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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回はJCO Global Oncologyに面白い論文が載っていたので、ご紹介いたします。

 

Randomized Placebo-Controlled Trial of Topical Capsaicin for Delayed Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting

Bright HR et al, JCO Glob Oncol 2024, doi: 10.1200/GO.24.00130

 

【目的】

我々は、化学療法により誘発される遅延性嘔気と嘔吐(CINV)を減少させる上でのカプサイシン外用の有効性を検証した。

 

【方法】

今回のランダム化二重盲検対照試験では、高い催吐性のある化学療法レジメンを受ける成人に、標準的な制吐レジメンに追加して2gのカプサイシン軟膏(0.075%)もしくは相当するプラセボを、腹部に1日4回、5日間外用した。即時相(day 1)、遅延相(day 2-5)および拡張相(day 2-15)に患者の嘔気と嘔吐がモニターされた。自己報告による1日のCINVエピソードの頻度が二群間で比較された。発症時点、重症度、レスキュー制吐剤、累積嘔吐エピソード、安全性も比較された。

 

【結果】

合計で160人の患者が参加した。最終的な修正ITT集団にはカプサイシン群とプラセボ群でそれぞれ75人が組み入れられた。遅延相において、カプサイシン群で嘔気(36.0%[n = 27] vs 53.3%[n = 40];P=0.033)および嘔吐(28.0%[n = 21] vs 42.7%[n = 32];P=0.060)を感じた患者が少なかった。拡張相の期間において、カプサイシン群で嘔気の頻度が有意に低かった(44% vs 64.0%;P=0.014)。即時相では嘔気(26.7% vs 25.3%)もしくは嘔吐(22.7% vs 18.7%)の差異は明らかでなかった。1日の平均嘔気・嘔吐エピソードの平均は、遅延相と拡張相でカプサイシン群が有意に少なかった。カプサイシンを用いると、グレード 3の嘔気は観察されず(9.3% vs 0.0%;P=0.007)、さらに初回の嘔気・嘔吐までの時間が有意に延長した。レスキュー制吐剤、予定外の受診、有害事象には両群で差を認めなかった。

 

【結論】

カプサイシン外用により遅延相と拡張相での嘔気の頻度と平均嘔吐エピソードが減少し、有害事象の増加はなかった。

 

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カプサイシン外用が化学療法の遅発性嘔吐を和らげるとする興味深い結果です。メカニズムについては本文の受け売りで恐縮ですが、カプサイシンはTRPV1受容体アゴニストで、substance Pの一時的な分泌を誘導し、続いて受容体が脱感作されます。カプサイシン曝露後に起こるTRPV1受容体の脱感作が受容体作用を抑制し、結果として末梢および中枢でのsubstance Pを枯渇させ、これが嘔気のコントロールに結びつくと推測されているようです。

 

化学療法中にカプサイシンの経口摂取は出来ないでしょうから(どのくらい外用で吸収されるか不明ですが、量は多そう)外用での投与となっています。この研究によると、カプサイシンを外用した方が遅延相と拡張相(治療後2~15日)での吐き気を減少させる結果となりました。1日4回外用するのは手間ですが、これで和らぐならやってみてもいいかも・・・と思いました。

 

ただ、本研究で使用されたものと同じカプサイシン外用薬は日本では売ってなさそうなので、すぐにそのままの形で出来ないのが残念でした。

 

おまけ

 

 

カプサイシンっぽい写真がなかったので、とりあえず馬刺しを置いておきますね。