初めての方プロローグからどうぞ

五本松が

視界に入ってくると

俺とワン公の興奮は

ピークに達した。



「ヒョーーー!」

後ろに乗ったワン公が大声で叫んだ。

俺も心の中では
叫びたい位の衝動を
感じていたが、

「うるせーなぁ」

とクールに切り返した。



五本松は
昔から喧嘩の名所だった。


男達の
血と汗で守られた聖域。


そして
幾多の喧嘩を見届けてきたこの松の木。


俺も数年後
ここで数え切れない程の
死闘を繰り広げ、
松の木に見届けてもらう事になる。

そんな事は
当時は知る由もなかった。

アカシにバレないように
自転車を少し離れたところに停め、
歩いて近づいていった。

遠くから見たら
あんなに小さかったのに、
近づくにつれて、
予想以上に
この松の木達が大きい事に気がついた。

俺達を
今にも飲み込もうとしているかのような威圧感があった。

そして
近づくにつれて
興奮以外の感情が
沸いてくるのを感じた。

そこには
何か異質な空気が流れていたように思える。

俺達は
少しビビってたのかもしれない。

だからそう感じたのかもしれない。


まるで松の木に
問いかけられているような気持ちになった。



お前達はここに来ていいのか。



覚悟はあるのか。


この松の木は
人の弱い気持ちを見抜くのか?


自分が喧嘩するわけでもないのに、
俺は武者震いした。


もしかしたらそれは
武者震いではなく、
ただ単に
臆病な心がそうさせたのかもしれない。


ワン公に目をやった。

「ついたな」

「やべーよ達也、俺、興奮してきた!」

目が泳ぐワン公は、
さっきの事故で負った
傷のことなんて
忘れているようだった。


これからここで
アカシの喧嘩が始まる。

あれだけ楽しみにしていたのに、
今は何故か
時間が進むのが
逆に怖いような気もした。


まだ時間があったので
俺達は
アカシにバレずに
見学出来るポジションを探した。

あまり近づくとバレてしまう。

俺達は五本松から
少し離れた場所に陣取った。

俺は
バレてもいいやと
思ったりもしたが、
アカシの邪魔になる事はしたくはなかった。

加勢出来ない自分の弱さも
嫌になりそうだったが、
何かあったら
いつでも飛び出していこうと
覚悟を決めた。

そうじゃないと
この松の木に
笑われそうな気がしたんだ。



それからしばらくの時間、
俺とワン公は
これから始まる喧嘩の話ではなく、
自分達の
これからについて
ああでもない
こうでもないと
話し合っていた。

ワン公は
こてっちゃんみたくなりてー、
とか、
俺はブルースリーになりたいとか。

ただ、
心の中では
漠然とアカシを意識し始めていた。

この後の事が
気になっていたせいか、
ワン公との話には
あまり身が入らない状態だった。


そんな時、
話し声が近づいてくるのに気がついた。




「きた!」


ワン公と身を伏せて
五本松の方に目をやった。


次回
へ続く