「伊右衛門」10年めへの物語とは? | 不況になると口紅が売れる

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サントリー「伊右衛門」トクホのCM。


http://www.suntory.co.jp/enjoy/movie/viewer/food_normal_hd.html?hd=608184970002&sd=608182767002



京都・福寿園との提携で開発されたサントリーの「伊右衛門」も、来年で発売開始10年となる。


なんといってもそのブランディングは見事であり、物語マーケティングの典型的成功例として採りあげさせていただいたこともしばしば。


「伊右衛門」ビジネスにおいては、次の3つの物語が同時並行で流れていた、といえる。


・サラリーマンの孤立化 →「仕事のできる夫」を自慢する妻の物語

・製造業の地盤沈下 →日本流「ものづくり」を復権させる物語

・撤退寸前だった緑茶事業 →新製品による鮮やかな逆転1位の物語


もちろん、京都で江戸時代っぽくて、日本の伝統的な雰囲気を醸し出す演出(物語広告)も重要な要素とはいえるが、それだけではない。

当時(今でもさほど変わらないが)の日本人サラリーマンが感じていたジレンマを解消し、溜飲を下げる物語の展開が、このブランドの支持層を増やしたのである。


さらにパッケージデザインにも、物語が内包されている。

「伊右衛門」のペットボトルは「竹筒」なのだが、わずかに中央がくびれている(自販機用は別)。

これは、女性性・母性性の表現であり、支えてくれる妻のメタファーである。

なぜか「大事な会議の前にペットボトルを買って臨むことがある」というヘビーユーザーの消費行動から発見したインサイトは、「大人の哺乳瓶」というキーワードであった。


こうしたブランドづくりによって「伊右衛門」は、密かに日本人サラリーマンの「イコン」となった。

1990年代のイコンが「アサヒスーパードライ」だとすれば、2000年代のイコンは、この「伊右衛門」だろう。


しかしその後、こうしたブランディングの殻は徐々に破られ、

・海外展開 →IEMON CHA

・JAPAN ESPRESSO

といった遠心力が強く働き始めることになる。

日本人がせっかく「自分たちの良さ」を再発見したのに、それを海外に自慢し始めるような展開である。

(わが国の歴史では、常にこうした失敗が生じるんだよなあ…)


そして今回の「トクホ」。

「伊右衛門」ブランドのライン拡張という意思決定は、販売戦略的には正しい選択かと思う。

(9/28発売で、飲料部門いきなり1位)

現在のまま放置していたらジリ貧という判断もあろう。

しかし、これまで10年間構築してきたブランドの世界を壊しかねない措置でもある。


広告の最後のシーン。

タレントの本木雅弘が「バラ、バラ」と語る。

これはもしかすると、「伊右衛門」ブランドのやってることが「バラバラ」だとする、クリエーターの密かなる反抗メッセージなのかもしれない。


ともあれ、生き馬の目の抜くこのソフトドリンクの市場を10年間守り続けたこのブランドが、今後どのような展開をみせるのか、注目していきたいところだ。




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