【新製品テスト】ラーセンのチェロ弦とピラストロのヴァイオリン弦 | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

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クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちはガリッポです。


餃子に続いてシュウマイづくりに挑戦しました。これもなかなか難しく5回作ってようやくそれっぽいものができるようになりました。

とはいえ、日本の中華料理屋でも注文した記憶がありません。正解が分かりません。
崎陽軒のシウマイ弁当くらいしかイメージがありません。
東京から新幹線に乗るときはわりと買います。
出来立てはフワッとしていて冷えると硬くなります、にかわと同じです。

まずはチェロの弦から

ラーセンのイル・カノーネです。
うちで販売する新品の量産チェロ(ルーマニア製)に張ってみました。バージョンは「DIRECT&FOCUSED」です。

明るく音がポーンと外に出てくる感じがします。金属的な嫌な音は無く柔らかいものです。
それが弦の音なのかチェロの音なのかわかりません。しかし嫌な部分は無かったので問題のある製品ではないでしょう。

金属的な音がしないのでスチール弦のような感じがしません。楽器に音がへばりついているようではなくて開放的に音が出ます。

かつてはラーセンのA,D線とトマスティク・スピルコアのG,C線を使うのが流行しました。
前の製品マグナコアではスピルコアに変わる製品として昔のスチール弦の金属的な音をあえて持たせていたのでしょう。楽器によってはバタバタ変な振動が出ることがあります。

イル・カノーネでは古いスチール弦は意識せず最新の理想を追求した製品のようです。

ピラストロのエヴァピラッチゴールドも明るく柔らかい音です。エヴァピラッチゴールドのほうがフワッと豊かな響きがあるようで、イル・カノーネが能書きの通りならもっとはっきりした音でしょう。いずれにしても柔らかい音であることには変わりません。

もう一つ別のWARM&BROADというバージョンがあります。こちらは試していませんがさらに柔らかく暖かみのある音でしょう。
これがピラストロのパーペチュアルとはだいぶ性格が違うかもしれません。パーペチュアルは筋肉質な尖った音で鋭さがあります。
それに対して全体的に柔らかいのかもしれません。やかましすぎるチェロには良いかもしれません。またA線が鋭すぎる場合も期待できます。

またとにかく柔らかい音が好きという人にも良いでしょう。金属的な音を敏感に感じすぎる繊細な人もいるでしょうから。


ヴァイオリン用のパーペチュアルのカデンツァです。この前紹介しましたが現物が届きました。

オリジナルのパーペチュアルに比べて減の張力が弱めに設定されています。よくあるようなミディアム、ソフトのようなものではなくかなり違います。ピラストロのナイロン弦ではトップクラスの張力の強さを誇ったパーペチュアルに対して、初心者用のヴィオリーノに近いくらい弱めの張力になっています。

私が2010年に作ったヴァイオリンに張ってみました。チェロで問題だったのは同じ楽器でテストしないと弦の音が分からないです。この楽器はテストに使うために手元に残しています。
弾いてみるとまずパーペチュアルのキャラクターがあることが分かります。刺激的な音が含まれていて音の強さを感じるものです。ただし、ノーマルでは弓が弦をつかむグリップ力がありすぎてギャーッと音が出る感じがありましたが、だいぶマイルドになっています。新品で弦に松脂がついていないので最初は強く感じても馴染むでしょう。
マイルドになったとはいえ、耳元では音が強く感じます。私の楽器はホールではよく響きますが耳元では弱いということもありますので合っていると言えます。
他の人が弾いているのを聞いても、キャラクターとしての力強さがあるので音量は十分にあると思います。気持ち良く鳴らせると思います。

音色はオブリガートほど深みのあるものではなく明るさは中間くらいでしょうか。ドミナントPROのほうが味があるように思います。
したがって音色を変えるというよりも、正統派の弦と言えるかもしれません。

張力の低さが響きの豊かさを生み出し明るさが出ているのかもしれません。

「柔よく剛を制す」といった感じで弱い張力にもかかわらず音量がある感じがします。力で無理やり鳴らそうとしてもうまくいくとは限りません。弱い張力のほうが機能する楽器や演奏者もあるということです。
そんな印象です。

このため楽器がもともと魅力的な音色を持っていて柔らかすぎるのなら良いと思います。もちろん弾きこなせるならノーマルのパーペチュアルでも良いですけども。
やかましくて鋭い音の楽器にはどうかと思います。
かなりくたびれて元気が無いオールド楽器にも良いと思いますし、新作楽器でモダン楽器に比べて音に芯が無く弱くきれいすぎる音に感じるなら面白いと思います。

なにがなんでも強い音を求める人も良いかもしれませんが、それならさらに強いテンションのノーマルバージョンがあります。A線にはスチールもあってさらに強い張力です。

ちなみにこれは私がデザインしたモデルです。アマティとストラディバリの間という感じですが、全長は短めなのに幅はゆったりと取ってあり窮屈になっていません。それできれいな丸みを持たせるのには苦労しました。
四角いストラディバリモデルとははっきり違いがありますが、アマティの濃いキャラクターはありません。
整い過ぎているという点で現代的な感じもします。

スクロールはアマティのものをベースにしています。繊細な丸みがあります。

渦巻は前から見るとストラディバリのようなピシッと堂々とした感じがあります。ペグボックスはアマティのようです。
軽いアンティーク塗装でモダン楽器のような雰囲気もあります。フルバーニッシュでベタ塗するよりも変化がある方が面白みがあります。
私が何かのオールド楽器のコピーではなく、新作として自分のモデルで作ったヴァイオリンは珍しいものです。
コピーじゃなくてもヴァイオリンは作れるんですよ。

ペグなどの付属品にはタマリンドという木材を使っています。テールガットにはチタン製のものを使っています。もともと柔らかい音の楽器でしたが、強さも出てきました。
この辺りは好みの問題です。

多くの人に好まれる方向になったとは思います。一方個性的な音ではなくなってきています。テールガットをカーボンに戻そうかな…。

このような感じだとお客さんに薦めることもあるかもしれません。他の楽器でも様子を見れば弦の特性がより分かって来るでしょう。
いずれにしても弓を通じて指先の感覚となるものです。自分の楽器で試さないと最終的には分かりません。


追記
テールガットをチタンのものからカーボンに戻しました。
明るかった音がいくらか落ち着いて枯れた渋い音が出てきました。音はやせて尖った感じになりました。