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スタッフHです。
 

血液悪性腫瘍で化学療法中の患者さんをみていると一般人口と比較し明らかに高い確率で緑膿菌菌血症に出会います。感染臓器不明の一次性菌血症も多いです。
 

今回、血液悪性腫瘍患者における緑膿菌菌血症の治療期間に関する研究がClinical Infectious Diseaseに掲載されていたため紹介します。

Is Short-course Antibiotic Therapy Suitable for Pseudomonas aeruginosa Bloodstream Infections in Onco-hematology Patients With Febrile Neutropenia? Results of a Multi-institutional Analysis
Feng X et al, Clin Infec Dis 2023, doi: 10.1093/cid/ciad605

血液悪性腫瘍患者に対する抗がん剤治療中および同種造血幹細胞移植中の好中球減少期に長期の抗菌薬に曝露する事は避けられませんが、抗菌薬関連副作用としての耐性菌の増加や薬剤毒性などの問題もあり、予後を悪化させない範囲で曝露量を減らす事が重要です。しかし、抗菌薬の治療薬関連の質の高い研究では多くの場合免疫不全のある患者は除外、もしくは少数しか登録されておらず、このような患者層へ治療期間短縮のエビデンスを適合させる事に対して当該科医師が消極的になるのも当然です。”Shorter antibiotic courses in the immunocompromised: the impossible dream?”と銘打ったClinical Microbiology and InfectionのNarrative reviewもあり、非常に興味深い領域です。

【背景】
免疫不全患者における緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:PA)血流感染症(BSI)に対して、短期間の抗生剤投与が有効であることがいくつかの研究で示唆されている。しかし、血液悪性腫瘍患者における同様の研究はあまりない。

【研究方法】
このコホート研究は、中国の2つの血液センター(Chinese Academy of Medical Sciences、Wuhan Union Hospital of China affiliated to Tongji Medical College of Huazhong University of Science and Technology)において、2014年1月から2023年1月までに血液悪性腫瘍と緑膿菌菌血症を合併した症例を対象とした。抗菌薬治療が7日未満、22日以上、治療完遂しなかった、アミノグリコシド単剤治療を行った、敗血症性ショックを早期に発症、治療終了後90日以内のフォローが得られなかった症例は除外した。一次評価項目はcomposite outcomeとし、30日以内の抗菌薬治療中止を伴う緑膿菌感染症の再燃もしくは死亡とした。交絡因子のバランスをとるために、inverse probability of treatment weighting(IPTW)を用いた。多変量回帰モデルを用いて、抗生物質短期投与が上記評価項目に及ぼす影響を評価した。

【結果】
合計434例の患者が適格基準を満たした(短期治療[7~11日間] 229人;長期治療[12~21日間]205人)。患者背景バランスの取れた重み付けコホートにおいて、単変量解析および多変量解析の結果、短期治療の抗生物質投与は長期治療と比較して有意な差はみられなかった。感染臓器のある緑膿菌菌血症患者の再発または治療終了後30日以内の死亡は、短期コース群では8例(3.9%)、長期治療群では10例(4.9%)にみられた(P = 0.979)。90日以内の感染再発は、短期治療群で20例(9.8%)、長期治療群で13例(6.3%)に認められ(P = 0.139)、7日以内の発熱再発は、短期治療群で17例(8.3%)、長期治療群で15例(7.4%)に認められた(P = 0.957)。短期治療群の平均入院日数は3.3日少なかった(P < 0.001)。

【結論】
本試験において、短期治療は長期治療よりも臨床転帰の点で劣っていなかった。しかし、バイアスや限界があるため、これらを一般化するためランダム化比較試験が必要である。

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抗菌薬治療期間の設定は非常に難しく、経験則的に出来た古典をいかに切り崩すかが重要となります。私が研修医の頃は菌血症であれば2週間、尿路感染症は2週間、といったような大雑把な伝聞的情報が氾濫していた印象がありますし、周囲に聞いても同様です。私の場合、治療期間設定に専門医として向き合わなければなりませんが、多くの場合質の高い研究はなく、多種多様な観察研究や、ガイドラインでの推奨をもとに、患者背景を考えながら検討していくしかありません。感染症領域の研究では、患者背景が他領域と比較しても一様ではありませんので非常に一般化が難しいです。血液感染症のような二ッチな領域は特に多くの検討・研究を重ねていく必要があります。

おまけ

 

 

写真は近所のお祭りの様子です。