アマティ派のデルジェズコピーを作ろう【第11回】各パーツの組み立て | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

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クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

デルジェズのコピーですが各部を組み立てていきます。
ここからの作業は修理でも行われる頻度が高い作業が多くなります。
オリジナルのデルジェズも一度は分解されて組み立て直してあるでしょう。

組み上がった姿も画像で紹介します。






こんにちは、ガリッポです。


デルジェズのコピーですがスクロールができましたので組み立てていきます。組み立ての精度はオリジナルを忠実に再現するというのではなく、修理のようにきっちりとした品質でやっていきます。古い楽器の音が良いとしても修理の人が確実な仕事をした部分が少なくありません。


アマティ型のビオラの時と同じで弦楽器の製作は膨大な作業によって成り立っています。ブログで紹介するには面白味のないような作業が山ほどあるのです。


根気のいる作業によって徐々に姿が出来上がってきます。



バスバーから

表板の内側にバスバーを取り付けます。オリジナルはバロックヴァイオリンですので現在のものとは違います。今回はモダン仕様なのでオリジナルとは違う現代のものを付けます。

バロックヴァイオリンで重要なのはバスバーでよくモダンヴァイオリンにバロック駒をのせ裸のガット弦を張っただけのものを使っている人がいますが、音にとって重要なのはバスバーです。必ずバスバーもバロック用に変える必要があります。ネックや指板などは演奏上の問題で音についてはさほど重要ではありません。モダンヴァイオリンの演奏感で音だけバロックにしたければネックはそのままでバスバーと駒と弦を交換するのも手です。バスバーがモダンのものだと力のバランスが取れないので耳障りなひどい音になるでしょう。



話を戻しますが、新しい楽器の場合どうしても最初からは鳴らないので何かパンチのある音にできないかと考えるわけです。しかしながら、普通に作ったものでも私が過去に作った楽器でなかなかいい音になってきているものもあるので普通でいいのかなと思います。パンチのあるものが欲しい人は作られて50~100年くらい経っている古い楽器を買ってください。

それでもバスバーの高さや厚みなどちょっと思うところがあるのでやってみます。
結果がうまくいけばいずれ手法として確立するでしょう。その時は報告します。

このように小さなカンナで削りながら表板の面に合うように加工していきます。


表板にあてがってみてあっているかどうか確かめながら作業をします。一か所削ったら確認して出っぱっているところを見つけて、一か所削ったらまた確認です。


真ん中は接地していて両側に行くにしたがって間隔が広がっていきます。


合っていないものを無理やり押し付けると表板のほうが変形します。
変形すると見苦しいので安い楽器ならその後表板の表面を削ってしまうという手もありますが、将来バスバーを交換するときにバスバーのついていたところがくぼんでいるわけです。


にかわでしっかりと接着します。修理などで表板を開けると先端が外れていることもあります。


くっつきました。高さを加工します。

滑らかなカーブにしてあると後で開けたときにうまい職人が付けたんだなと思います。加工が荒ければ職人に信用が持てません。古い楽器に下手なバスバーが付けられていた場合、他の箇所の修理も疑わしくなります。

指板とネックの加工

指板の加工は演奏上とても大切な部分です。大量生産品でもここだけは仕入れたときに必ず手直しが必要になる部分です。

指板はこのようにある程度まで機械で加工されたものが売られています。材質は黒檀です。8年前に購入したものです。黒檀も天然の木材なのでヴァイオリンを使用しなくても置いておくだけで変形することがあります。どっちに変形するかは運としか言いようがないです。

内側もこのように機械で加工されています。

まず裏側の平面を出します。ネックとの接着面になるところで他の部分の基準となるところです。

次に両サイドを加工します。

指板の幅=ネックの太さが決まります。


厚みとカーブを加工します。

直線定規を当てて確認します。中央がわずかにくぼむようにします。
カンナがうまく調整されていれば自動的に仕上がります。
ニスが塗り終わった後に指板を張り付けるので最終的に仕上げるのはその時にします。接着するときに少し狂うからです。

指板は使っているうちに摩耗してすり減ってきます。弦には金属が巻いてあり、それを押しつけるからです。よく練習しているかは指板を見ればわかります。指で押さえるところがくぼんでくるので削りなおす必要があります。



内側は余分なところをくりぬきます。

そんなにきれいにしなくてもいいですが、きれいに仕上げるのが私にとっては普通です。


ネックの長さを決めます。これも重要です。短くしすぎたらネックを継ぎ直さなければいけません。

指板を仮につけます。ニスを塗るときには外します。

胴体との接合部分を加工します。裏板のボタンの幅と一致するようにします。この後カンナで仕上げます。

このノミは日本製ですが、西洋のスタイルをまねて作ったものです。おそらく靴を作るときの木型を作るためのものでしょう。夏にイタリア人の職人と一緒に働いたとき切れ味にびっくりしていました。日本でも今では靴の木型なんて作っていないでしょう。

