休暇は終えて仕事を始めました。
変わった出来事もないのでこの前の続きです。
ステイホームで家で過ごすことも多くなり音楽鑑賞も趣味として盛んになっていると思います。そうでなくても、一流の音楽家の演奏を聴いたり、滅多に演奏されない曲を聴いたりするのには自宅で録音物を聴くことになります。
音楽家でも自分で録音や編集などをする人なら音響機材の重要性を認識していると思いますが、特にアコースティックの世界では無頓着な人も多いでしょう。
一方でオーディオマニアの人はクレイジーな世界のようにも思えます。普段から弦楽器の音をよく聞いているヴァイオリン職人として音楽をまともに聞けるように取り組んでいます。
ヴァイオリンの音と同じ音をオーディオから出そうとすれば、手持ちのオーディオと同じ音のヴァイオリンを作ればいいわけです。皆さんはそういうわけにはいかないでしょう。本末転倒です。
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スピーカーはソナス・ファベールのエレクタ・アマトールⅡという90年代終わりのものです。オーディオに詳しい人ならなるほどというチョイスでしょう。
このメーカーの設立者のフランコ・セルブリンという人がとても弦楽器にこだわりを持っていてユニークなスピーカー作って有名になったイタリアのメーカーです。
見た目がまず、ウォルナットの天然の木材でできています。普通スピーカーというとパーティクルボードやMDFにプリントの木目を張り付けてあります。前面には革が貼ってあり家電製品というよりは工芸品のようです。
工芸品のような木の暖かさ、イタリア人の音楽に対する考え方、とりわけヴァイオリンにこだわりのあるメーカーということで有名になったものです。今でも中古品はかなり高い値段がついている高級ブランドでもあります。
実際に音について言えばイメージと近いものがあります。未来のハイテク製品だとか、正確な計測器具というよりは暖かみのある音で音楽を聴かせるというものです。
音楽のノリがよく楽しく聞こえるので、本当のコンサートに行くと眠くなるくらいです。
というわけで当時若気の至りで勢いにまかせて買ってしまったのですが今でも愛用品です。今ならもうこんなものは買えないでしょう。
ヴァイオリンという楽器の音を出すのに特にこだわって作られた製品ということが言えます。弦楽器は弓と弦をこすることによって複雑な音が出ます、これがリコーダーのような木管楽器ならもっと単純ですし、ピアノでもチェンバロに比べると澄んだ音がするように進化しています。それに対してヴァイオリンは複雑な音を持っています。シンセサイザーでも再現が難しいものです。
たいていのスピーカーではヴァイオリンの音はなんとなくあやふやに聞こえるだけですが、これは弦楽器が生み出すいろいろな音を細部までとらえようと意識して作られていると思います。単に高音質なだけでは澄んだ綺麗な音はしますが、味のある枯れた音が出ません。
それでもいくつか問題点があります。
まず細かく描きすぎているという点です。実際にホールで聞けば楽器の音などというのはそんなにはっきり鮮明に聞こえません。それに対して高級オーディオは鮮明であるほど音が良いと考えられているようです。
モノラルだったものがスピーカーを左右2つ使うことでステレオ再生というものができるようになりました。1960年頃から普及してきました。これによって舞台があたかも存在するかのように聞こえます。これを英語ではサウンドステージといいます。
このスピーカーでは音が細かすぎるためにサウンドステージがミニチュアのように聞こえます。オーディオマニアはオーケストラの楽器の音源が一つ一つ分かるくらい鮮明なのを高音質と考えるでしょうが実際はそんなふうには聞こえません。もっとごちゃごちゃになってほしいわけです。
ヴァイオリンは優れた名器ほど音がホールに豊かに広がるので音がどこから聞こえてくるのか音源がはっきりしなくなります。安い楽器は楽器のところで音が鳴っているように聞こえるので音源が特定しやすいのです。つまりオーディオマニアが良い音だという音は、安いヴァイオリンの音なのです。
もう一つは金属的な音がするのが問題です。
かつては私はほとんどバロック音楽しか聴かない古楽ファンでした。古楽の録音ではたいてい弦楽器の音はカチャカチャとした金属的な音になっています。自分でバロックヴァイオリンを作ってもそんな音ではないようですが、広い場所ではモダン楽器のような音の豊かさが無いのでそのように聞こえるのかもしれません。
