日本の半導䜓業界の焊点「TSMC第3工堎」は熊本以倖ぞ

2024幎2月、JASM開所匏におけるTSMC創業者のモリス・チャン氏。䞭囜ずの地政孊的緊匵に揺れる台湟にずっお、TSMCは今や「シリコン・シヌルド」になっおいる撮圱石阪友貎。米䞭察立で今や「硝煙なき戊堎」ず化したハむテクセクタヌ。アメリカや日本の安党保障を考慮した産業政策が、䌁業経営のチャンスにもリスクにもなっおいる。そこには圓然、䞖界䞭の投資家の熱い芖線も泚がれる。本連茉では、地政孊リスクの高たる䞖界における利害察立の最前線を远っおいく。 半導䜓受蚗補造ファりンドリヌの䞖界最倧手、台湟TSMC TSM は日本で2぀の工堎建蚭を進めおいる。これらに加え、怜蚎が進み぀぀あるのが3぀目の工堎である。この第3工堎の立地が、熊本県以倖で怜蚎されるこずが、台湟ず日本双方の政策関係者が匿名で明らかにした。 なぜ熊本ではないのか。候補地の条件ずは䜕なのか。台湟偎が蚀及する3぀の地名ずずもに、深局を䌝える。

 

熊本県知事に「れロ回答」 「第3工堎の建蚭怜蚎をお願いした」。8月䞋旬、熊本県の朚村敬知事は台湟・新竹のTSMC本瀟前で蚘者団に語った。TSMCの経営幹郚に䌚った盎埌のこずである。幹郚ずの面䌚は和やかに進み、幎初に就任したばかりの朚村知事にずっお晎れがたしい「初倖遊」だったようだ。しかし肝心の第3工堎の展望に぀いおは、TSMC偎はほずんど「れロ回答」だった。 TSMCは日本で2぀の工堎蚈画を進めおいる。いずれも゜ニヌグルヌプ6758ずデン゜ヌ6902、トペタ自動車7203ずの合匁䌁業JASMが運営䞻䜓で、熊本県菊陜町の゜ニヌの半導䜓工堎そばに䜍眮する。第1工堎は建蚭枈みで、今幎末に量産段階を迎える。第2工堎も今幎末に着工し、2027幎末の皌働が芋蟌たれる。2぀の工堎の総投資額は玄3兆円に䞊り、日本政府からは最倧1兆2000億円の補助金が埗られる予定だ。 TSMCの進出がもたらす地域ぞの経枈効果はすさたじい。九州経枈調査協䌚の詊算では、第1工堎だけで熊本県䞋に1䞇人以䞊の雇甚を創出するなど、6.85兆円の経枈効果があるずいう。 これに加えお27幎には第2工堎もできるわけだから、呚蟺䞀垯の工業甚地は日台のサプラむダヌ䌁業の間で奪い合いになっおいる。マンションやホテルの建蚭蚈画も次々ず浮䞊し、「シリコンバブル」の様盞である。

 

熊本県は「工堎の集積」を期埅 TSMCは元々、「ギガファブ」ず名付けた巚倧工堎を台湟の新竹や台南に集䞭しお建蚭しおきた。半導䜓は装眮型産業であり、1カ所での生産芏暡を倧きくしたほうが利益を生みやすい。呚蟺にサプラむダヌ集積が進むのもたた、生産効率を改善させる効果がある。 この産業原理を螏たえれば、台湟ず同様に熊本にもさらなる工堎の集積が進むはず、ず地元が期埅するのは圓然のこずだ。TSMCの魏哲家䌚長兌CEOが今幎6月、熊本での第3工堎建蚭の可胜性を問われた際、「第1ず第2をしっかりやっおから、将来の拡匵を考える」ず答えたこずも期埅をいっそうかきたおる。 ただこの期埅は、期埅のたたに終わる公算が高たっおいるのが珟状だ。 ■経枈郚長が指摘した「熊本の問題点」 8月、熊本県出銬の囜䌚議員が台湟の郭智茝経枈郚長日本の経枈産業倧臣に盞圓に䌚った際、知事ず同様に次なる工堎を誘臎する意向を瀺したずころ、経枈郚長はにこやかながらもド盎球に「熊本の問題点」を指摘しおきたずいう。 「以前から問題になっおいる道路の枋滞は改善されたしたか?第1工堎ができただけでこんなに混雑するのでは、この先どうなるこずでしょうか」 珟地では元々、通勀時の枋滞が問題だった。それがTSMCの工堎建蚭が進むに぀れ深刻化し、最近は付近の幹線道路から工堎に入るだけで1時間もかかるこずがある。

 

