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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回はLancet Haematologyからで、難治性AMLに対する長年の疑問が少し解決に近づく?臨床試験をご紹介いたします。

 

Remission induction versus immediate allogeneic haematopoietic stem cell transplantation for patients with relapsed or poor responsive acute myeloid leukaemia (ASAP): a randomised, open-label, phase 3, non-inferiority trial

M Stelljes et al, Lancet Haematol 2024, doi: 10.1016/S2352-3026(24)00065-6

 

【背景】

強力な前処置後に同種造血幹細胞移植(HSCT)が予定されている治療反応不良もしくは再発急性骨髄性白血病患者において、完全寛解を導入する目的で投与される高用量シタラビンベースの救援化学療法が生存に利益をもたらすかは不明である。

 

【方法】

同種HSCT前の救援化学療法を検証するために、18歳から75歳の予後良好群でない急性骨髄性白血病で、初回寛解導入後に完全寛解でないか初回再発後に治療を受けていない患者が、高用量シタラビン(経静脈的に3g/m2、60歳を超える場合や重大な併存症がある場合は1g/m2)をday 1~3に1日に2回に加えてミトキサントロン(経静脈的に10g/m2)をday 3~5に投与される群か、疾患コントロール群として直ちに同種HSCTを受ける群に1:1にランダム化割り付けされた。ブロックサイズが可変のブロックランダム化が用いられ、患者は年齢、急性骨髄性白血病のリスク、疾患の状態で層別化された。本臨床試験は非盲検だった。主要評価項目は同種HSCT後day 56における完全寛解で定義される治療成功である。再寛解導入と比較して疾患コントロール群の非劣性を示す目的で、非劣性マージンを5%および片側検定で第一種の過誤を2.5%とした。主要評価項目は治療企図解析(ITT)集団とper-protocol集団の両者で解析された。

 

【結果】

2015年9月17日から2022年1月12日の間に281人が参加した。疾患コントロール群にランダム化割り付けされた140人のうち、135人(96%)が同種HSCTに進み、97人(69%)は慎重な経過観察のみで移植に至った。再寛解導入群にランダム化割り付けされた141人のうち、134人(95%)が救援化学療法を受け、128人(91%)が引き続いて同種HSCTに進んだ。

 

ITT集団において、疾患コントロール群では140人中116人(83%)で治療成功を認め、再寛解導入群では141人中112人(79%)だった(非劣性検定 p=0.036)。Per-protocol集団では、治療成功は疾患コントロール群で138人中116人(84%)、再寛解導入群で134人中109人(81%)だった(非劣性検定 p=0.047)。疾患コントロール群と再寛解導入群の間での治療成功の差異は、ITT集団で3.4%(95% CI -5.8~12.6)、per-protocol集団で2.7%(-6.3~11.8)と推定された。再寛解導入群と比較して、疾患コントロール群でグレード 3以上の非血液毒性を認めた患者が少なかった(140人中30人[21%] vs 141人中86人[61%]、χ2検定 p<0.0001)。ランダム化から前処置開始の間に、疾患コントロール群で2人が急性骨髄性白血病の進行で死亡し、治療関連合併症での死亡はなかった。再寛解導入群では2人が急性骨髄性白血病の進行で死亡し、2人が治療関連合併症で死亡した。ランダム化から同種HSCTの間で、疾患コントロール群は入院期間が中央値で27日再寛解導入群と比較して短く、入院期間中央値はそれぞれ15日(範囲 7-64)と42日(27-121)だった(U test p<0.0001)。

 

【解釈】

2.5%の有意水準では疾患コントロール群の非劣性は示されなかった。治療成功率も再寛解導入群と比較して統計学的に有意差はなかった。幹細胞ドナーのいる治療反応不良もしくは再発したフィットな急性骨髄性白血病患者において、慎重な経過観察後直ちに移植を行う方法は代替戦略となり得る。活動性のある急性骨髄性白血病患者における移植前の適切な治療を定義するため、移植を前提とした更なるランダム化対照試験が必要である。

 

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急性骨髄性白血病が再発した場合、治癒を目指すなら造血幹細胞移植が必須と言えますが、現時点で標準的とされる強力な再寛解導入療法の合併症で苦しんだり、そのせいで移植が遠のいてしまったり・・・ということはしばしば経験されます。それならば、合併症がない元気なうちに再寛解導入を経ずそのまま移植してしまっては?というのは血液内科医であれば一度は考えると思います(骨髄異形成症候群では古くからそのような研究があります)。ただ、その場合も移植までの期間白血病が大人しくしてくれるのか、芽球が残っていると生着不全が起こるのではないかなど、(少なくとも今までの常識として)別の懸念があります。

 

今回の研究は、初回治療で寛解に入らなかった、もしくは初回治療後再発した急性骨髄性白血病で、ドナーが既にいる患者さんを対象として、従来の再寛解導入(HAM療法)を行う群と、そのまま移植に入る(強度の弱い前治療は許容されています)群で前向きに比較したという貴重な報告になります。これによると、いずれの群も全生存はほぼ同等のようでしたが、残念ながら事前に決められていた非劣性の基準を超えることは出来ず、非劣性の証明には至りませんでした。その一方で即時に移植を行うことで合併症が少なく、入院期間も短縮されることが観察されました。

 

さらなる前向き試験が必要で、この試験をもって再寛解導入は必要ないとは言えませんが、症例を選んで直ちに移植へ進む治療戦略は充分ありえる(少なくとも従来の常識で想像されるような圧倒的な違いはない)ことが示唆されました。追試の結果が待たれます。

 

おまけ

 

 

送別会で食したアヒージョ的な料理です。Staubのココットで出てきたのも個人的にポイント高いです!