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スタッフHです。
 

がん患者は治療の過程で医療機関での治療、通院、手術などの『医療曝露』が多く、耐性菌を保菌する事が多いため、細菌感染症を考慮した際に経験的治療として抗緑膿菌作用のあるβラクタム系抗菌薬を開始する場合が他患者と比較し多いです。グラム陰性桿菌、その中でも腸内細菌目細菌が検出され、多菌種が関与しない状況や臨床的に安定している場合は感受性結果を確認しde-escalation=狭域抗菌薬へ変更する事が一般的な治療戦略として行われているかと思います。しかし、実はこの治療戦略について十分な知見はなく、あったとしても試験デザインの問題(患者や使用抗菌薬の異質性など)があり、2013年のCochrane review最近のsystematic reviewでは敗血症におけるde-escalation戦略はエビデンスとして不十分とされています。


今回紹介する論文は、スペインの多施設非盲検ランダム化比較試験で、腸内細菌目細菌菌血症における抗緑膿菌作用をもつβラクタムでの経験的治療から標的治療へのde-escalationの安全性について評価しています。

Efficacy and safety of a structured de-escalation from antipseudomonal β-lactams in bloodstream infections due to Enterobacterales (SIMPLIFY): an open-label, multicentre, randomised trial
LE López-Cortés et al, Lancet Infect Dis 2024, doi: 10.1016/S1473-3099(23)00686-2

 

【背景】
広域スペクトラムの抗菌薬から狭域スペクトラムの抗菌薬へのde-escalationは、抗菌薬の選択圧(抗菌薬の使用により使用抗菌薬に対する耐性菌が選択される力)を低下させるための重要な手段と考えられているが、エビデンスが乏しいことがその実施の障壁となっている。我々は、腸内細菌目細菌菌血症患者において、経験的に開始された抗緑膿菌作用のあるβラクタム系抗菌薬から狭域スペクトラムの抗菌薬へのde-escalationされた群が、抗緑膿菌作用のあるβラクタム系抗菌薬を継続した群と比較した臨床的治癒における非劣性を検証した。


【方法】
スペインの21の病院で非盲検化ランダム化比較試験が実施された。腸内細菌目細菌菌血症を起こし、de-escalation先の狭域抗菌薬のいずれかに感受性があり、抗緑膿菌作用のあるβ-ラクタム系抗菌薬による経験的治療が開始された患者を対象とした。患者はde-escalation群と対照群の二群に無作為に割り付けられ、de-escalation群はアンピシリン、ST合剤(尿路感染症のみ)、セフロキシム、セフォタキシムまたはセフトリアキソン、アモキシシリン-クラブラン酸、シプロフロキサシン、エルタペネムの順に感受性に応じてde-escalationされた。一方、対照群は経験的抗緑膿菌作用のあるβ-ラクタム系抗菌薬を継続した。両群とも経口抗菌薬への切り替えは許容した。主要評価項目は、試験薬を少なくとも1回投与された患者からなるmodified ITT populationにおける”治療終了3~5日後の臨床的治癒”であった。安全性は全例で評価された。治癒率の絶対差の95%信頼区間の下限が-10%の非劣性マージンを上回った場合に非劣性を達成したとする。
 

【結果】
2016年10月5日~2020年1月23日の間に2030例がスクリーニングされ、そのうち171例がde-escalation群に、173例が対照群に無作為に割り付けられた。De-escalation群164例(50%)、対照群167例(50%)がmITT集団に含まれた。de-escalation群148例(90%)、対照群148例(89%)に臨床的治癒が認められ、非劣勢が確認された(リスク差 1.6 percentage points、95%信頼区間 -5.0 ~ 8.2)。報告された有害事象の数はde-escalation群で219例、対照群で175例であり、そのうちde-escalation群で53例(24%)、対照群で56例(32%)が“重症”とされた。de-escalation群164例中7例(5%)、対照群167例中9例(6%)が60日間の追跡期間中に死亡したが、治療に関連した死亡はなかった。
 

【結論】
腸内細菌目細菌菌血症において、事前に規定された治療戦略に従った抗緑膿菌作用のあるβ-ラクタム系抗菌薬からのde-escalationは、同薬剤を継続した場合と比較して” 臨床的治癒”において非劣性であった。これらの結果は、特定の状況におけるde-escalationを支持するものである。

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当たり前を疑うという科学的視点から非常に示唆に富む研究だと思いました。我々がよく見る好中球数500/μL未満の患者については除外基準に入っており、やはりいつものごとく一般化され難い患者層です。しかし、サブグループ解析ではありますが敗血症患者でも同様の結果となっており、患者の異質性においても配慮した解析となっています。このような一般患者層における臨床研究は市中病院で行われるべきであり、いつかデザイン・解析してみたいなと思いました。

おまけ

 

 

休日の仕事帰りにおやつを食べに行きました。