最近面白いと思ったのはムツゴロウさんがYoutubeを始めたということです。
ムツゴロウさんと言えば本名は畑正憲で動物に詳しくてテレビ番組にもなりました。86歳でユーチューバーです。
動画では過去のいろいろなお話をしてビデオに収めていますがとても飛びぬけた話ばかりで、貴重な資料になるでしょう。
ムツゴロウさんが変わっているのは猛獣のような動物でも手なづけてしまう所です。これはよくわからないですけども、愛情があるのは間違いないでしょう。それでも多くのペット愛好家が人間の家族に動物を引き入れているのに対して、ムツゴロウさんは動物の群れに自分が入って行っているようです。学術的に生態や体の仕組みを理解していることも重要で、その上に実際に見たり触れたりしてより深く動物を理解しているようです。
ムツゴロウさんみたいな人は私はとても好きで変人なほど情熱にあふれています。芸術家や研究者はこういうちょっとおかしな人が偉業を成し遂げるわけですがビジネスの方は多額の負債を抱えたり苦労したようです。
私もそこまででは無いですが興味のあることに夢中になって他のことはどうでもよくなってしまうタイプです。
Youtubeの登録者数などもあきれるほど少なくてムツゴロウさんみたいな人が好きというのも変人の部類なのでしょうか?
ヴァイオリンを作って生きていくのが難しいのは私の場合には、ヴァイオリンを作る事よりも生きていくことです。ヴァイオリン作りに夢中になると他のことを忘れてしまうからです。
醜いチェロ・オブ・ザイヤー候補
私は高価な楽器だけではなく安価な楽器にも興味があります。まずは醜いチェロ・オブ・ザイヤー候補から
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アンティーク塗装のわざとらしさで候補入りを果たしました。
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なんでしょうね?
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どうしたらこれで「ヨシ!」となるのでしょうか?
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チェロ自体は機械で作られた量産品でモンタニアーナのモデルでしょう。アンティーク塗装がひどすぎます。
これなら普通にスプレーでニスを塗っただけのほうが良いように思うのは私だけでしょうか?
何がひどいのか一般の人にはわからないのでしょう。だからこうやって買って使っている人がいるわけです。
ヒョウ柄のような丸い斑点がたくさんあります。ニスの色も黄色でヒョウ柄です。それだけではおかしいと思ったのかひっかき傷もつけてありますがいかにも傷が付けてある感じがします。
古いチェロは全体的に古びてきてそこに傷がついているものです。これは新品のような明るいニスに真っ黒の傷がついています。普通は傷の部分はへこんでいるので全体についた汚れがクリーニングをしても取れずに残るのです。クリーニングでは汚れは完全に取れず全体的にうっすらと蓄積していきます。古く見えるのは傷だけではありません。
特にチェロの場合には長年掃除もされないことも多く、汚れが多く表面に付着しています。松脂によっても汚れが付きやすくなります。
大量生産品とはいえこれで良いと判断するのが私には信じられません。
塗装担当者だけでなく、他の作業を担当する人も見ているでしょうし、営業員や社長もこれを自分の会社の商品として売り込みに行くのが分かりません。
それを買う業者もわかりません。
でも一般の人にはおかしい所が何もないように見えるのでしょう。
美しいモダンヴァイオリン
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近頃も結構多くの楽器が弾く人がいないので売りたいと持ち込まれてきます。
ほとんどは安価な大量生産品家、状態が悪くて修理代のほうが楽器の価値よりも高くつくようなものです。
たまにこのようなものがあります。
一目見ただけでそのようなものと違うのが分かります。
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皆さんはどんな素性のヴァイオリンだと思ったでしょうか?
