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スタッフのHです。
 

3月になり血液内科診療を開始して1年になろうとしていますが、まだまだ不勉強な点も多く、学びの多い毎日を過ごしています。

私は以前より生物統計大学院に所属しており、社会人大学院生として臨床研究をしています。

最近、もともと専門としていた感染症知識のアップデートがなかなか出来ていなかったため、感染症領域のメジャージャーナルのタイトルチェックをしていたのですが、研究デザインにおいて注意すべきバイアスについて扱っている論文をみつけましたので、紹介させていただきます。

 

Positive impact of [18F]FDG-PET/CT on mortality in patients with Staphylococcus aureus bacteremia explained by immortal time bias

van der Vaart TW et al, Clin Infect Dis 2023, doi: 10.1093/cid/ciad112


黄色ブドウ球菌菌血症におけるPET-CTの役割は以前より複数の研究があり、診療に組み込むことにより死亡率を低下させるという結果が出ている事は専門科界隈では有名な話ですが、コストや保険診療の問題から日本では話題となりにくく、注目されていません。


黄色ブドウ球菌菌血症はいわゆる『播種性病変』という、多臓器にまたがる病変を作る特徴のある恐ろしい病態なのですが、これを事前に見つけておく事で治療戦略を改変し予後を改善するのではないか、という仮説のもとPET-CTの介入が検証されてきたという背景があります。
 

しかし、この論文の指摘では、FDG-PETが撮影される前のイベント(例えばall cause death)が撮影というイベントの競合リスク、つまりPET-CTが撮影されるというイベント観測を邪魔する因子になり得、FDG-PETの効果を過大評価している、というのです。伝わりますでしょうか…。これを『immortal time bias』といい、いくつかの解決方法があるのですが、ここではsubdistribution hazard modelと、cause-specific hazard modelが出てきます。生存時間解析が前提の話となりますが、PET-CT撮影をtime-varying covariateとして扱い、前者は競合イベントを起こした患者を非PET-CTかつ死亡イベントとして扱わず、at risk集団として扱うやり方(分布関数が永続的に1に達しない事から”subdistribution”という名称がついているとのこと)で、後者は興味あるイベント(感染症関連死亡)以外のイベントが発生した場合を打ち切りとして扱うという手法です。
 

その結果、通常解析(PET-CTをtime-fixed co-variatesとして扱う)ではPET-CT撮影が有意にハザード比を改善しますが、immortal time biasを考慮した解析では差が出ませんでした。

Cox比例ハザードモデルはよく使われる線形多重回帰モデルですが、比例ハザード性の仮定など実は条件が多くあり、多くの解析もそうですが数理的理解を要します。

臨床医として論文チェックは皆様日課とされているかと思いますが、このようなバイアスが存在することを知っておいても良いかと思います。

 

おまけ



巻積雲と福岡市博物館です。夏の終わりを告げる、少し寂しい風景です。