越境財 | 不況になると口紅が売れる

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 物語の最初のシーンは「越境」である。

 では、越境財とは何だろうか?

 例えばサントリーでは、泡の出るチューハイ「AWA‘S」の開発において、ビールの「クー!プハー!」は、仕事モードから宴会モードへのスイッチのための大事な言葉だということを発見したという。

 「とりあえずビール」をバカにしてはいけないのだ。「とりあえずビール」は、同席する他者と同じものを飲むことで一心同体意識をつくるためのイコンであると同時に、出席者自身のモードを転換するために必要不可欠なイコンなのである。つまり「個人→共同体」への越境、「仕事→宴会」への越境という、ふたつの儀式を同時に成立させるものが「とりあえずビール」とういわけだ。

 もっとも最近は、この「とりあえずビール派」が激減したといわれる。単に若い人たちの嗜好の変化だけがその理由というだけではなく、もしかすると、社内の人間関係やワークスタイルとも深いかかわりがあるかも知れない。


 越境財は、主人公が新しい旅に出るきっかけをつくる重要なアイテムであるが、主人公としては偶然それに出会ったり、あるいは強制的に押し付けられたりするものである場合が多い。つまり、受け身型の消費である。ただ、受け身でありながらもそれを受け入れたということは、ある意味で、主人公=消費者の潜在的欲求を表わしている、ともいえよう。

 消費者を別モードに転換させるようなタイプの商品、例えば「化粧」「自動車」「風呂」「ドリンク剤」などは、越境財の一種といえる。これらには、消費者による「儀式的関与」が発生しているはずである。そこらあたりが、こうした商品群のマーケティングのポイントになると思う。