作者はリヒャルト・ヴァイデマンという人で1886年にドイツのフランクフルトに近いヴィーズバーデンで作られたものです。資料を見ても流派はよくわかりませんが美しいモダン楽器であることはすぐにわかります。これもアンティーク塗装ですがわざとらしい感じもなく実際に130年以上経って古くなってもいます。
アンティーク塗装は控えめにしておけば100年後にはずっと良い雰囲気になるものです。
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スクロールを正面から見るとかなりフランス的な造形をしています。ストラディバリ的と言っても良いでしょう。
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緑の線で示したように直線的になっています。赤線の方もそうです。これはフランスのスタイルの特徴と一致します。ストラディバリもこのような傾向があります。各国でストラディバリのコピーとして作られたモダン楽器でもこのようになっていれば分かっている職人ということになります。
水色で示したようにペグボックスの幅が指板よりも細くなっています。後の時代に持ちやすいように細い指板に交換されたのでしょうが、大きな産地のドイツやボヘミアのモダン楽器は指板の幅とペグボックスの幅が同じになっています。
一方都市のヴァイオリン職人はフランス風の作風をよく理解しています。
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背後も緑の部分が直的です。これもストラディバリの特徴でフランスの楽器にも受け継がれています。おそらくストラディバリは作業の手順の関係で始めに緑のところを直線的に仕上げてから先に彫り進んでいったのではないかと思います。
これがスカランペッラやガッダなら水滴のような形になっていてストラディバリの特徴を理解していません。この前から言っているようにスカランペッラやガッダはアマチュアの流派のため細かい所を見ていないで自由に作っています。
正統派のモダン楽器はこうなっていないといけないのです。
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コーナーの感じも正しいストラディバリモデルという四角い感じがします。パフリングの先端は片方が極端に長く伸びています。このようなものはフランスの作風をさらに誇張したもののようです。ストラディバリの作風を誇張したフランスの作風をさらに誇張したようなものです。ミルクールの楽器にも見られます。
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アーチもモダン楽器らしいもので全体的にフラット、表板は駒のところを頂点に尖っています。これもフランスをはじめとするモダン楽器の特徴です。
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ニスも黄金色で雰囲気も良いですね。
見ればすぐにこれがモダン楽器の上等なものだとわかります。
作者についてはさほど有名ではなく相場などもありませんが、鑑定士によれば1万5000ユーロくらいだそうです。日本円にすれば180~200万円くらいのものです。
板の厚みもこの前のチェコの楽器のようです。音もよさそうです。修理が済んだら音も試してみましょう。
作者の個性は大事?
普段はどうしようもないがらくたばかりが持ち込まれるわけですがこのような楽器が来るとすぐに工房の空気が変わります。これは良い楽器だと。
無名な作者であっても、モダン楽器はお手本というものがおおよそ決まっているのでその通りに高い品質で作られていれば「おお!」と思います。実際にははるかに粗雑なものが大量にあるので目立つわけです。
経験的に音響面でも新品に比べればはるかに有利で「よく鳴る」可能性は非常に高いです。
値段はそれでもべらぼうに高くはないのでこのような楽器は学生などにとても求められているものです。音は好みの問題ですが、このようなものをいくつか試奏すればきっとレッスンを受けるのに十分な楽器が見つかることでしょう。プロでオーケストラで弾くのにも十分です。
この楽器から見ると、何人かのお客さんが試奏すればそのうちこれが気に入ったという人が現れます。このようなものはうちで販売することに何の不安もありません。
楽器としてはモダン楽器の教科書通りのものです。しかしボタンが尖った丸になっていたり、パフリングの先端が長かったり、スクロールのセンターの彫り方が独特だったり細かい特徴はあります。
それが作者の特徴でアンティーク塗装の手法にも特徴があるでしょう。フルバーニッシュもあるようです。
必ずしもフランスの楽器に見せようという気はないようです。しかしドイツでもフランスに近い方になってくると流入してくるものも多くなるはずです。
ドイツで確立した作風のモダン楽器が作られたのは1900年以降のものが多いでしょう。これは19世紀のものですからよくあるものよりはちょっと古いのです。その点では珍しいです。
だらかと言って特別変わったところはありません。このようなオーソドックスなモダン楽器が見事に作られていると職人の目を持っていれば良い楽器というのが分かりやすいです。
200万円以下なら演奏家にとってもコストパフォーマンスに優れたものでしょう。
それに対して職人の精神論で「他人のまねをするのは良くない」とか「一流の職人なら自分独自の境地に達しているはずだ」というようなどこから来たかわからないような考え方でこのような楽器を見過ごすのはもったいないと思います。
職人というのは基本的に独創性を発揮するべきだという教えは無いですよ。
地場産業のような産地ではみな同じような楽器を作っていたし、品質が良ければ上等なものです。
ヴァイオリンは結果として音が良ければいいのであって、職人が長年の修行や研究で境地にたどり着く必要はありません。たまたま音が良いものができたらそれでいいですよね。
コレクターみたいな人は作者の「ストーリー」に何百万円も無駄なお金を払えば良いですよ。