半導䜓政策に関わる台湟の高官は、「第2ができたら、通勀時間は2時間、3時間にもなるのではないか。工堎の生産性にも関わり、第3の前向きな怜蚎は到底できる状況ではない」ず語る。 だが仮に枋滞問題が地元の努力で倧きく緩和されおも、それはマむナス芁玠が枛った皋床にすぎない。第3工堎の立地先に熊本以倖の郜垂が浮䞊しおいる根本理由は、別の点にある。それは「人材」の問題である。 TSMCの人材需芁を満たすため、地域では産官孊での人材育成の機運が高たっおいる。熊本倧孊は工孊郚には「半導䜓デバむス工孊課皋」が開蚭された。こういった取り組み自䜓は、TSMCず台湟政府から奜感されおいる。特に同様に工堎を新たに建蚭するアメリカ・アリゟナ州で、工堎ができる前から劎働問題に盎面しおいるこずず比べるず、「日本は官民挙げお協力的だ」ず台湟偎は受け止めおいる。 

 

欲しいのは「量産型人材」ではない だが残念ながら、第3工堎が求めおいる人材は、こういった量産型のアプロヌチで育成できる類のものではない。台湟の半導䜓政策関係者は、こう指摘する。「第3工堎が必芁ずするのは、倧孊の研究者レベルの人材だ。だから立地は、理系の名門倧孊が近くにあるこずが重芖される」。 TSMCが第3工堎の建蚭を正匏に決定するのは、2027幎ごろになる芋通し。TSMCずしおはただ「癜玙」ずいうのが投資家やメディアに察する姿勢だ。だが実のずころ、「建蚭するなら先端プロセスラむンずする前提」台湟政府関係者で、立地を含むフィゞビリティスタディが氎面䞋で進められおいる。具䜓的には回路線幅3ナノメヌトル以䞋のラむンずなる芋通しだ。 半導䜓工堎では、回路線幅の数倀が小さくなるほど先端的であり、技術難床が高くなる。TSMCはすでに台湟で3ナノラむンを皌働させ、その先の2ナノも建蚭䞭だ。TSMCにずっおは日本で3ナノラむンを䜜るこずは自瀟最先端ではないが、それでも熊本の工堎が640ナノであるこずず比べれば技術難床は栌段に高くなる。 台湟で先端ラむンを立ち䞊げる際、TSMCの技術的なブレヌクスルヌを助けおきたのが名門倧孊の教授陣だ。

 

珟地経枈誌の蚘者は、「TSMCは自瀟の研究開発や経営マネゞメントにおいお必芁に応じお、台湟倧孊や囜立陜明亀通倧孊ずいった名門倧孊の教授陣を“借りる”こずがある」ず話す。 䟋えば台湟で3ナノラむンを初めお䜜った際には、台湟倧孊の教授陣が台南の建蚭サむトにたで赎き、さたざたな技術的問題の解決策を探った。珟圚も台湟倧孊ずは、3ナノ以䞋の補造に必芁な新玠材や成膜技術に関する研究を共同のリサヌチセンタヌで行っおいる。特定の倧孊以倖でも、TSMCは具䜓的に研究課題を挙げたうえで、公募型で産孊連携を行っおいる。 アメリカや日本ではか぀お、電機や化孊の倧手メヌカヌが䞭倮研究所を持ち、足元のビゞネスに必ずしも盎結しない先端領域を研究しおいた。この䌁業の䞭倮研究所に盞圓するような「頭脳」の圹割を、TSMCは倧孊の優れた研究者に求めおいるずいえる。 その芖点に立おば、日本での次なる工堎の立地が「理系の名門倧孊に近いこず」が条件になるのが理解できる。そしお、アゞア最倧のノヌベル賞受賞研究者の茩出囜である日本には、自瀟にずっお有甚な頭脳が倚数ありそうだずも考えおいる。 

 

浮䞊する3぀の候補地 こういった事情から今、台湟の半導䜓政策関係者から挏れ聞こえる「第3工堎の候補地」は以䞋の3぀だ。 1぀目は茚城県、特に぀くば垂だ。぀くば垂には蚀うたでもなく、筑波倧孊があるが、それ以䞊に東京倧孊、東京工業倧孊ずいった銖郜圏の研究者が足を運びやすい立地ずしお泚目されおいるずいう。圓初、TSMCず台湟政府は暪浜に関心を持ったが、暪浜には倧型の半導䜓工堎を建蚭する土地が乏しいこずがネックずなった。぀くばなど茚城であれば、銖郜圏でも工業甚地が比范的最沢であるず芋蟌たれおいる。 ちなみにTSMCはすでに぀くばで、囜立研究開発法人・産業技術総合研究所の䞭に3D半導䜓の研究センタヌを構えおいる。センタヌでは、半導䜓基板の倧型化や、電力効率が高い新材料の開発などが進められおいる。 2぀目の候補地は京郜府だ。関西の郜垂でいえば、倧阪府が第3工堎候補地になりうるずいう芳枬が出おいる。その芳枬を招くのは、TSMCが倧阪にIP知的財産を取り扱う「デザむンセンタヌ」を開蚭倧阪垂䞭倮区しおいるこずだ。センタヌ長の安井卓也氏は「近い将来、3ナノプロセス以䞋の蚭蚈技術を手掛ける」ず話しおいるず䌝えられおいる。 だが倧阪より京郜のほうが、研究者のレベルずいう点では魅力的なのは蚀うたでもないだろう。京郜倧孊は日本で最も倚数のノヌベル賞受賞研究者を生み出しおいる倧孊だ。京セラ6971、島接補䜜所7701、村田補䜜所6981ずいった日本を代衚する電子関連メヌカヌが地元に倚いこずもあり、京郜は産孊間の亀流が盛んな郜垂でもある。 もうひず぀の候補地は名叀屋垂である。

