第三のアゲハモドキ | 蝶に魅せられた旅人

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  以前に二種類のアゲハモドキについて書いたけど、実を言うとその記事を書く仮定でもう1種類のアゲハモドキをあい知る事となった。

それがコヤツ👇

(出展『insecta.pro』)

  一番最初に見た画像はコレだったんだけど、天地が逆になっているせいもあってか、一瞬ナガサキアゲハの♀かと思った。
だが、どこか違和感があって脳は直ぐに違うというシグナルを送ってきた。
だったらフトオアゲハ??(註1)
でも、蛾の事を調べているのに何でフトオアゲハが出てくるんだ?脳みそパニックのびっくりなんじゃこりゃ!?状態である。

  他の画像を探してみて、ようやく納得した。

(出展『topicstock.psntip.com』)

  触角の形からして間違いなく蛾だわ。
学名はEpicopeia polydoraとなっていた。
和名もあって、オウサマアゲハモドキという名前がついていた。オウサマは王様の事だろうから、多分アゲハモドキ科の最大種、或いは最大級種なのだろう。
オイラは蝶好きだが、蛾を毛嫌いしている。
ガーン気持ちが悪いのだ。なのに何故か気になって、更に調べてみる事にした。
デカイ蛾を想像しただけで、背中がゲッソリカナヘイびっくりゾクッとする。
コレって怖いもの見たさってやつだよね。

  分布はインド(アッサム)、タイ、ベトナムらしい。ということは、両国に挟まれたラオスにもいる筈だ。

  とここで、新たな画像を発見。

(出展 『学研の図鑑 世界の昆虫』)

  おっ、産地はラオスとちゃんと書いてある。睨んだ通りだ。
それにしても、上の画像よりも白紋が小さくて黒っぽいなあ…。

  他の画像も探してみる。
更に黒っぽいのが目っかった。

(出展『jpmoth.otg』)

  やはり、ラオス産だそうである。
ラオスのは黒いのかな❓
(出展『ヤフオク』)

  コレはベトナム産とあった。
コッチは白いなあ…。えっ!?、もしかして雌雄異型で♀が白くて、♂が黒っぽかったりして…。
アゲハモドキ科に、それはないとは思うんだけどなあ…。



(出展『insectdesigns.comlithops.com』)

  調べた結果、どうやら斑紋は♂♀大差がないようだ(表側の比較画像は有料なので添付してません)。

  因みにヤフオクの個体は2000円くらいだった。別なページでは未展翅のものが2300円、展翅したものは3200円の値がついていた。
結構、お高いんだね。という事は、そこそこレアな蛾って事なんだろな。

  日本人の方のサイトで、生態写真を見つけた。場所はタイ北部のチェンマイ。

http://macromia.blog.fc2.com/blog-entry-696.html
清邁極楽蜻蛉

  チェンマイ近郊のドイ・ステープで撮影されたもののようだ。ドイ・ステープでは極珍で、かなり高い所を飛んでるらしい。
ふ~ん、やっぱりそこそこ珍しいようだね。

  ここで、突然記憶が💥バーンと繋がった。
びっくりあっ!
俺、オウサマアゲハモドキを見てるわ!!
そうだ、そうなのだ。そのドイ・ステープで、コイツが花に吸蜜に来てたのを思い出したわ。
見た瞬間はナガサキアゲハの♀かレテノールアゲハの♀だと思ったのだが、よく見ると忌まわしきクソ蛾だった。
で、ゲローきしょアセアセと思って、網にさえ入れなかったのだ。そんなに珍しいモノなら、採っとけばよかったなあ。知ってたら、網に入れたのに残念だ。
  いや、待てよ。そんなデカイ蛾なら、絶対によう触らんかったと思う。
だいたいがだな、蛾の胴体ってゲローバリきしょいやんか。しかもコイツの毒々しさは半端ねえ。この派手派手な赤は完全に警戒色でごわす。触ったら、アンタチーン死ぬでの真っ赤っかーなのだ。
だから、もし珍しいと知ってても、恐くて結局はスルーしてた可能性は高いよね。
ガーンオオー、想像してブルッガーンカナヘイびっくりときたぞ。

  それにしても、フトオアゲハに似ている。ナガサキアゲハの♀やオオベニモンアゲハ、レテノールアゲハ(註2)、ワタナベアゲハにも似てるなあ…。
きっと、みんな擬態関係にあるのだろう。
毒のある者に姿を似せることによって、鳥の捕食から身を守るという一種の護身術だね。

  言葉だけではイメージしにくいだろうから、擬態していると思われる種類の画像をまとめて添付しておこう。

【Papilio memnon ナガサキアゲハ♀】
(2016.7 台湾 南投県仁愛郷)

  ナガサキアゲハは日本にもいるが、上の画像は台湾産のものだ(亜種m.heronus)。
日本のナガサキアゲハは基本的には尾突(尾っぽ)がない(註3)。
あれっ!?、そっちの方がオウサマアゲハモドキに似てるか…。

