前回は宇梶静江さんの自伝的エッセイ『すべてを明日の糧として』を紹介しましたが、今回はその次作となる本を紹介します。
『大地よ! アイヌの母神、宇梶静江自伝』(宇梶静江、藤原書店)
『すべてを明日の糧として 今こそ、アイヌの知恵と勇気を』は2011年、宇梶さんが78歳の時の作品ですが、この本『大地よ! アイヌの母神、宇梶静江自伝』は2020年、87歳の時の作品となります。
前作に比べるとかなりしっかりした文章で、アイヌの深いところまで踏み込んだ形で書かれています。
1899年(明治32年)に制定された「北海道旧土人保護法」では、アイヌは「旧土人」。その百年後の1997年には「アイヌ文化振興法」が制定され、悪法といわれた「旧土人保護法」は廃止されました。
そして、2019年5月「アイヌ新法(アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律)」が制定されました。
北海道にアイヌがいることは歴然とした事実であるにも関わらず和人の勝手な政策の下、いなかったものとされてしまったアイヌ。
この本の前半では、その生い立ちや両親、兄姉たちについて、アイヌの人々の貧しさが切々と語られます。
アイヌであるがゆえのいわれなき差別にも苦しめられますが、宇梶さんはくじけません。敗戦の年、筆者は12歳。家の仕事でほとんど学校へ行けなかった宇梶さんは、20歳で札幌の中学校へ入り直します。
その卒業直後、上京し喫茶店に勤めます。結婚後、二人の子どもを育てながら詩を書き始めます。『二十四の瞳』の作者、壷井栄の夫である詩人、壷井繁治に見出され、1972年、朝日新聞の投稿欄でアイヌとしての存在を示したのでした。
冒頭にも書いたように、この本が発刊されたのが2020年、宇梶さんが87歳の時の作品。
その後、宇梶さんは2022年に『アイヌ力よ! 次世代へのメッセージ』を書くことになるのですが、共にアイヌの人々の実際を知ることのできる良書です。
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