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スタッフHです。


2024年度も2ヶ月が経過しました。今年は嬉しいことに当科へのローテーターが多く、教育コンテンツもアップデートしていく予定です。学びある期間にしていただけると嬉しいです。

さて、久々の”血液×感染症”関連の論文紹介になります。
 

ガイドラインで言うところの発熱性好中球減少症の高リスク症例、具体的には好中球数減少が100/μL未満、期間が7日間を超える、長期・高度好中球数減少を起こす症例において、抗菌薬開始後も症状改善が得られない発熱性好中球減少症では真菌感染症のリスクが高いとされており、特殊な対応を要します。

 

そのような背景から、白血病および造血幹細胞移植のような高リスク症例では、予防的抗真菌薬を投与する事の有益性が以前より示されており推奨されています。予防的抗真菌薬にも多く種類がありますが、アゾール系抗真菌薬が特に実績があり頻用されています。しかし、予防をしているにも関わらず侵襲性真菌感染症を発症する事があり、原疾患の種類、薬剤耐性、薬物血中濃度が不十分など、さまざまな理由が考えられますが、はっきりした事は分かっていません。
 

今回紹介する論文は、各種論文データベースを用いた、高リスクな血液疾患患者におけるポサコナゾール・ボリコナゾール使用中のブレークスルー侵襲性真菌感染症症例のシステマティックレビュー・メタ解析を行なった研究です。

Breakthrough Invasive Fungal Infections in Patients With High-Risk Hematological Disorders Receiving Voriconazole and Posaconazole Prophylaxis: A Systematic Review
CA Boutin et al, Clin Infect Dis 2024, doi: 10.1093/cid/ciae203

【背景】
高リスクの血液疾患患者における侵襲性真菌感染症の予防には、糸状菌活性のあるアゾール系薬剤による一次予防が行われている。この研究は、ボリコナゾールまたはポサコナゾールによる一次予防を受けている高リスク血液疾患患者において、provenおよびprobableのブレークスルー侵襲性真菌感染症(bIFI)の微生物学的、臨床的および薬理学的特徴を示し、臨床的意思決定をサポートする事を目的とした。

【方法】
システマティックレビュー・メタ解析におけるPRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ガイドラインに従って文献の系統的レビューを行った。真菌感染症診断はEORTC/MSG-ERCに従い、bIFIはMSG-ERC and the European Confederation of Medical Mycologyに従った。目標トラフ値下限はボリコナゾール、ポサコナゾールそれぞれ0.5mg/L、0.7mg/Lとした。

【結果】
5293件の研究の適格性を評価(タイトルとアブストラクトのレビュー)し、1184件の研究をフルレビューし、最終的に300件の研究のデータを抽出対象として選択した。1076症例、1093例の真菌を抽出した。bIFIの症例は、ボリコナゾール(42.5%)またはポサコナゾール(57.5%)の下で発生した。最も多く検出された病原菌は、アスペルギルス属(40%)、ムコール目(20%)、カンジダ属(18%)、フサリウム属(9%)であった。ムコール目はボリコナゾール群に多く、アスペルギルス属とフサリウム属はポサコナゾール群に多かった。抗真菌薬耐性は31%に認められた。TDMを行なっていた症例では、90例中32例(36%)で薬物血中濃度が目標トラフ値下限未満であった。感染関連死亡は117例で報告され、35%に達した。

【結論】
我々の研究では、最も一般的なbIFIはアスペルギルス症、ムーコル症、カンジダ症、フサリウム症であった。抗真菌薬耐性で説明できる症例は少なく、不十分な薬物血中濃度での予防は割合として多くみられたが、TDM自体がほとんど施行されていなかった。今後、これらの感染症を十分理解し、最適なマネジメントを確立するための前向き研究が必要である。

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主に横断的にbIFIの特徴を記述した研究で、Discussion部分に結果の考察がされており、マニアックな内容ではありますが非常に勉強になります。この研究から具体的に何が問題で、どのような対応をすればよいかが分かるわけではないですが、関連微生物の抗真菌薬毎の分布は参考になりますし、アゾール耐性糸状菌、TDMなどbIFIを考える上で、重要でありながらよく分かっていないテーマが散りばめられています。アゾールの血中濃度測定はボリコナゾールのみコマーシャルで可能かつ臨床的重要性が確立していますが、その他のアゾールについては特殊な状況下でのみ測定が弱く推奨されている程度に留まっています。真菌感染症は奥深く難解ですが、血液診療において非常に重要な感染症です。

おまけ

 

写真は愛宕神社の麓にあるお店のアイスコーヒーです。