独特の焦げるような、なんともいえないにおいで、昔の記憶が甦る。
歯医者が嫌いだった理由。
痛みには強いと思っている。注射の痛みもなんともない。
痺れる感覚も、不快と思わず楽しめる。あちこち引っ張られるのも平気だ。触覚。
苦いような、辛いような、薬剤の味も我慢できる。血の味は自分のだからどうってことない。味覚。
器具で削る時に出る独特の音も、もう大人なので怖くない。聴覚。
治療中は基本的に目をつぶるので、何も見えない。見えても何をしているのか理解できるので、恐怖感もない。視覚。
消毒薬のにおいや、うがい薬のにおいなど、薬品のにおいはどちらかといえば好きだ。
が、あの独特の焦げるようなにおいだけは、どう頑張っても無理だ。嗅覚。
親知らずを抜いてきた。
行く前は、何度も行くのも面倒だから、一気に抜いてもらっちゃおう。
などと考えていたのだが、治療中あのにおいを嗅いだ瞬間、一気に考えが変わった。
今日は1本だけにしよう。
なかなか抜けず、あんぐりと口を開き、口の中をいじくられながら、暇を持て余す。
美容院のように本を読むわけにもいかないので、小さな音でかかっていたショパンでどうにか気を紛らわす。
自分の好きな音楽を聴きながら、治療してくれる歯医者さんや、眼鏡型のデイスプレイで好きな映像を見ながら治療してくれる歯医者さんがあったらいいのにと思ってみたり。
親知らず、あと3本。