このため金属的な音であることはバロック音楽の録音とは一致していました。有名なレーベルではハルモニアムンディなどはそうですね。だから特に気になりませんでした。
しかし最近はモダン楽器も聞きたいと思うようになって問題となったわけです。
見た目の木材の暖かみとは裏腹にこのスピーカーは結構金属的な冷たい音がします。これはドイツや北欧のメーカーにも多い印象があります。実はこのスピーカーも自分で作っているのは箱だけでスピーカーの部品自体は北欧のメーカーのものです。
暖かみのあるキャビネットの音とスピーカーユニットの冷たい音が同時に同居しているというちぐはぐなものです。これを一つにしたいです。
このため全体としては、鮮明すぎる音をあいまいにしてぼかしたいというわけです。普通オーディオマニアはそういうことは考えないでしょう。鮮明なほど音が良いと考えるのが普通だからです。
音をぼやかせると、眠くなるような音になってしまうので音楽的な表現は失ってはいけません。
また小型スピーカーなのでスケール豊かな低音は出にくいものです。小型とはいってもウーファーの直径は18㎝と現代では特別小さい方ではありませんが、大きなスピーカーのようなゆったりとした音は難しいです。
それもポイントです。
DAコンバーターからはじまった
前回DAコンバーターの話をしました。PCの音を良くしたいという理由からでした。パソコンなども買い替えるとちょっと音が良くなったりしたものでした。ヘッドフォン出力から出しても新しいものを買ったら音が良くなっていたようです。それに比べるとミュージカルフィデリティのDAコンバーターは激変といえます。
これをCDプレーヤーとつないでも金属的な音は和らぎました。それでもまだ金属的すぎます。
そこでスピーカーケーブルを交換しました。
ミュージカルフィデリティがイギリスのメーカーで感心したということもありますが、他によく知っているのはタンノイというスピーカーメーカーです。これもイギリスのメーカーで名門中の名門です。
タンノイには昔の家具調ステレオみたいなシリーズと、現代的なものがあります。私がコンサートホールの音を最もうまく再現していると思うのは現代のタンノイだと思います。音楽的な表現も優れています。オーケストラでもビブラートが鮮明に聞こえるし、フォルテシモではド迫力です。
私がクラシックファンに薦めるならモダンタンノイです。
オーディオケーブルのメーカーにもイギリスのQEDというメーカーがあります。
QEDのスピーカーケーブル
理系的な知識を持つ人がオーディオマニアの世界をクレイジーだと思う典型が「ケーブル」です。電線で音が変わるわけないだろうというものです。こちらでは原住民の神秘的な呪術に例えられ「迷信」として批判されています。弦楽器の弦とも似ています。こだわる人はものすごくこだわるし、気にしない人は全く気にかけません。日本ならヴァイオリンを買えばドミナントが張ってあるでしょう。お店としては安い弦なので費用が掛からなくて済みます。オーディオ機器では「赤白ケーブル」というものが付属していることが多いです。
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QEDのPrpfile 79 Strandというものを買いました。これは1メートル2ポンドほどのもので300円位のものです。それ以前には日本から持って行った日本製の10倍以上の値段のものを使っていました。アクロテックというメーカーのもので今はアクロリンクに会社が変わっています。
このようなものは外国製品はとても割高になります。日本で安い日本製の物がヨーロッパではものすごく高い値段になっていたりします。ヨーロッパにいるならヨーロッパのものを買った方が安いです。
繋ぎ変えて聞いてみると、金属的な音がだいぶ減って高音も柔らかくなりました。値段は10分の一ですが音が悪くなったという印象はありません。
もともと残響の響きは多かったのですが、QEDでは広いホールに響き渡るという感じなりました。低音は引き締まっていたのが豊かになりました。全体的に音は柔らかくおおらかな鳴り方になったので狙った方向に変化したと思います。
つまり音は変わる関わらないかで言えば変わるということが言えます。しかし値段が高いほど音が良いかについてはよくわかりません。
同じQEDの上級モデルになればもっと良くなるかもしれませんが、不満を解消するということにピッタリ合っているかはわかりません。
