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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回は、最近当科でも何かと話題になることが多い、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)の検査にまつわる論文をご紹介いたします。

 

Impact of diagnostic investigations in the management of CAR T-cell–associated neurotoxicity

Mauget M et al, Blood Adv 2024, doi: 10.1182/bloodadvances.2023011669

 

【要旨】

免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)の管理に関して、国際的なガイドラインでは、ICANSのグレードに基づいてMRI、腰椎穿刺(LP)、脳波検査(EEG)を含むいくつかの診断目的の検査を推奨している。しかし、これらの検査のインパクトについては評価がなされていない。本研究ではフランスのレンヌ大学病院でCAR-T細胞療法を受けたリアルワールドの患者コホートにおいて、ICANS管理でのMRI、LP、EEGの役割を記述することを目的とした。

 

2018年8月から2023年1月の間で、連続して合計190人の患者がCAR-T細胞療法で治療された。これらの患者のうち、91人(48%)がICANSを発症した。MRIはICANS患者のうち71人(78%)で実施され、正常所見の頻度が高く、治療に影響を与えたのは4%だった。LPは43人(47%)の患者で実施され、7%の患者で先制的な抗菌薬投与につながったが、結果として感染症が検出された患者はいなかった。EEGは51人(56%)の患者で実施され、16%の患者で治療の修正につながった。

 

我々の研究では、EEGが最も治療にインパクトを与える検査で、その一方でMRIとLPのインパクトは限定的なようだった。今回の結果から、現在のガイドラインにおけるEEGの役割が強調されるが、MRIとLPの必要性については疑問を呈する。これらの検査については治療担当医の判断に任されてもよいかもしれない。

 

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今回は、リアルワールドの非常に臨床向きの報告だと思います。各種ガイドラインでICANSの検査としてMRI、腰椎穿刺、脳波検査が推奨されていますが、それをどの患者さんにどこまでするのかというのは、臨床医にとって悩ましい判断になります。患者さんのいる病棟や時間帯によってもアクセスできる検査は変わってきますし、患者さんの状態によっては侵襲的で事前確率の低そうな検査をリスクを冒してわざわざやるべきか?という議論は当然で、悩みは尽きません。

 

今回の結果によると、まずMRIは正常所見のことが多く(80%)、MRIの所見が治療変更(抗血小板薬・抗凝固薬・ステロイド投与)につながった症例は4%に過ぎませんでした。腰椎穿刺は何らかの異常所見が86%で認められたものの、微生物による髄膜炎が証明されたものはなく、経験的な抗微生物薬投与が7%で実施され、感染が否定された後に中止されました。これらと比べて脳波検査については、82%の患者で異常所見を認め、高グレードのICANSでより多い異常が検出されました。また16%の患者で抗痙攣薬の追加・変更につながりました。

 

これらから、筆者らはMRIと腰椎穿刺は、異常所見にかかわらず治療内容の変更につながりにくいので、治療医の判断に任せてよく、対して脳波検査については臨床症状を伴わない異常を検出出来る可能性もあり、抗痙攣薬の追加・変更につながる可能性が高いので、特に高グレードのICANSにおいては積極的にすべきと結論づけています。

 

実際問題としては、あまり深く考えずに全ての検査をすることも多いのかなと思うのですが、より優先順位を考えて…というのが重要に感じました。そのためにも患者さんの診察をきちんとして、事前確率を上げていけるよう心掛けたいと思います!

 

おまけ

 

 

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