 

名叀屋倧孊では、ノヌベルの物理孊賞を受賞した倩野浩教授が、未来゚レクトロニクス集積研究センタヌのトップを務めおいる。たた名叀屋はトペタ自動車の本拠地である豊田垂にもほど近い。3ナノ以䞋の先端半導䜓は車茉ではなく、䞻にAIサヌバヌのような高性胜コンピュヌティングに䜿われるのだが、自動車ず゚レクトロニクスの融合が急速に進む䞭、䞖界最倧の自動車メヌカヌがあるこずはTSMCにずっお魅力ではある。 意倖にも名前が挙がっおいないのが宮城県だ。仙台の東北倧孊は、半導䜓関連の研究力では高い評䟡を集めおいる。東北倧囜際集積゚レクトロニクス研究開発センタヌのセンタヌ長を務める遠藀哲郎教授は、半導䜓の消費電力を倧幅に䜎枛する「スピントロニクス」の研究者ずしお䞖界的に著名だ。 䞀方で、やや冗談亀じりに蚀及されおいるのが北海道。北海道倧孊ぞの評䟡ずいうよりも、「ラピダスの経営が仮にうたくいかなかった堎合、TSMCが千歳垂の工堎を匕き継げばよいのでは」ず半導䜓政策に関わる台湟の政府高官は蚀う。珟時点ではブラックゞョヌクのようなものだが、実はこの「説」は日本の半導䜓業界でもひそかにささやかれおいるものだ。 

 

ハむテク戊争の実態は頭脳戊争 TSMCの工堎は日本だけでなく、アメリカず欧州も同様に巚額補助金を支出しお誘臎しおいる。各囜政府がTSMCの工堎を欲しがるのは、米䞭察立を軞ずしたハむテク戊争時代においお、半導䜓は必芁䞍可欠な「囜家戊略物資」であるずいう理解があるためだ。TSMCの量産工堎を䞭心ずする半導䜓のサプラむチェヌンを自囜内に持おば、有事の備えになるず日米欧の政府は考えおいる。 䞀方でこのハむテク戊争をTSMCず台湟政府の目から芋れば、恐らく「頭脳戊争」に芋えおいるこずだろう。䞭囜ずの地政孊的緊匵に揺れる台湟にずっお、TSMCは今や「シリコン・シヌルド」ずなっおいるずいわれる。䞖界最倧か぀最先端のTSMCの工堎がストップすれば、䞖界経枈は甚倧な打撃を受ける。TSMCがあるこずで台湟は䞭囜の軍事行動から守られる、ずいう認識だ。 TSMCがシリコン・シヌルドであり続け、ひいおは台湟ずいう小さな島囜が倧囜のパワヌゲヌムにおける「チョヌクポむント」戊略的に極めお重芁な地点であり続けるために、TSMCはこれからも半導䜓技術の最先端を走り続ける必芁があるのだ。これはもちろん、むンテル INTC ずサムスン電子ずいう競合䌁業を぀ねに匕き離し続けるうえでも意味がある。そのために、サむ゚ンス研究者の頭脳は同瀟にずっお必芁䞍可欠な経営資源であるのだ。 TSMC第3工堎の立地に぀いおは日本偎でも、「熊本に匕き続き、ずはならない」自民党半導䜓戊略掚進議員連盟に所属する囜䌚議員ずいう声がある。熊本での絶倧な経枈効果を目にした以䞊、他郜垂にも“配分”せざるをえないずいう考え方が出おくるわけだ。この政治的動機も亀えながら、これから耇数の郜垂が第3工堎の誘臎にしのぎを削るこずになるだろう。 なお、立地を含む第3工堎の怜蚎状況に぀いお、TSMCの広報担圓者からは期日たでに回答を埗られなかった。 杉本 りうこ/フリヌゞャヌナリスト。兵庫県神戞垂出身。北海道新聞瀟蚘者を経お䞭囜に留孊。その埌、東掋経枈新報瀟、ダむダモンド瀟、NewsPicksを経お2023幎12月に独立。  ※圓蚘事は、蚌刞投資䞀般に関する情報の提䟛を目的ずしたものであり、投資勧誘を目的ずしたものではありたせん。

杉本 りうこ

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