この安価なケーブルはコンサートホールで録音されたものは響き渡るのですが、スタジオで録音されたようなものならエコーが増えるようなことはありませんし、ポップスのように人工的に加工されたエコーならそのように聞こえます。
低音が多く入っている録音なら豊かな低音に聞こえるし、低音が少ない録音なら低音は控えめになります。
テレビなどの音声でも出演者の声が汚ければより汚く聞こえます。したがって音源の音がそのまま出ているだけのようです。これが以前つけていたような高級ケーブルならあらゆる音が美化される効果があったかもしれません。
高級ケーブルは理屈の上では伝送中に音(電流)が劣化するのをいろいろな手法で防いでいると説明されています。でも実感としてはフィルターのように耳障りな荒っぽい音を除いたり、高音質に聞こえるような癖を与えているように思います。
2ポンドのこのケーブルでは音源の音質が良ければ全く不満はなく、録音の音質やデジタル音源の圧縮が悪ければそのまま悪い音で出るということでしょう。
ともかくCDの録音が良ければ狙った通りの改善が見られたと思います。
QEDのデジタルケーブル
これでもかなりいい結果が得られましたが、さらに欲を出してCDプレーヤーとDAコンバーターの間のデジタルケーブルもQEDのものにしてみました。![](https://stat.ameba.jp/user_images/20210117/23/idealtone/63/46/j/o1280096014883172347.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20210117/23/idealtone/8f/38/j/o1280096014883172419.jpg?caw=800)
はじめに付けていたのはドイツのインアクースティックというメーカーの2000円位のものでした。かつてはモニターPCという名前で日本でも売られていました。現在ではパソコンのモニターと混同してネットの検索結果では出てこないのがブランド名を変えた理由でしょうか。
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QED Performance Digital Coaxial Audio Cableというものです。PerformanceはProfileよりも上級シリーズで5000円以上するものです。これがデジタルケーブルでは一番安いものです。
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理屈上はデジタルケーブルなどは音は変わらないはずです。たまたま3000円位で新品同様の中古品が売りに出されていたので気軽に買ってしまいました。
そんなに変わらないだろうと思ったら大間違いでした。
インアクースティックのものに比べて高音は柔らかくなって希望通りでした。しかし望んだ変化以上に全体的に音が変わってしまいました。スピーカーケーブルでもそうだったのですが、音が空間に響き渡るのがもっと強くなりました。ワンワンと響いて風呂場の様な音になってしまいました。
バランスとしては高音のほうが地味で低音が豊かに伸びています。暖かみのある暗い音になりました。
響きが多すぎるのですが、それは細かなニュアンスまで再現しているわけで録音がはまればコンサートホールのような響きになるはずですが、録音が悪ければワンワンした音になるだけです。
演奏のニュアンスも変わったように感じられます。オーケストラなら指揮者が変わったようです。勢いの良い演奏をしていた人が繊細なタッチに変わりました。デジタルケーブルで演奏のニュアンスまで変わるのですから驚きです。
全体としてはQEDのほうが良いのかもしれませんがワンワンとしてしまうバランスに問題があります。
スピーカーの位置の調整
ケーブルにはエージングが必要だという意見があります。エージングというのは電気を長時間流していくと音がよくなるということです。弦楽器なら弾き込んでいくと音がよくなるのはよく知っていますが電線でもそうなるというのは理屈が分かりません。
はじめに付けたインアクースティックのデジタルケーブルは金属的な音が強くCDプレーヤーを何日もずっと鳴らしっぱなしにしていたら音が少し柔らかくなったような気はします。このまま何か月も使い続ければもう少し柔らかくなるのかもしれません。QEDのほうが柔らかいのですが音がワンワンとしてしまいます。インアクースティックに戻したほうがいいかもしれません。
