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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回はLancet Haematologyからで、微小残存病変(MRD)の治療反応に応じて治療強度を変えるという戦略を検証した第Ⅱ相試験であるMASTER試験の最終解析結果です。

 

Minimal residual disease response-adapted therapy in newly diagnosed multiple myeloma (MASTER): final report of the multicentre, single-arm, phase 2 trial

Costa LJ et al, Lancet Haematol 2023, doi: 10.1016/S2352-3026(23)00236-3

 

【背景】

新規診断多発性骨髄腫患者において、治療後の微小残存病変(MRD)陰性達成はアウトカムを改善させる。しかし、MRDを使用して治療を調節することについてはよく分かっていない。本論文ではMASTER試験の最終解析を報告する。この試験では新規診断多発性骨髄腫患者に対するダラツムマブ、カルフィルゾミブ、レナリドミド、デキサメサゾン併用療法(Dara-KRd)が行われ、治療期間調節と治療終了にMRDステータスが用いられた。

 

【方法】

MASTER試験は多施設共同単群第Ⅱ相試験で、米国の5つの大学病院で実施された。18歳以上の新規診断多発性骨髄腫(血清もしくは尿蛋白の電気泳動もしくは血清遊離軽鎖で測定可能な病変を有する)で少なくとも12ヶ月以上の生存が期待され、ECOG PS 0-2、最大1サイクルのボルテゾミブ、シクロフォスファミド、デキサメサゾンを含む化学療法を除く多発性骨髄腫に対する前治療のない患者が適格とされた。

 

この試験では、高リスク染色体異常(HRCAs)を有する参加者が多かった。寛解導入フェーズの間、患者は1サイクルを28日として4サイクルのDara-KRd療法を受けた。それぞれのサイクルはダラツムマブ(経静脈的に16mg/kgをday 1、8、15、22)、カルフィルゾミブ(経静脈的に56mg/m²をday 1、8、15)、レナリドミド(経口で25mgをday 1-21)、デキサメサゾン(経口もしくは経静脈的に40mgをday 1、8、15、22)からなるものだった。寛解導入後には自家造血幹細胞移植と、Dara-KRdによる最大2フェーズの地固めが行われた。それぞれのフェーズ後もしくはフェーズ中に次世代シークエンスによりMRDを評価した。主要評価項目はMRD達成である(<10-5)。2つの連続したフェーズ後もしくはフェーズ中にMRD陰性に達した患者は治療を終了し、MRDを監視する観察を行った(MRD-SURE)。上記を達成しなかった患者はレナリドミド維持療法が行われた。副次評価項目には無増悪生存率、累積再発率が含まれた。全ての解析は治療企図解析集団で実施された。

 

【結果】

2018年3月21日から2020年10月23日の間に123人が試験に組み入れられた。そのうち男性70人(57%)、女性53人(43%)、非ヒスパニックの白人が94人(76%)、非ヒスパニックの黒人が25人(20%)、4人(3%)がその他の人種だった。患者年齢の中央値は61歳(四分位範囲 55-68)で、24人(20%)は70歳以上だった。フォローアップ期間中央値は42.2カ月であった(34.5-46.0)。123人の患者のうち、53人(43%)にはHRCAはなく、46人(37%)に1つのHRCA、24人(20%)が2つ以上のHRCAを認めた。123人中118人(96%)で次世代シークエンスによりMRD評価が可能だった。残りの5人では今回の実験系で経過を追えるだけの固有のクローン原性配列が充分になかった。これらの118人のうちで、96人(81%、95% CI 73-88)がMRD 10-5未満を達成した(HRCAなしの患者50人中39人[78%、64-88]、HRCA 1つの患者44人中38人[86%、73-95]、HRCA 2以上の患者24人中19人[79%、58-93])。84人(71%、62-79)がMRD-SUREに達し、治療を終了した。全123人での36カ月時点の無増悪生存率はHRCAなしで88%(95% CI 78-95)、HRCA 1つで79%(67-88)、HRCA 2つ以上で50%(30-70)であった。MRD-SUREに達した84人において、治療終了から24カ月の累積再発率はHRCAなしで9%(95% CI 1-19)、HRCA 1つで9%(1-18)、HRCA 2つ以上で47%(23-72)であった。61人(118人のMRD評価可能患者のうち52%およびMRD-SURE達成84患者の73%からなる)が2023年2月7日時点で治療フリーかつMRD陰性を維持している。

 

最も頻度の高いグレード 3-4の有害事象は、好中球減少症(43人、35%)、リンパ球減少症(28人、23%)、高血圧(13人、11%)であった。3人の治療期間中の死亡が記録され、2人は突然死、1人はウィルス感染症であり、いずれも治療と関連はないと判断された。

 

【解釈】

本試験のアプローチは良好なアウトカムを示し、新規診断多発性骨髄腫患者のほとんどに治療終了への筋道を開いた。2つ以上のHRCAを持つことで定義される超高リスク多発性骨髄腫患者のアウトカムは不良なままであり、これらの患者では新しい作用機序による治療を早期導入する臨床試験に優先的に組み入れるべきである。

 

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多発性骨髄腫は治癒困難な疾患のため、治療が進歩したといっても長期間にわたり、患者さんの負担も少なくありません。今回の試験は移植適応患者さんを対象としてDara-KRdベースの治療を行い、MRD陰性達成が一定の基準を超えたら治療を終了してMRDをモニタリングするという治療戦略です。

 

結果によると、高リスク染色体異常(HRCA)がないまたは1つまでの患者群では多数の患者がMRDを達成して治療を終了でき、かつ2年以内の再発も1割ほどと良好な成績と言えると思います。一方でHRCAが2つ以上ある超高リスク患者群では、MRD陰性はそれなりに達成出来ているのですが、それが長続きしないことがよく分かります。また治療を終了してしまうと半数近くで再発しており、HRCA 2つ以上の超高リスク患者は既存の治療の組み合わせではやはり難しく、新薬の臨床試験への参加が推奨されるようです。

 

長い長い治療をどんな人で、いつ止めたらいいのかについては明らかにされていないことが多く、今回の試験をそのまま適用していいわけではないのですが、色々な理由で治療継続困難な場合に治療中断を提案する一つの指標になりうる、参考になる結果だと思いました。

 

おまけ

 

 

ローテーターの先生の送別会で食した、飯塚病院に来たらこれを食っとけ!で有名なねぎロースの近影になります。