弦楽器の知識 超基礎編のまとめ 後編 | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

前回、「名器とは普通の楽器が古くなったもの」と説明しました。

今回は超基礎編で取り上げたこれ以外のことについてまとめます。



こんにちは、ヨーロッパの弦楽器店で職人として働いているガリッポです。

大量生産品とハンドメイドの高級品

私は製造技術や楽器の構造と経済性の観点から大量生産品を見ていきます。
したがって、たんに「大量生産品」というだけでバカにしたり、有名な作者のハンドメイドというだけで崇拝したりしません。
大量生産品でも作りに問題が無ければ良い音がする可能性は十分にありますし、作者が有名でもそれは単なる知名度にすぎず、作りに問題があれば量産品にもかなわないということはこれも十分あり得ることです。

そのことと、値段とはまた別の話になります。


大量生産品は値段を安くするために様々な製造工程で安上がりな方法を用いています。
安価な楽器を大量に販売する事業モデルとして成立します。

中古市場に出回った時、もともと安価だったものが大量に出回っているわけなので希少性がなく値段は高くなりません。

これに対して一つ一つ手作りで作るハンドメイドの高級品は数が少なくとくに古いものほど希少です。
もともと作るのに1か月~2か月くらいかかるわけですからその分の工房の維持費と材料代、生活費がかかるうえ、販売店に卸すとさらに倍以上の値段になります。

大量生産品よりずっと高価で作られる量が少ないため希少性があり、中古市場では大量生産品よりも高い値段になります。


ここで問題になってくるのは、大量生産品とハンドメイドの高級品と見分けがつくかという点です。
仮にハンドメイドだったとしても、品質が悪かったり大量生産品と同じ製造法やニスを用いていると「どっちかな?」ということになります。
また大量生産品でも比較的品質の良いものもありますからハンドメイドでも並みの品質では見分けがつきません。

楽器の中に製造者の名前の書かれたラベルが貼られるわけですが、偽造ラベルを張ることは簡単でいくらでもできますから全くあてになりません。


そこで大量生産品では決してできないほど高い品質で楽器を作った上に大量生産には用いることのできない質感のニスを使用し、さらにマネしにくい焼印など目印をつけることで高級品であることを確実にすることができます。

「音が良ければ何でもいいんだ」と音楽家の人は思いますが、品質の悪いハンドメイドの楽器は第三者の専門家からは安価な量産品とみなされてしまうかもしれません。
逆に品質の良い楽器なら、さまざまな職人や専門家に楽器を見せるたびに「いい楽器ですね~」と言われ続けます。
そしてますます愛着がわき使い込んでいくことで音が良くなっていきます。



これまでも詳しく紹介してきました。

弦楽器の知識 超基礎編【第6回】独創性って大事なの? 「職人の仕事」の魅力について
弦楽器の知識 超基礎編【第9回】値段について
弦楽器の知識 超基礎編【第12回】安い楽器のニスはプラスチックなの? ニスの材質について

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これは私が作ったヴァイオリンですが、渦巻きの部分は音に影響はないので作業の手間を省きたいとき真っ先に簡略化されるところです。
大量生産品で美しく仕上げられていることはほぼ100%ありません。
ハンドメイドの楽器でも美しく仕上げられているのは限られています。

もし渦巻がきれいにできているのなら、その楽器は間違いなく優れた職人による高級品であるとわかります。
音には関係ないですが、品質の良さを示す事実上の鑑定書といっても良いかもしれません。

高価な楽器の中にもいい加減な渦巻きの楽器はたくさんあるので手を抜いて作った渦巻きだからといってすべて安物とは言えません。

しかし、美しい渦巻で安物というケースはめったにないということです。
もちろん胴体の作りも見るわけですが、渦巻きだけきれいで胴体が粗悪というケースもまずないですよ。


さらに加えると私の場合には16~17世紀のアマティの渦巻きをベースにしています。
古い楽器をよく研究している作者だとわかる人が見ればわかるかもしれません。





ビオラやチェロの場合


ヴァイオリンに比べ演奏する人が少ないビオラやチェロは生産数も少なく市場に出回っている量も少ないです。

ビオラには大きさが様々あるという事情や、チェロでは生産コストが高く故障しやすいという事情もあります。

これらについても紹介しました。
弦楽器の知識 超基礎編【第7回】 ビオラは大きいほど低音が出る? ビオラの大きさについて
弦楽器の知識 超基礎編【第8回】チェロの超基礎

弦楽器を趣味として楽しむ

そのほかに、買ってしまったらそれで終わりというのではなく弦楽器について良く知ったり、音を調整したりしてより楽しむ方法を考えてみました。

弦楽器の知識 超基礎編【第11回】弦楽器にこだわりをもって楽しむ方法
弦楽器の知識 超基礎編【第13回】音の調整や改善について

このブログで弦楽器について興味深い知識を週に一度くらいのペースで更新していきたいと思っています。
皆さん応援があればよりやる気も増してきます、どうかよろしくお願いします。


私の言葉の表現力がそれほど達者ではないので、わかりにくかったり回りくどかったり、話がすっとんだりするかもしれません。
もし言葉が達者であれば、職人としてではなく詐欺師のような商人として活躍できるわけですから、そのあたりは暖かく見守ってもらえたらと思っています。


次回は超基礎編の最終回として、このブログの根幹ともいうべき「天才説の否定」についてもう一度まとめてみます。

皆さんに大前提となる基礎がわかってもらえれば、おもしろい話も断片的なことについても触れていくことができるようになります。

お楽しみに。