック国家の誕生を防ぐことに効果があったからだ。だが、主権者による自由選挙でブラック国家に親和的な権力者が誕生したりもする。ブラック企業と同様にブラック国家の根絶も簡単ではない。

 

 ※「ブラック国家」という言葉は世界では黒人国家と解釈される可能性があり、日本から出国して欧米などで使用するには注意を要する。