【お知らせ】
当科ではスタッフ医師を募集しています。募集要項はこちらです。当科の紹介記事はこちらから。メールでのお問い合わせはhematology@aih-net.comまでお願いいたします。

 

スタッフHです。

今回は2回に分けて血液悪性腫瘍におけるサイトメガロウイルス(CMV)感染症について解説します。

ヘルペス科ウイルスの再活性化は免疫不全患者診療で悩まされますが、特に重度の細胞性免疫が低下した状況下で起こるCMVは特に難渋します。健常人においては感冒のウイルスで、多くの方が既に感染しており、感染後細胞に潜伏するため自然消退する事はありません。我々の領域では同種造血幹細胞移植患者、その中でも高リスクドナーを用いた移植症例において特に問題となり、非移植関連死亡の増加や生着不全、GVHDの増加など様々な問題を起こします。

血液関連のCMV診療の歴史について簡単に振り返ります。


古典的には同種移植でのCMV肺炎が問題となり、CMVの予防や先制治療としての抗ウイルス療法が考案されました。古いものでいうと各種検体(尿、血液、咽頭など)からのウイルス検体の培養を指標に先制治療を行っていた事もあります。


いずれの治療も効果を示しましたが、予防治療は過剰治療による薬物毒性や抗ウイルス薬曝露による耐性ウイルスの問題から、先制治療が主流となっていきます。ウイルス検出法も発展し、当初はウイルスを培養するシェルバイアル法を用いていましたが、アンチゲネミア法が開発され、より感度の高い有用な方法として現在でも本邦では使用されています。アンチゲネミアを用いた先制治療の有用性も証明され、同領域の大家である現Fred Hutchの教授Michael Boeckhはその臨床使用の指針を示しました。Michael Boeckhについては以前の私の記事でも登場しています。

 


本邦においては、自治医大の神田先生達がリスク毎・反応毎治療戦略を確立し、未だに先制治療の標準とされています。
 

近年では検出方法の更なる進歩により、real-time PCRを用いる事が一般的となっており、2000年代で既にMichael Boeckhらはアンチゲネミアの使用を推奨していません。2020年になって、やっと本邦でも「サイトメガロウイルス核酸定量」が保険収載され、WHO international standardを用いた国際的規格化された検査結果が得られるようになりました。


また、レテルモビルというCMV予防における革新的な薬剤が出現し、予防戦略が大きく変わりました。2018年に国内製造販売承認を受け、同種移植での使用が一般的となっています。これまでCMV治療で使用されてきた薬剤はガンシクロビル(内服のバルガンシクロビル)、ホスカルネット、cidofovir(日本未発売)ですが、いずれも毒性により使用継続困難となる事が多く新規薬剤の開発が期待されていました。レテルモビルは予防的な使用が原則となりますが、ガンシクロビルにみられる血液毒性やホスカルネット、cidofovirにみられる腎毒性・電解質異常がみられず非常に使用しやすいです。レテルモビルでの予防、その中でviremiaが出現した際に治療薬を変更する、という戦略でviremiaが減少し、先制治療の頻度が低下しますので、移植医療において大きなメリットになります

そんな中で昨今問題となっているのが難治性および耐性サイトメガロウイルスです。

次回に続きます(明日3月5日に更新します!)。

おまけ




福岡市美術館で行われているローマ展に行ってきました。これは帝政ローマのコンスタンティヌス帝の手(確か複製)です。日本でいう先史時代にこんな立派な彫刻が…。3月10日までだそうです。