胴体の組み立て

胴体を組み立てていきますがビオラの時と同じです。

デルジェズがアマティやストラディバリと違うのはブロックとライニングの素材がスプルースでできていることです。アマティとストラディバリは柳でできています。まあ、どっちでもいいわけです。
ただし加工はグッチャグチャなので荒々しい感じにします。もちろんこれはダミーであって品質に関係ありません。表面的には汚いですが中はしっかりと接着されています。

内側は着色します。古い感じを出すためです。ただし木の呼吸を止めないことがポイントです。

色がつくとこんな感じになります。古い感じがしますね。

ラベルを貼って表板を付けると胴体の完成です。

ネックの取り付け

終盤に行くにつれて作業は修理と共通することになってきます。バスバーを交換して表板を接着すること。新しい指板を用意し、ネックを取り付けること。新しいペグを取り付けること。駒と魂柱を合わせて弦を張ること。これらは音や演奏に重要な部分です。

修理をするためには新品の楽器が作れないとダメと言うことですし、修理によって数をこなすことも重要です。音や演奏のしやすさなどについて演奏者と直接コンタクトを持つ経験が重要です。
修理と製作は両方とも重要で両輪であると言えます。


今回もモダン仕様ですから、胴体に溝を入れていきます。

ここにネックをはめ込むわけです。


この時3方向の傾きとネックの長さと角度をすべて正しくする必要があるとともに隙間なく密着するように加工する必要があります。

こういう作業は正確さが求められる基本的なものです。デルジェズの楽器では後の時代の人が修理してあるのですが、新品の楽器を買ってすぐに修理に出すのはどうでしょう?現代においてはやはり正確に加工できない職人のものは問題があります。


裏板のボタンには黒檀の王冠と言われるものを付けます。
これは修理の時にオリジナルのボタンが損傷を受けている場合に施すものなのですが、オールドイミテーションの一環として取り付けます。

サイズを設計します。

裏板のほうにも正確にけがきます。

裏板のほうを正確に加工し、黒檀のほうをそれにピッタリ合うように加工します。これはちゃんとやるととても難しい作業です。ぴったり合っていないとポロッと取れてしまいます。

くっつきました。この後丸く加工します。


ネックを接着する前に表板や裏板のエッジも加工しておきましょう。作業がしやすいからです。





ネックを正しい太さに加工した後胴体ににかわで付けます。

ヴァイオリンらしくなってきました。

ネックはやはり持ってみて手になじむように最終的に仕上げます。


これもきれいに加工するのはとても難しいです。

黒檀の王冠がついているかいないかにかかわらず、安価な量産品でボタンがきれいな丸に加工されていることはまずありません。新しい楽器でここがきれいなら腕の良い職人が作ったものだとすぐにわかります。修理で王冠を付けたのならもちろん修理の腕が分かります。古い楽器では摩耗したり修理によって削られたりするので原型をとどめていません。

組み上がりました



裏板は弱く着色してあります。これくらいでニスを塗るとちょうどいいくらいになります。おそらくデルジェズは板を着色していなかったと思います。なぜかと言うと着色するのはとても難しいからです。ストラディバリと同じ部屋で見たときに明らかに色が違いました。ストラディバリも若い時のものは着色していないようでしたが、黄金期のものはしっかりと色がついているように見えました。しっかり色がついたものを再現するならもっと濃い色にする必要があります。私が見た父親のフィリウスアンドレアは下地が黒くて染めてあったと思います。

ただし木が古くなると黒くなってくるので気持ち薄めにしておきます。ブーベンロイトなどの量産品は人工染料でものすごく強く染められていますが私がやっているのはそれらとは全くニュアンスが違います。アンティーク塗装で大事なのは手法ではなく微妙な色の加減なのです。アンティーク塗装のようにニスが一色ではなくいろいろな色がある場合カエデは染めないと杢のコントラストのほうが小さくなりすぎてしまいます。フルバーニッシュで鮮やかなオレンジ~赤色を出すには染めないほうが良いこともあるでしょうが、アンティーク塗装で染めないとおよそ古い木には見えなくなります。大事なのは微妙な色の加減です。

形はいかにもデルジェズというものですが、アンドレア・グァルネリのような雰囲気も感じるのでこれを選びました。

晩年のものほど激しくはありませんがf字孔は左のほうが長くて斜めになっています。一般にガルネリモデルとして作られるのはもっと大げさなものが多いです。わざとらしくしないのが今回のテーマです。それでもどう見てもグァルネリのコピーだとわかります。

この後ニスを塗っていくわけですが、エージやコーナーなど摩耗している部分も再現していきます。