つまり、それまで人々が心の中で望んでいたり、思い描いていたりしたものに近い雰囲気をもつた存在がポーンとどこからか現れると、大衆はそこに飛びついて信仰や崇拝の対象にしてしまうということだ。
そして、新しく現れた存在は、新参者でありながらも背後に物語性を帯びた、強力なシンボルとして君臨する。権力者を欲する者が、過去の英雄と身体的特徴を共にしようとする傾向があるのも、こうした理由による。
こうした複合的なシンボルの最たるものが「サンタクロース」である。
4世紀頃の東ローマ帝国小アジアの司教である聖ニクラウスの伝説、さらに遡ればサトゥルヌス(あの、ゴヤの怖い絵で有名なやつですね)信仰の習慣が、その原型といわれる。
売り飛ばされそうな娘の家の煙突に金貨を投げ入れ、それが暖炉に干してあった靴下に収まって救う話や、悪どい肉屋の夫婦に殺された三人の子供たちを再生させる話などが、聖ニクラウス伝説として残されている。
キリスト教会の拡張とともに、こうした伝説がキリストの生誕と結びついていく。
正教会系の国では、聖ニクラウスの祭日である12月6日に、子供たちにお菓子のプレゼントをするという風習も生まれた。
遠藤薫(2009)「聖なる消費とグローバリゼーション」によれば、聖ニクラウスは、共同体の力が最低となる冬至の季節に登場し、子供たちに「再生」のエネルギーを与える存在。
恐らくは、その年に亡くなった子供たちへの哀悼と新年に向けての共同体的訣別を図った祭の司祭だろう。
もともと欧州文化の古層にあった伝説が習合した結果、「老賢者的な聖人がキリスト生誕の日に突如現れ、子供たちに贈り物をして去っていく」という現在の形に収斂されていったのである。