【ナガサキアゲハ短尾型♀】
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

  無尾型よりも短尾型の方が似てるかなと思って、短尾型の方を載せました。

  レテノールアゲハは♂しか採った事がないので、近縁のワタナベアゲハの画像を添付しておきましょう。

【Papilio thaiwanus ワタナベアゲハ♀】
(2016.7 台湾 南投県仁愛郷)

【裏面】
(2016.7 台湾 南投県仁愛郷)

  ワタナベアゲハは裏面が美しいね。


【Agehana maraho フトオアゲハ♀】
(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

  こうして並べてみると、尾突の太いフトオアゲハが一番オウサマアゲハモドキに似ているかもしれない。

  でもコイツらはみんな無毒だ。多分、オウサマアゲハモドキも無毒だろう。
じゃあ、毒のあるヤツはどれかというと、多分コレだね。

【Byasa polyeutes オオベニモンアゲハ♀】
(2016.7 台湾 南投県仁愛郷)

  みんなコヤツに似せて擬態しているのだ。

【裏面】


  裏面は更に毒々しい。美しいけどネ。
美しい者には、毒がありまする。

  似たようなもんだけど、一応♂の画像も添付しておきませう。
  だが、台湾のオオベニモンアゲハの画像を探したけど、なぜか見つからない。
これって多分だけど、面倒臭くて♂は展翅してないんだろなあ…。我ながらナメてるよなあ。

  と云うワケで、別な場所で採ったヤツでお茶を濁す。

【オオベニモンアゲハ♂】
(2016.4.23 Laos uodmxay )

  多分、台湾のものとは別亜種だったと思う。
でも、ラオス産も台湾産も見た目はそう変わらんだろう。

  毒のある蝶といえば、そういえばもう1種類ベニモンアゲハというのがいたなあ…。もっと小振りだが、まあ見た目は似たようなもんだし、毒の無い者共は両方に擬態しているのだろう(ベニモンアゲハの画像は添付容量一杯なので割愛させて戴きます)。

  こうして並べてみると、オオベニモンアゲハに対するフェイク度(擬態の精度)はオウサマアゲハモドキが一番高いかな。
  ん!?、ちよっと待てよ。じゃあラオス産の真っ黒なオウサマアゲハモドキは何に擬態してんだ??

  Σ( ̄ロ ̄lll)ハッ!、もしかしてコレかも。

【Byasa crassipes】
(2011.4.25 ラオス北部)

  珍品クラシップスジャコウアゲハだ。
これなら真っ黒で頭が紅い。
けど、オウサマアゲハモドキと比べて下翅がだいぶと細いな。
そういえば思い出した。オラ、飛んでるコイツを見て、最初は蛾だと思ったんだよなあ…。だけど、何となく感じるものがあって網を振った。
で、中を見て『やっぱ蛾じゃんえー』と言いかけて、ポーン腰を抜かした。パッと見はどう考えても蛾なんだけど、眼と触角は紛れもなく蝶だったのだ。
何かこれってパラドックス(逆説的)みたいなんだけど、逆もまた然り。蝶であろうと蛾であろうと、似てるもんは似てるんである。
だから、鳥からしても同じように見えるだろう。クラシップスを毒があって不味いと学習している鳥ならば、危険を冒してまで似たようなヤツを食べないに違いない。
いや、待てよ。珍品のクラシップスを鳥が食べる機会はそう多くはねえんでねえの?

  まっ、いっか( ̄▽ ̄;)…。
何れにせよ、ミミクリー(擬態)は奥が深くて面白い。

                                                                おしまい


追伸
  またしても蛾を主役にして書いてしまったよ(笑)
だからといって、蛾好きにはならないとは思うけどさ(-。-;)

(註1)フトオアゲハ
  台湾を代表するアゲハチョウの仲間で、太い尾が印象的だ。台湾屈指の美蝶であり、珍蝶であるがゆえに採集は禁止。
  近縁に中国のシナフトオアゲハがいる。
従来、両者は別種とされてきたが、最近のDNA解析の結果では、同種という結論が出されたらしい。つまり、同種の亜種関係にあるというワケだ。
でも、そんなの絶対に許せない。マジであんな醜い中国蝶とは一緒にしてもらいたくない。まるで中国に呑み込まれる台湾みたいじゃないか。フトオアゲハはフトオアゲハ。台湾は台湾なのだ。ムキー一緒にすな!断乎として反対する。


(註2)レテノールアゲハ
  アルクメノールアゲハと言われたりもする。確かに現在の学名はPapilio alcmenorになっている。
どうやら、昔はPapilio rhetenorという学名だったが、途中でP.alcmenorに変わったようだ。理由は知らない。でも、アルクメノールよりもレテノールの方がカッコイイから、ワイはレテノールアゲハと呼び続けるつもりだ。


(註3)日本のナガサキアゲハには尾っぽがない
  基本的には無いが、日本でも有尾型のナガサキアゲハがたま~に採れる。実際、自分も奄美大島で採った事がある。そういえば、奄美大島は有尾型が出やすいと聞いた事があるなあ。
因みに台湾亜種(m.heronus)は、無尾型と有尾型の両方が混在するようだ。