映画館の醍醐味とは、たまたま同席した赤の他人同士が、同じ場面で笑い、同じ場面で泣くところにあるとも言われる。つまり物語は、同じ価値観を共有する人の存在を確認するための手段なのである。このように、物語には人々の価値観がバラバラにならないように、結びつける機能がある。民俗学や人類学の視点からも、人々のアイデンティティの仲立ちをする物語(特に神話)の重要性についての指摘がある。
今日、興味・関心を共有するコミュニティが、「濃い」消費を促進しているといわれる。それはネットに限らず、広い意味のコミュニティである。そしてその中心にあるのは物語だということもできる。
例えば、同じ赤いユニフォームを着て「浦和レッズ」を応援する人たちは、自分たちの声援や祈りによってチームが勝利し、美酒に酔いしれるという物語を共有している。「クラブツーリズム」の会員で、シルクロード旅行の企画を自分たちで練り上げ、ツアーに行く人たちは、中国4000年の歴史ロマンという物語を共有しているわけだ。
確かに、地域社会の崩壊などにより、消費者はデモグラフィック特性にとらわれない、個別の消費性向を強めているかも知れない。しかし昨今の状況をみると、むしろ消費者が個別化したからこそつながりたいという欲求が芽生え始めている、と考えたほうが実のある議論のようである。
そして、一度寸断された関係をつなぐためには、何らかの精神的支柱、すなわち物語の共有が必要条件なのだ。よって、こうしたタイプの消費を成立させるためには、消費者同士をつなぐ物語が不可欠だと思われる。