それに対して他に音を変える方法があります。スピーカーの位置を変えることです。スピーカーの位置はわずかでも動かせば音が変わります。弦楽器の中につっかえ棒として入っている魂柱に似ています。
上下左右3次元で右と左があるので位置は無限です。場所が変わるとすべて音が変わるというのですからどこにしていいかわからないものです。
まず床からの距離はスピーカースタンドを使用しているのでそれで固定としましょう。実は高さを変えることができるものですが面倒なのでいじらないようにしましょう。
左右の間隔を変えてみました。
間隔を広げると空間がクリアーになり広がったようです。狭めると音の広がりがなくなってごちゃごちゃになりワンワンした音がまとまって厚みが出るようです。私の希望はごちゃごちゃにしたかったので前よりも狭めることにしました。
後ろの壁からの距離については壁に近い方が高音が金属的で鋭いようで、離していく方が柔らかくなるようです。同時に空間の響きも豊かになります。ますます風呂場状態になっていきます。あまり壁から離すと部屋も狭くなりますし鋭さと天秤にかけて適当な位置を探しました。
前よりも壁から離した結果音が柔らかくなり、響きも広がったのでさらに間隔を狭めました。
これでバランスが良くなったのでとりあえず音楽は聞けるようになったでしょう。少なくともエージングよりもスピーカーを動かすほうが音の変化は大きいものです。
QEDのデジタルケーブルに換えた直後はワンワンしたようなものだったのが結構カチッとした音になっています。
弦楽器の音を再現?
後はオーディオの事を忘れて音楽を聴けば良いだけです。
コンサートホールの音になったかといえば無理があります。しかし好きな音で音楽が聴けるようなったことは間違いありません。暖かみのある音で豊かに響き渡りクラシックらしい荘厳な響きが楽しめます。小型スピーカー特有のミニチュアサウンドステージは中型スピーカーくらいの感じにはなったでしょう。音楽のニュアンスも伝わってきます。楽譜のリズムを外したようなアドリブもはっきり聞こえます。
協奏曲でヴァイオリンのソロはかなり良い線を行っていると思います。難しいのはオーケストラパートです。
ソロならこの前私が作ったピエトロ・グァルネリ型のヴァイオリンの様な音になりました。
ずっと気にしてきた金属的な音も、モダン楽器にはそんな音のものもあるので間違っているとは言えません。でもオーケストラ全体が金属的な音がするのはおかしいです。
一方チェロではほとんどの人がスチール弦を使っているので金属的な音のほうが良いです。ヴァイオリンの音を柔らかく調整するとチェロでは弱くなりすぎます。
ピアノ伴奏のヴァイオリンソナタではさすがに本当のヴァイオリンの音と同じかというと難しい所があります。録音のマイクが近すぎたりするのかもしませんが音がはっきりしすぎます。子供用の1/2くらいのヴァイオリンのような感じがします。もっと自然に大らかに鳴らなくてはいけません。
更にRCAケーブルもアクロテックからQEDに換えようかとアイデアもあります。さらに風呂場のようになる危険性もあります。
それでも無理ならアンプの交換になりますが、高価になるので手が出ません。
音の変化の難しさ
オーディオでも楽器の調整でも音の変化を感じるのは難しいことです。
私が疑うのは、その変化が相対的なものか絶対的なものかということです。
前と比べて変化した違いにだけ注目していると大きく変わったような気がします。しかし全体として見れば変わったのはわずかのことかもしれません。
このような調整やエージングによって音が柔らかくなったと思って休暇を終えて久々に会社に行って会社のステレオの音を聞くととても柔らかく聞こえました。こんなに柔らかい音だったのかと思いました。
音が柔らかくなったと思っていたのは単に耳が慣れたからかもしれません。
理屈上は基準としてもう一つオーディオシステムが必要です。そちらは常にいじらないでおくべきです。何かをやったら聴き比べるべきです。
楽器でも音を調整する前に、もう一つ別の楽器と弾き比べをしておいて、調整後のものとまた弾き比べるとどうでしょうか?
魂柱を動かして調整したときは同じ楽器の「ビフォーアフター」を比べたのですごく変わったように感じたのが、別の楽器と比べるとやはり元の楽器の音であることに変わりがなかったということに気づくでしょう。
音の調整には懐疑的な見方も必要だと思います。