遠いデザイン 18-3
ガードレールの道沿いにコンクリートの階段があった。七瀬は真下を走る国道伝いに駅まで戻ろうと、まだ新しい階段を下りていった。雨雲が切れだして、いつくもの陽光が筋となって家々の黒く湿った屋根を輝かせていた。米軍の跡地にできた大きな公園に目をやると、露光りする緑の芝生に点在している人影まで見えた。
国道に出ると公園を囲むように新しいマンションがいくつもできていた。高台の道沿いにも、なだらかに駅へ下る傾斜地を造成して新しい住宅が建ち並んでいた。裏通りにあった古い商店や飲食店などが二層式の駐車場に姿を変えていた。
この国道沿いの風景も、七瀬がいた頃とはすでに違う表情をまとっていた。そこには未来の希望を見いだそうとする人たちの生活にあふれていた。下校途中の小学生は、日々この街に自分たちの居場所を広げ、若い主婦たちが路上で交わしあう挨拶は、新しい言葉を求めて澄んで響いた。雨傘を畳んで軽やかになった足どりが舗道のいたる所に水しぶきを光らせていく。
そんな人たちと入れ替わるように一つの役割を終えた老人たちの姿も、また目についた。老いた妻を座らせた車椅子を押している老人がいた。二人は言葉を交わすこともなく前を見つめ続け、車輪を伝う鋪道からの振動に身を委ねている。
七瀬はこの老夫婦とすれ違った時に、この街に来た一つの意味を見いだしたような気がした。二人の目はもう遠くを見ていないが、近くだけを確かめ歩くその目には少しの迷いもない。
駅につながる商店街の入り口までくると、大学生の姿が目についた。信号機を待つあいだも、彼らのからだはひそまることがない。友人たちとしゃべりあいながらも、一つ先にある季節の胎動をそれぞれの目に映しあっている。彼らも、また以前の七瀬と同じようにこの街に選ばれた者たちだった。
七瀬は交差点の車の流れを隠すたくさんの揺れ続ける背中の後ろに立った。自分をこの街に溶けこませてくれるものが何一つ見つけられなくなっていた。積み重なっているはずの時間の痕跡がどこにもなかった。そんな寂しさの中で、彼に近づいてきていたものの気配も消えていた。
七瀬はあの坂道と自分のアパートのあった高台を思い浮かべた。それは、今し方、目にしてきた風景とは思えないほど、すでに遠いものになっていた。
もう、あの電話はかかってこないだろう……。
七瀬はポケットの中のケイタイを握りしめた。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
14年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。