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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回はBlood Advancesから、血液悪性疾患に伴う低ガンマグロブリン血症に対する、免疫グロブリン補充と予防抗菌薬の費用対効果を前向きに比較した試験をご紹介いたします。

 

Economic evaluation: immunoglobulin vs prophylactic antibiotics in hypogammaglobulinemia and hematological malignancies

SC de Albornoz et al, Blood Adv 2024, doi: 10.1182/bloodadvances.2023012047

 

【要旨】

血液悪性疾患患者は低ガンマグロブリン血症(HGG)と感染症を発症する危険性が高い。免疫グロブリン(Ig)はこれらの感染症を防ぐための推奨される選択肢の一つであるが、高価であり、他の予防戦略と比較した場合の費用対効果は不明である。我々はRATIONAL試験に参加したHGGと血液悪性疾患を有する63人の成人患者において、予防的Ig vs 予防的抗菌薬の12カ月での費用対効果を評価するため、オーストラリアの医療費支払者の立場から見た臨床試験ベースの経済的評価を実施した。

 

この研究では2つの解析が行われた:(1)1QALYを得るための増分費用を評価するための費用効用分析、(2)グレード 3以上の重篤な感染症および全ての感染症(全グレード)が防がれるための増分費用を評価するための費用効果分析。

 

12カ月にわたる患者一人あたりのコストの合計は、抗菌薬群と比較しIg群で有意に高かった(平均差異 29,140 AU$;P < 0.001)。ほとんどの患者は経静脈的投与によるIgを受けており、これが主なコストの発生源で、介入群で皮下投与Igを受けていたのはわずか2人だった。健康アウトカムには有意な違いはなかった。

 

結果からはIgは抗菌薬よりコストが高く、低いQALYと相関した。1件の重篤な感染症を防ぐのに必要なIg vs 抗菌薬での増分費用効果比は112,262 AU$だったが、全ての感染症で考慮すると、Igはより高コストで感染症が多かった。この患者群で平均的には、予防的Igは予防的抗菌薬と比較すると費用対効果に劣るかもしれない。より大規模な集団でより長期間のアウトカムを考慮した上で、これらの結果を確認するための更なる研究が必要である。

 

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血液悪性疾患の患者さんは、原疾患や化学療法の影響で低ガンマグロブリン血症を来たすことが多いです。低ガンマグロブリン血症により液性免疫が低下し、感染症の原因となることは古くから問題となってきました。

 

現在は免疫グロブリン製剤で補充をすることが出来るのですが、献血由来のため供給が不安定なことがあったり、ドナーに負担をかけること、また薬価が非常に高額であることが問題です。その一方で、免疫グロブリン製剤の補充による感染症の予防効果については、確かに感染症を減らすという研究もあるのですが、現代の治療内容に即していて、かつ前向きのランダム化比較試験による質の高いエビデンスは乏しい状況です。また、具体的にどのような予防効果があるのか、その質についてもよく分かっていません。そんな中で莫大な医療コストをかけてどこまでする必要があるのか…というのは長年の疑問です。

 

今回の試験はオーストラリアとニュージーランドからの報告で、症例数は少ないのですが、前向きに免疫グロブリン補充と予防抗菌薬の費用対効果を比較した貴重な研究となります。これによると、免疫グロブリンと予防抗菌薬で1年後の生存率に差はなく、免疫グロブリン補充は高額でしたが予防的抗菌薬と比較してQALY増加には結びつかず、感染症発生率にも差を認めませんでした。免疫グロブリン補充は重篤な感染症を減少させる傾向はみられたものの、全感染症の発症においては予防抗菌薬のほうが優れていました。

 

予防抗菌薬は免疫グロブリン製剤よりは安価ですが薬剤耐性菌の出現のリスクがあり、こちらは今回の研究では評価されていません。今回の結果はより多数の患者数での追試による確認が必要ですが、現状としては、免疫グロブリン補充の限界を知り、適切な症例の選定を行い、個々の患者さんに対してどのような予防が最善なのかを考察していくことが重要に思いました。

 

おまけ

 

 

牛肉の炭火焼きを食しました!