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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

再生不良性貧血の文献はかなり久しぶりな気がします。Lancet Haematologyから、ATGを使用しないエルトロンボパグとサイクロスポリンの併用療法第Ⅱ相試験結果をお伝えいたします。

 

Activity and safety of eltrombopag in combination with cyclosporin A as first‑line treatment of adults with severe aplastic anaemia (SOAR): a phase 2, single-arm study

Scheinberg P et al, Lancet Haematol 2024, doi: 10.1016/S2352-3026(23)00395-2

 

【背景】

抗胸腺細胞グロブリン(ATG)をベースとした免疫抑制療法が、組織適合ドナーがいないもしくは40歳以上の重症再生不良性貧血患者の初期治療として標準的なものである。しかし、ATGは入院での投与が必要で、投与関連毒性があり、使用も限られ全世界で可能な治療ではない。今回の研究では、重症再生不良性貧血で、ウマATGにアクセス出来ないもしくは耐容出来ないと思われる患者に対する、ATGを用いないエルトロンボパグとサイクロスポリンAの潜在的な治療選択肢としての有効性と安全性を調査した。

 

【方法】

SOAR試験は多施設共同単群第Ⅱ相試験で、成人(18歳以上)の未治療重症再生不良性貧血で、ECOG PS 2未満の患者におけるエルトロンボパグとサイクロスポリン併用療法を検証した。参加者は10ヶ国の20病院からリクルートされた。エルトロンボパグは150mgで開始され(アジア人患者は100mg)、経口サイクロスポリンは10mg/kg/日(トラフを200~400μg/Lに調整)でday 1から6カ月まで投与された。主要評価項目は治療企図解析集団での6カ月までの全血液学的奏効率だった。本報告は主要解析期間の最終報告である。

 

【結果】

2017年5月11日から2020年3月23日の間に、54人の患者が参加した。34人(63%)が男性で、20人(37%)が女性だった。22人(41%)がアジア人、22人(41%)が白人、1人(2%)がネイティブ・アメリカンもしくはアラスカ先住民、1人(2%)が黒人もしくはアフリカ系アメリカ人、8人(15%)はその他の人種だった。35人(65%)がエルトロンボパグとサイクロスポリンの6カ月からなる治療を完遂し、6人(11%)は最大24カ月のサイクロスポリン減量期間を終了した。6カ月までの全血液学的奏効率は46%(54人中25人;95% CI 33-60)だった。最も報告された有害事象は血清ビリルビン上昇(22人[41%])、嘔気(16人[30%])、ALT濃度上昇(12人[22%])、下痢(12人[22%])だった。8人の患者が治療中に死亡したが、治療とは関連しないと考えられた。

 

【解釈】

エルトロンボパグとサイクロスポリンは重症再生不良性貧血に対する有効な初回治療であり、予測できない安全性の懸念はなかった。この治療アプローチはウマATGが使用出来ない、もしくは不耐容の場合に有効かもしれない。

 

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40歳以上の重症再生不良性貧血では標準的にはウマATG+サイクロスポリン+エルトロンボパグが行われます。日本でも最近ウマATGが使用出来るようになりましたが、ご高齢であったりでなかなかATGが使用しづらい患者さんもおられます。その場合、ATGを省略したりサイクロスポリンを省略したりなど何とか工夫をしてみるのですが、もともと稀少疾患のため質の高い研究が少なく、今やっている治療がどのくらい有効なのかが判然としないまま治療を進める・・・みたいなことはあると思います。今回の試験は比較的実施しやすい組み合わせで、ATG併用レジメンよりは劣りますが、輸血依存が軽減するなどの確かな効果も認め、フレイルな患者群には選択肢になりえると思いました!

 

おまけ

 

 

つい昨日なのですが、働き方改革のセミナーにディスカッサントとして参加しました。普段なかなか聞くことの出来ない他の施設での取り組みを知ることが出来て、今後の参考になりました!