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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回はLancetに掲載されていた、マントル細胞リンパ腫に対する第Ⅲ相試験結果をお伝えいたします。

 

Ibrutinib combined with immunochemotherapy with or without autologous stem-cell transplantation versus immunochemotherapy and autologous stem-cell transplantation in previously untreated patients with mantle cell lymphoma (TRIANGLE): a three-arm, randomised, open-label, phase 3 superiority trial of the European Mantle Cell Lymphoma Network

Dreyling M et al, Lancet 2024, doi: 10.1016/S0140-6736(24)00184-3

 

【背景】

標準免疫化学療法にイブルチニブを追加することでアウトカムが改善するかもしれず、この戦略により若年(65歳以下)のマントル細胞リンパ腫患者における自家幹細胞移植(ASCT)の必要性に疑問が呈される。本臨床試験は、イブルチニブを追加することで標準的なASCT併用免疫化学療法、もしくはASCTを行わないイブルチニブ含有治療と比較して臨床的アウトカムが改善するかどうかを検証することを目的とした。我々はASCT併用標準治療が、イブルチニブを追加するがASCTを行わない治療を優越するかどうかも検証した。

 

【方法】

TRIANGLE試験は非盲検ランダム化3群群間比較優越性試験で、欧州13ヶ国とイスラエルの165ヶ所の二次もしくは三次臨床センターで実施された。未治療でステージⅡからⅣのマントル細胞リンパ腫で、18~65歳でASCTに適応がある患者が1:1:1の割合で対照群(A群)と介入群(A+I群、I群)にランダム化割り付けされ、研究グループとマントル細胞リンパ腫国際予後指標リスクグループにより層別化を受けた。

 

A群の治療は、R-CHOP(経静脈リツキシマブ 375 mg/m²をday 0もしくはday 1、経静脈シクロフォスファミド 750 mg/m²をday 1、経静脈ドキソルビシン 50 mg/m²をday 1、経静脈ビンクリスチン 1.4 mg/m²をday 1、経口プレドニゾロン 100mgをday 1からday 5)とR-DHAP(またはR-DHAOx。経静脈リツキシマブ 375 mg/m²をday 0もしくはday 1、経静脈もしくは経口デキサメタゾン 40mgをday 1からday 4、経静脈シタラビン 2×2 g/m²を3時間かけて12時間ごとをday 2、経静脈シスプラチン 100 mg/m²を24時間かけてday 1または経静脈オキサリプラチン 130 mg/m²をday 1で代替可)を交互に合計6サイクル受け、その後ASCTが実施された。A+I群ではイブルチニブ(経口で1日あたり560mg)がR-CHOPのday 1からday 19と、ASCT後に固定期間の維持療法が行われた(経口で1日あたり560mgを2年間)。I群ではA+I群と同様にイブルチニブが投与されたが、ASCTが省略された。主要評価項目であるfailure-free survivalに対する3つのペアワイズ片側ログランク検定が統計学的にモニターされた。一次解析はITT集団で行われた。有害事象はそれぞれの治療が開始された患者で治療期間に評価された。

 

【結果】

2016年7月29日から2020年12月28日の間に、870人(男性 662人、女性 208人)がランダムにA群(288人)、A+I群(292人)、I群(290人)へ割り付けされた。フォローアップ期間中央値31カ月時点で、A群に対するA+I群の優越性が示され、3年failure-free survivalは88%(95% CI 84-92)対72%(67-79;ハザード比 0.52[片側 98.3% CI 0-0.86];片側 p=0.0008)であった。I群に対するA群の優越性は示されず、3年failure-free survivalは72%(67-79)対86%(82-91;ハザード比 1.77[片側 98.3% CI 0-3.76];片側 p=0.9979)であった。A+I群とI群の比較は現在進行中である。

 

寛解導入やASCT中で、R-CHOP/R-DHAPもしくはイブルチニブ併用R-CHOP/R-DHAPを受けた患者間において、グレード3~5の有害事象の頻度に差はなかった。維持療法もしくはフォローアップ期間中では、イブルチニブのみやASCTと比較して、ASCTにイブルチニブを併用された群で多くのグレード3~5の血液学的有害事象と感染症が報告された(A+I群;血液学的有害事象:231人中114人[50%];感染症:231人中58人[25%];致死的感染:231人中2人[1%])。内訳は以下の通り。I群;血液学的有害事象:269人中74人[28%];感染症:269人中52人[19%];致死的感染:269人中2人[1%]。A群;血液学的有害事象:238人中51人[21%];感染症:32人中238人[13%];致死的感染:238人中3人[1%]。

 

【解釈】

初回治療にイブルチニブを追加することにより、若年マントル細胞リンパ腫患者において有効性が高まったが、ASCT後の投与では毒性の増加を伴った。イブルチニブを寛解導入中と維持療法として追加することは、若年マントル細胞リンパ腫患者の初回治療の一部にするべきである。イブルチニブ含有レジメンにASCTが加わるかどうかは、まだ不明である。

 

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今回は注目されていたTRIANGLE試験がいよいよLancetに登場しました。マントル細胞リンパ腫は治癒困難な悪性リンパ腫の病型で、移植非適応患者においては、イブルチニブ併用BR療法が最近標準治療となりました。

 

 

若年患者では自家造血幹細胞移植を組み合わせた多剤併用療法が現在の標準治療とされていますが、これにイブルチニブを組み合わせたらどうかということと、イブルチニブを組み合わせたら移植はしなくてもいいのではないかというのは血液内科において長年の疑問でした。今回のTRIANGLE試験は、まだ現在進行中なのですが、標準治療群と比較しイブルチニブ併用がfailure-free survivalを改善させることが証明されました。このため、近いうちに標準治療が一つ変わると思います。移植がいるかどうかはまだ分かりませんが、結果を眺めていると期待出来そうな気がします!

 

おまけ

 

 

最近食したそら豆です!