音楽のための道具が欲しくて、粗悪品は嫌だというのならこのようなものを買えば高級品を持っているという実感が持てます。
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うちの見習の職人が作っているヴァイオリンです。すでにこのようなモダンヴァイオリンと同じレベルにあります。
これが100年以上前のものなら「おお!」というものです。当然私が教えたので作り始めて数本目のものですでにこのレベルです。アマチュアなら一生かかってもこのようなものはできないかもしれません。これがプロの教育です。それ以上に現在では忘れられかけているモダン楽器の研究も日ごろから私がやっていることが大きいです。多くの職人は自分の流派の楽器の作り方しか知りません。
私は後輩は好きなように楽器を作れば良いと思います。しかし初めは何をどうして良いかわかりません。
現代では完全に決まった形というのは無く職人がそれぞれ自分が良いと思うものを作れば良いという時代です。教える人によってちょっとずつ違うというのが学ぶ人にとっては悩みの種です。
そうするとどうしていいかわからないので、フランスのスタイルを決まった形として教えたのです。普通は私ほど細かいことは考えておらず、こうなっていなくはいけないというのはあやふやなのに欠点があるとそれが指摘されます。欠点は分かりやすくセンスがそれほどなくても指摘しやすいです。欠点ばかりが指摘されるので欠点のないだけのものを現代では作らなくてはいけません。これを粗探しと言いますね。
私の教えはフランス風ならこうなっているべきだというのが具体的になっていて、はっきりしているので助かると見習の子は言っています。どうしたらいいのかわからないのに欠点ばかり指摘されるのはたまったものでは無いですね。他の職業でも同じでしょう。先輩は厳しくしなくてはいけないのかもしれませんが、これじゃあ嫌になってしまうでしょう。
その作業工程ではじめはよくわかっていないのに、フランスのスタイル通りに作るとびっくりするほど美しいものができて本人も驚いて喜んでいます。ヴァイオリン作りの楽しさを味わっているうちに、美しいモダン楽器を見分ける目ができたというわけです。
要するによくわかっていない先輩や師匠が目につきやすい欠点を指摘して先輩としての面目を保ってきたのが現代の楽器作りとも言えるでしょう。欠点を指摘するだけならだれでもできます。人間の社会ではいつもどこでもそうなんでしょう。
完全にフランスの楽器のようにはなりませんが、さっきのモダン楽器くらいのレベルにはなります。
去年初めて完成させたヴァイオリンでも音は良かったです。これで見た目も上等なモダンヴァイオリンと変わらないレベルにあります。初めて数年でこんな立派なものができるのです。
本人は力不足を痛感しているようです。思ったようにいかなかった部分や時間がかかりすぎてしまったところがたくさんあります。でも歴史的に見ればたくさん作られた楽器の中で上等な部類に入ります。
日本人が独学で西洋の楽器を作ろうとすれば大変だったでしょうが、教える人が分かっていればそこまで大変なことではありません。
問題はビジネスとして成功させて生きていけるかということです。
現代の我々がこのような楽器に対抗するのはとても難しいです。値段もあまり変わらないのに比べ物にならないほどよく鳴るからです。
100年以上前の楽器ならごく普通のもので十分音が良くなっていると思います。だから特別凝ったものである必要はないと思います。独自の境地に到達している必要もありません。
ごく普通に作られて古くなったものが名器なのです。
普通に作るだけでは古い楽器にかなわないので我々は様々な工夫をする必要があります。しかしユーザーは試奏して気に入ったものを買えば良いだけです。
重要なのは現代の職人が行った工夫が正しい方向なのかどうかということです。職人がもっともらしい理屈を言っていても信じてはいけません。単に古い楽器と弾き比べて実力を評価しないといけません。職人がいかに熱弁してもごく普通に100年前に作られた楽器に勝るというのは困難だと思います。
モダンの時代の「普通」すら現代の職人は忘れています。創意工夫以前に普通のものすら作れなくなっているのです。私はモダン楽器を研究してきてそれが分かってきました。だから見習の職人にはまず普通のものを作れるようになってもらいたかったです。普通のものすら作れないのに「画期的に音が良くなる方法を発見した!」というのは「当社比」で良くなったとしてもスタート地点がどこかって話です。アマチュアの職人も陥りやすい所です。
創意工夫をすることよりも、基本的なことをちゃんと理解する方が先だと思います。
一般的な工業製品では新製品が出るほどに性能がアップしていきます。スポーツ用品ならどんどんハイテク素材の道具が開発され記録が伸びていきます。今では木製のラケットにガットを張って使っているテニス選手はいません。
弦楽器でも同じはずです。
大きな企業がスーパーコンピュータでシミュレーションをして計算で自由自在に音を設計し、自動的に材料を加工して安価にヴァイオリンを製造できるかもしれません。素材も木材に限らず最適な特性を持ったプラスチックが見いだされるでしょう。
それが行われないのは、投資するに見合った市場規模が無いようです。業界自体が保守的で受け入れられないというのもあります。また「美しさ」という抽象的なものが求められる世界でもあります。ハイテク素材のヴァイオリンができるともうそれはヴァイオリンとは違う楽器になってしまうのです。
もし昔のものと同じようなものを作ったならおよそ50年以上古くなったものはよく鳴るようになっています。このためヴァイオリンでは新しい物よりも古い物の方が優れていると考えられています。
ヴァイオリン職人が作り出せるのは「キャラクター」だけです。楽器には「持って生まれた音」というのがあります。世の中にはもっと優れた楽器はいくらでもあるけども、この音は嫌いだとか好きだとかとなった場合には新しい楽器にも運命の楽器として受け入れられる可能性が出てくるのではないかということを私は考えています。