こんにちは。血液内科スタッフKです。
今回は稀少疾患に対する第Ⅲ相試験の論文なのですが、造血幹細胞移植を含む臓器移植後に稀に発症するEBV陽性リンパ増殖性疾患に対する新規免疫療法をご紹介します。
Mahadeo KM et al, Lancet Oncol 2024, doi: 10.1016/S1470-2045(23)00649-6
【背景】
造血幹細胞移植(HSCT)もしくは固形臓器移植(SOT)に引き続いて起こる、EBウィルス(EBV)陽性移植後リンパ増殖性疾患の初回治療失敗後の生存予後は不良であり、この極めて稀な疾患に対する治療の緊急の必要性を示している。最近EUで製造承認が下りたことにより、tabelecleucelが再発難治性EBV陽性移植後リンパ増殖性疾患の治療に対して承認を受けた、初の既製品の同種EBV特異的T細胞免疫療法となった。本研究はHSCTもしくはSOT後の再発難治性EBV陽性移植後リンパ増殖性疾患患者におけるtabelecleucelの臨床的有効性を評価することを目的とした。
【方法】
今回の国際多施設共同非盲検第Ⅲ相試験において、適格患者(全年齢)は生検組織で証明されたEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患を有し、HSCT後のリツキシマブおよびSOT後のリツキシマブ±化学療法に再発または難治性であり、部分的にHLAが一致し適切なHLA拘束性を有するtabelecleucelを使用することができた。患者は体重1kgあたり2×106細胞のtabelecleucelを、1サイクル35日として経静脈的にday 1、8、15に投与され、治療開始後から最大5年間の生存が評価された。主要評価項目は全奏効率であった。少なくとも1回のtabelecleucelが投与された全ての患者が安全性および有効性解析に含まれた。
【結果】
2018年6月27日から2021年11月5日までで、63人の患者が参加し、そのうち43人が組み入れられた(男性 24人[56%]、女性 19人[44%])。14人がHSCT、29人がSOTを以前に受けていた。HSCT群で14人中7人(50%、95% CI 23-77)、SOT群で29人中15人(52%、33-71)に奏効を認め、それぞれの群のフォローアップ期間中央値は14.1カ月(四分位範囲 5.7-23.9)と6.0カ月(1.8-18.4)だった。
最も頻度の高いグレード 3もしくは4の試験治療下での有害事象は原疾患進行(HSCT群14人中4人[29%]、SOT群29人中8人[28%])、好中球減少(HSCT群4人[29%]、SOT群4人[14%])だった。試験治療下での重篤な有害事象は43人中23人(53%)で報告され、致死的な有害事象は5人(12%)に認められたが、試験治療とは関連なかった。腫瘍フレア反応、サイトカイン放出症候群、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群、感染症の伝染、骨髄拒絶、急性輸注反応の報告はなかった。Tabelecleucelに関連したGVHDやSOT拒絶は報告されなかった。
【解釈】
Tabelecleucelはその他に承認された治療のない再発難治性EBV陽性移植後リンパ増殖性疾患患者に臨床的な利益をもたらし、その他の養子免疫細胞療法で見られる安全性懸念はなかった。これらのデータは治療選択肢のほとんどない再発難治性疾患の患者にとって潜在的に変革的かつアクセス可能な治療の進歩であることを示している。
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Tabelecleucelは、既に前治療歴のあるEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患に対して欧州で承認を受けた免疫細胞療法で、EBVに対する同種のEBV特異的な細胞障害性T細胞を輸注するというものです。同種造血幹細胞移植の患者さんだと強力な化学療法は既に出来ないことが多く、リツキシマブは一定の有効性があるものの、逆に言うとそれ以外の治療はほとんどないというのが現状でした。今回の第Ⅲ相試験では、リツキシマブを含んだ前治療に再発難治性の患者さんを対象としていますが、そのような厳しい背景としては非常に有望な成績だと思われます。
おまけ
ちょっと前に作った豚スペアリブとトマトの煮込みになります。