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スタッフHです。

今回はクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)を発症した免疫不全者に対するバンコマイシンとフィダキソマイシンの効果について検証した単施設研究を紹介します。


CDIは医療曝露の多い患者、特に高齢者や、やはり抗がん剤をしているようながん患者では多く遭遇します。診断が簡単なようで、検査精度やバリエーションを理解すると非常に難解で要領を得ない疾患であり、日本においては鑑別には上がるものの重大な疾患とされていない印象を受けます。実は感染症の中で世界的には大きな問題として取り上げられている疾患で、世界保健機構はCDIを重大な薬剤耐性が増加する恐ろしい病原体TOP10にC. difficileをランクインしています。


あと意外に知られていない事実として、よくメトロニダゾールを治療の第一選択としている方をみかけますが、実は米国感染症学会の2017年のガイドラインからメトロニダゾールはどの重症度においても、医療資源が乏しい状況以外で第一選択とはされていません。以前より効果の面でバンコマイシンより有意に劣るとされてきたメトロニダゾールでしたが、バンコマイシン耐性腸球菌などの問題や軽症であれば差がない可能性など言われ、数十年治療選択肢として残ってきました。日本のガイドラインでは未だ第一選択としていますが、海外では薬剤選択が変化しています。更に、2021年の米国感染症学会のガイドラインではバンコマイシンすら代替薬となり、フィダキソマイシンが第一選択となりました。2017年に本邦でも承認されています。フィダキソマイシンはバンコマイシン同様、非吸収性で内服後腸管内に残存します。狭域で腸管内細菌に影響を与えず、承認第Ⅲ相試験ではバンコマイシンに対して非劣勢を示しました。更に、再発頻度はバンコマイシンと比較して低く、以後の追試でも再発が少なく効果が長続きする薬剤とされました。ただし、劇症CDIについてはその限りではなく、バンコマイシンの併用療法などが選択肢となります。

さて、長くなりましたが、前置きが長くなりましたが以下の論文を紹介します。

Comparative Effectiveness of Fidaxomicin vs Vancomycin in Populations With Immunocompromising Conditions for the Treatment of Clostridioides difficile Infection: A Single-Center Study
Alsoubani M et al, Open Forum Infect Dis 2023, doi: 10.1093/ofid/ofad622

【背景】
CDIは、合併症や再発のリスクが高く、免疫不全患者における合併症の主要な原因の一つである。本研究では、免疫不全患者におけるフィダキソマイシン対バンコマイシンの臨床的有効性を検討した。

【方法】
本単一施設(Tufts Medical Center, Boston, MA)レトロスペクティブ研究では、2011年から2021年にCDIを発症した患者を評価した。主要評価項目は、臨床的失敗、30日後の再発、またはCDI関連の死亡の複合アウトカムとした。多重COX比例ハザードモデルを用いて、交絡因子を調整し、他の原因による死亡を競合リスクとして扱い、治療と複合アウトカムとの関係を検証した。

【結果】
フィダキソマイシンおよびバンコマイシンで治療を受けた238人(フィダキソマイシン:38人、バンコマイシン:200人)の免疫不全患者(固形臓器移植、骨髄移植、白血病・リンパ腫、固形がん、免疫抑制剤使用)を解析した。複合アウトカムを起こしたのは42例であった。フィダキソマイシン群で4例(10.5%)、バンコマイシン群で38例(19.0%)であった。性別、先行する抗菌薬の数、CDIの重症度、および免疫抑制のタイプで調整した後、フィダキソマイシンの使用はバンコマイシンと比較して複合アウトカムのリスクを有意に減少させた(10.5% vs 19.0%;ハザード比 0.28;95%CI 0.08-0.93)。さらに、フィダキソマイシンは、調整後30日および90日の再発の複合リスクを70%減少させた(ハザード比 0.27;95%CI 0.08-0.91)。

【結論】
本研究は、CDIの治療にフィダキソマイシンを使用することで、免疫不全患者における不良な転帰が減少することを示した。

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免疫不全者においても治療失敗が少なく、ガイドラインの推奨が適応される可能性があります。フィダキソマイシンの薬価の高さ(および保険制度)や国内ガイドラインの推奨、また、米国との強毒株の疫学の違いなどの複数の条件があり一律に推奨出来るかと言われるとそうではありませんが、個人的には積極的にバンコマイシンを使用する事が多いです。このような限定的な患者層での臨床試験の結果を引き続きモニタリングしていきます。

おまけ

 



小樽の北一ホールです。小樽は高校生ぶりに行きましたが北海道開拓・西欧化の空気感が楽しめます。