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スタッフのHです。
 

先日本格的な初雪が降りました。飯塚は盆地であるため道路凍結等で出勤に難渋しますがなんとか無事に乗り切る事が出来ました。
 

さて、今回は期待の臨床試験の長期フォローアップ結果を報告した論文を紹介します。

急性リンパ性白血病(ALL)の中でもB-ALLの治療は近年大きく変化をしており、新薬の登場により同種移植を行わなくても良い患者層の特定や、そもそも移植や強力化学療法が出来ない患者に対する治療が可能となってきています。その中でblinatumomabは、本邦の保険診療の範疇で初発ALLに使用する事は困難ですが、移植要否・移植/強力化学療法困難な状況での使用等の議論に密接に絡む立場を取っている重要な薬剤です。更に、古典的に予後不良とされているフィラデルフィア染色体陽性ALL(Ph+ALL)に対して近年併用されるチロシンキナーゼ阻害薬は、患者予後を著明に改善する事が分かっています。これら重要な二剤併用を初発Ph+ALLに対して使用したGIMEMA LAL2116 D-ALBA trialでは効果、安全性共に良い結果を出しています。

今回紹介する論文は、GIMEMA LAL2116 D-ALBA trialの長期フォローアップの結果となります。
 

Long-Term Results of the Dasatinib-Blinatumomab Protocol for Adult Philadelphia-Positive ALL
Foà R et al, J Clin Oncol 2023, doi: 10.1200/jco.23.01075


【背景】
dasatinibとblinatumomabによる導入/地固め療法の先駆的試験 GIMEMA LAL2116 D-ALBA trialの長期成績を報告する。


【方法】

GIMEMA LAL2116 D-ALBA trialを参照。


【結果】
dasatinibとblinatumomabを併用した導入/地固め療法(GIMEMA LAL2116 D-ALBA)による成人Ph+ALLを対象とし、患者63人が登録された。分子生物学的奏功(完全分子奏効±定性PCR陽性)率はサイクルを重ねる毎に増加した(2カ月後 75%、4カ月後 77%、6カ月後 70.1%、8カ月後 85%、10カ月後90%、12カ月後 93%)。追跡期間中央値53ヵ月で、48カ月時点での無病生存率(DFS) 75.8%、全生存率(OS) 80.7%、無イベント生存率(EFS) 74.6%であった。寛解導入終了時点での早期分子生物学的奏効例ではイベントが発生しなかった。一方で、2サイクルを過ぎた後の分子生物学的奏功と微小残存病変陽性例は、DFS、OSいずれも差がみられなかった。IKZF1陽性患者では陰性患者と比較しDFSが有意に悪かった。29人の患者は化学療法も移植を受けず、TKIのみを使用し続けている。27人(93.1%)はdasatinib+blinatumomab後に分子生物学的奏功を達成しており、20人はblinatumomab 2サイクル後、7人はそれよりも後に達成している。28人(96.5%)はフォローアップ期間中央値48カ月で長期完全血液学的奏効(CHR)を維持している。24人は1st CHRで同種移植を行い、13人(54.2%)は一次評価時点で非分子生物学的奏功であった。20人(83.3%)はフォローアップ期間中央値49カ月でCHRが持続している。移植関連死亡率は、初回CHRで移植された患者で12.5%、全体で13.7%であった。9例が再発しており、4人が血液学的、4人がCNS浸潤、1人が節性であった。再発時期の中央値は4.4カ月であった。3人の患者がサルベージの移植で生存している。測定できた8人中4人がIKZF1陽性であり、ABL1変異が7例で見つかった(T315I 6人, E225K 1人)。
 

【結論】
最終解析では、化学療法を用いないdasatinibおよびblinatumomabによる免疫療法による併用レジメンは、成人Ph+ALLにおいて長期的・持続的な血液学的・分子学的奏効を達成する事が示された。これらの患者の治療における新たな時代への道を開く結果であった。

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Ph+ALLではblinatumomabに加えTKIも強力な効果を示し、化学療法フリーの治療を実現しました。成人領域では高齢発症の方や多くの基礎疾患を持たれている方も散見されるため、今まで十分な治療が出来なかった層についてはもちろんの事、MRDを追う事で移植フリーとする事も可能となるかもしれません。実際に海外のガイドラインではCR1で即移植をしない事も選択肢となっており、国内ガイドラインも次回以降で変わってくるかもしれません(2023年版の造血器腫瘍診療ガイドラインではCR1での同種移植が推奨されています)。

おまけ

 



写真は山茶花です。咲く花が少ない季節ですが、だからこそより映えますね。